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ヨルモの「小説の取扱説明書」~その29 小説に必須のもの その2 場面~

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作文・エッセイ
小説の取説

 

公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。

第29回のテーマは、「小説に必須のもの その2 場面」です。

場面とは時間と空間のこと

小説には場面があります。場面と場面をつないでいった先に一つの作品があるといってもいいです。それは誰もがわかっていることだと思いますが、ところが、いざ書こうとすると場面が立たず、あらすじ小説のようになってしまうことがあります。

悪い例として、夏目漱石の『坊っちゃん』をあらすじ小説にしてみましょう。

 坊っちゃんは親譲りの無鉄砲で、ケンカの絶えない乱暴者だった。家庭でも厄介者扱いで、父からは目をかけられず、母は兄ばかりをかわいがっている。その両親が他界した。坊ちゃんは兄から好きに使えと六百円を渡され、物理学校に進学した。無事卒業した坊っちゃんは、松山の中学校に数学教師として赴任した。そこで、その学校の教師たちに、赤シャツ、山嵐、野だいこといったあだ名をつけた……(後略)。

 

あらすじ小説ですから、筋はわかります。

しかし、出来事は立っていません。坊っちゃんはどんな感じの人物で、いつ、どこに行って、そこで会った人との間にどんな出来事があって、そのときはどんな気持ちだったのか、どんな雰囲気だったのか、舞台となった空間はどんな様子だったのかといったことは何もわかりません。

なぜそうなってしまうのかと言うと、あらすじの文章は説明だからです。

概略はまとめてありますが、そこには場面はありません。

場面とは、時間と空間です。それが表現できなければ、そこで起きた出来事をありありと伝えることはできません。

では、その場面は、どう書けばいいでしょうか。

過去に立ち返り、過去を現在として書く

あらすじ小説を書いてしまう人は、原稿を書いている現在の視点から、出来事が起きた過去を振り返るように見ています。これだと、遠景を見ているようで、場面が遠いんですね。

場面を立てるには、出来事が起きた過去に立ち返り、まさにその場に立っている視点で、見たもの、聞いたものを写生していく。過去に立ち返り、過去を現在として書く。

この「昔あったことを、今起きているかのように書く」のは、小説の基本中の基本です。

 その時、傍らで水飛沫があがった。
 川面をかすめて小さな物が二、三回飛び跳ねていった。
 ――石か
 庄三郎はあたりを見回した。上流の丸木橋の上に前髪の少年が立っている。
 木綿の着物に色褪せてはいるものの袴をつけているところをみると、侍の子だろうか。
「こら、危ないではないか」
(葉室麟『蜩の記』)

川辺での出来事が紙の上に立ち上がってくるようです。

なぜでしょうか。主人公の庄三郎の目を働かせて、「水飛沫があがった」「二、三回飛び跳ねていった」「前髪の少年が立っている」「木綿の着物に袴」「侍の子だろうか」と情景をとらえ、それを過不足なく写しているからです。

目を働かせて、出来事が起きた空間を書く。すると、見たものが読者の頭の中で次々と立ち上がっていきます。これができれば場面が立ってくるはずです。

(ヨルモ)

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ヨルモって何者?

公募ガイドのキャラクターの黒ヤギくん。公募に応募していることを内緒にしている隠れ公募ファン。幼馴染に白ヤギのヒルモくんがいます。「小説の取扱書」を執筆しているのは、ヨルモのお父さんの先代ヨルモ。