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「小説の取扱説明書」~その36 深い小説にするには?~

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作文・エッセイ
小説の取説

 

公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。

第36回のテーマは、「深い小説にするには?」です。

今回は、深い小説の例として、平野啓一郎『マチネの終わりに』を使います。未読の方はご注意ください。

「未来は常に過去を変えている」けだし名言!

小説を読んで、「ひたすら痛快だった」「しみじみと泣いた」となるのもいいですが、ものの見方、考え方について目からうろこが落ちて「言われてみればそうだ」と思う瞬間ほど、小説を読んでよかったと思わされるときもありません。

人間として一段グレードアップしたような感じです。

平野啓一郎『マチネの終わりに』は映画化もされているので、知っている人も多いと思いますが、あらすじを記すと……。

槙野というギタリストと洋子というジャーナリストが知り合います。洋子には婚約者がいましたが、槙野に求婚され、洋子はその答えをもって日本に帰国します。

しかし、そこである事件が起きて二人はすれ違い、別々の人生を歩む……。

洋子には、子どもの頃、庭先の大きな岩の上で、木の実などを並べてままごとをしたという思い出があります。彼女はそれを懐かしい良き思い出と思っていましたが、後年、祖母がその岩のそばで転んでしまい、頭をぶつけて命を落とします。

それで、懐かしい思い出の岩が、祖母の命を奪った苦い思い出の岩になってしまう。

そのとき、主人公の槙野が洋子に言います。

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです」
(平野啓一郎『マチネの終わりに』)

まったくそのとおりですね。

事実はひとつでも、現在の立場から見ると、事実はさまざまな見え方をする。

誰でも思うことでもありますが、しかし、それだけにそれをきちんと言葉にして顕在化させた能力は並大抵ではないと思うのですね。

生き物と食べ物の境目は?

『マチネの終わりに』の中には、もうひとつ印象的なエピソードが出てきて、それは本筋とはあまり関係ないせいか、映画には出てこないのですが……。

ある女性はしじみを取材した折、それを持って帰る。普通は食べるが、なんと彼女はペットとして飼い始めてしまう。しーちゃんとか名前をつけて。

外出する際もペットを連れている人がいるが、彼女も同様にいつもしーちゃんたちを連れている。そんな折、鍋パーティーがあり、しーちゃんのことを知らない人がしじみを鍋に入れてしまうんですね。

かわいいしーちゃんを殺された彼女としたら、「この人殺し、いやしじみ殺し。私のしーちゃんを返して」って泣き叫ぶのも道理です。

周囲も慌ててしーちゃんを救出しようとしますが、ネギとかがひっかかってうまく取れない。いやいや救出って相手はしじみだよと笑ってしまうようなエピソードですが(小説の中でもばか話として紹介されています)、腹をかかえて笑ったあとに、

「生き物と食べ物の境目ってどこだ?」

と考えてしまうのですね。

よく、縁日で買ったひよこが鶏になり、それでも「ピーちゃん」なんて呼んでペットとして飼っていたが、ある日、家族で鶏鍋を食べて……。以来、鶏肉が食べられなくなったという話を聞いたりします。

あるいは、大岡昇平の『野火』には、太平洋戦争のときの南方で、“猿”と称して飢えた日本兵が人肉を食べたという実話が出てきます。

「生き物を殺して食うなんて残酷な、まして人を」と思うかもしれませんが、これと同じことが日々、行われているわけですね。かといって、動物は光合成をできませんので、誰かの体を摂取するしか生きるすべがありません。それが宿命というか、原罪というか。

もちろん、ベジタリアンも同罪です。植物にも命はありますから。

……なんてことをつらつらと考えてしまう。

こうしたものがあると、単なる面白い話を脱し、深い小説になってくれるのですね。

(ヨルモ)

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ヨルモって何者?

公募ガイドのキャラクターの黒ヤギくん。公募に応募していることを内緒にしている隠れ公募ファン。幼馴染に白ヤギのヒルモくんがいます。「小説の取扱書」を執筆しているのは、ヨルモのお父さんの先代ヨルモ。