「小説の取扱説明書」~その48 書くべきものとの出会い
公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。
第48回のテーマは、「書くべきものとの出会い」です。
葉室麟さんは時代小説が転機
直木賞作家の葉室麟さんは40歳になったとき、純文学の賞に応募し始めましたが、2次選考より先に進めず、一度は断念しました。
しかし、50歳になったとき、やはり何か書き残したいと時代小説を書き始め、『乾山晩愁』で歴史文学賞、『銀漢の賦』で松本清張賞、そして『蜩の記』で直木賞と受賞します。
時代小説との出会いが、作家としての転機となったわけです。
それなら最初から時代小説を書いていればよかったかというと、そうとも言いきれません。純文学は文章が下手だったらどうにもなりませんから、それを目指したことで文章力がついたのかもしれません。
山田詠美、角田光代、島本理生など、純文学でデビューしてエンタメも書くようになった人は文章も一流のうえに娯楽性まであり、まさに鬼に金棒という気がします。
すんなり壁を越える人も
時代小説や推理小説は、最初から挑戦するのはハードルが高い気がします。
いやいや、そうでもないよと言う人もいるかもしれませんが、エンタメはそのジャンルについては相当の知識と人生経験がないと書きにくい気がします。十代の純文学のように半径3メートルの日常を書いて終わりというわけにもいきませんから。
エンタメこそ大人の文学なのです。
加えて言うと、「時代小説や推理小説など、私に書けるわけがない」という先入観がある場合もあります。時代小説は歴史の知識が必須ですし、推理小説は謎が理論的に解けるように仕立て、別解は許されません。だから、「私でも書けそう」にはならず、「私に書けるはずがない」と思ってしまうものです。
今は一億総書き手といった時代ですが、作者と読者の間には本来相応の壁があるものです。
ところが、書いてみたら、案外書けたということが起きたりします。
『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』をヒットさせた太田紫織さんもそうで、ミステリーは子どもの頃から好きだったが、書いたのは40歳前後でした。
なぜもっと早く書かなかったかという質問に対して太田さんは、まさか自分に書けるとは思っていなかったと公募ガイドの誌上で答えています。
ターニングポイントは突然訪れる
ただ、誰でも「書いたら書けた」となるわけではなく、そうなるには条件があります。
まずは筆力。これは基礎体力のようなものです。
次に物語力。小説に限らず、いろいろな物語が体に叩きこまれていて、「この設定だったら普通こうなるよね」の「普通」がわからないとつらい。
最後は人生経験を含む最低限の知識。これには小説に関する知識も含まれます。
もう一つあります。それは自分が書くべきものとの出会いです。葉室麟さんの場合は、それは時代小説でした。太田紫織さんの場合はミステリーでした。
すべての作家が、どこかの段階で「これが私の書くべきものだ」と気づくターニングポイントがあります。
探し方はありません。書いていると、ある日、突然、気づきます。
だから、書くしかないんです。
(ヨルモ)
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ヨルモって何者?
公募ガイドのキャラクターの黒ヤギくん。公募に応募していることを内緒にしている隠れ公募ファン。幼馴染に白ヤギのヒルモくんがいます。「小説の取扱書」を執筆しているのは、ヨルモのお父さんの先代ヨルモ。