「小説の取扱説明書」~その32 小説は嘘の話ではあるが~
公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。
第32回のテーマは、「小説は嘘の話ではあるが」です。
「こんなの、あり得ない」は書かない
小説には嘘を書いてかまいません。
というより、基本的に小説は嘘の話です。
日本には私小説という実体験を書くジャンルもありますが、それでも小説ですから、実話をベースとした嘘の話と考えてください。
しかし、嘘はかまいませんが、いかにも嘘っぽいという話はいけません。
「変だな、こんなの、あり得ない。不自然」と思われてはだめということですね。
たとえば、極端な話、以下のようなことは、事実を知っている人からすると変ですよね。
〈小田原駅から新幹線「のぞみ」に乗った。〉
新幹線「ひかり」「こだま」は小田原駅に止まることはありますが、「のぞみ」は止まりません。なんらかの特別な事情があれば別ですが、だったらそれは書かないといけませんね。
同様に、〈小田原駅を出て一時間後、大阪駅に着いた。〉もおかしいですね。
これが近未来小説で、飛行機より速い乗り物があるというのなら別ですが、何も書かれていなければそうだとは思いませんから、「そんなはずない」と思ってしまいますね。
小説は、どこか作者と読者の合作というところがあります。
読者は作者の嘘に一生懸命付き合おうとするのですが、それも程度次第。「これはいくらなんでもリアリティーがない」と思った瞬間、急に素に戻り、覚めてしまうんですね。
いったん作中に引き込んだ読者を元の世界に戻さないためにも、本当とは思えないことは書かないことです。
荒唐無稽な嘘でも「ありそう」と思えればいい
「あり得ないこと」「不自然なこと」には、こんなことも含まれます。
〈中年のおじさんが女子高生に声をかけると、「一緒に旅に行きたい」と言った。〉
〈クリスマスにサンタクロースがやってきて、欲しかった人形をくれた。〉
〈夜中に爆音がして窓を開けると、落下物の中から火星人が出てきた。〉
中年のおじさんの例については可能性はゼロではありませんが、かなり低い。
それを強引に通すと、作者がストーリー上の都合で話を作っていることがバレてしまいます。
もちろん、作者は事実、話を作っているわけですが、それをうまく隠し、いかにも自然に語られているふうを装わないといけません。
日本庭園とちょっと似ていますね。人工的な手によって自然を模して、自然そのものに見せるわけです。
うまく作れば、読者は進んで騙されてくれるものです。
(ヨルモ)
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公募ガイドのキャラクターの黒ヤギくん。公募に応募していることを内緒にしている隠れ公募ファン。幼馴染に白ヤギのヒルモくんがいます。「小説の取扱書」を執筆しているのは、ヨルモのお父さんの先代ヨルモ。