ヨルモの「小説の取扱説明書」~その28 小説に必須のもの その1 描写~
公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。
第28回のテーマは、「小説に必須のもの その1 描写」です。
一元描写は岩野泡鳴によって提唱された今なお続く作法
小説には、こうでなければいけないという決まりはありません。何をどう書いても自由です。しかし、何はなくてもこれだけはというものが三つあります。
描写、場面、リアリティーです。
今回は、この中の描写について説明していきます。
近代文学の創成期、田山花袋は平面描写という方法を提唱します。カメラで写すように目に映ったものを一つ一つ書き写していく手法です。
それも一つの手ですが、目に映ったものをすべて書いてしまっては文章量が多くなり、話の筋と関係ないものまで書いてしまうことになります。
これに対して岩野泡鳴は一元描写を提唱します。
一元描写は、主人公なら主人公一人の知覚を使って書いていく手法です。「一元」ですから、情景を映すカメラは一つしかなく、しかも、主人公の心に引っかかったものだけを取り立てていきます。
今では誰でも普通にやっている小説作法ですね。
人物の五感を使って表現する
この描写のコツはと言うと、知覚を借りた人物(多くは主人公)の五感を働かせることです。五感、つまり、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚です。
この中で一番多く使われるのは、視覚です。小説の文章の七割が視覚情報だと言われており、そこに音、におい、触った感触などを加えて、より感じがわかるように表現します。
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落した。雪の冷気が流れこんだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ呼ぶように、
「駅長さあん、駅長さあん」
(川端康成『雪国』)
ノーベル文学賞受賞作『雪国』の冒頭です。
「雪の冷気が流れこんだ」は触覚に近い感覚。
「駅長さあん、駅長さあん」は主人公が聞いた声ですから聴覚ですね。
これ以外はすべて主人公が見たもの、視覚情報です。
つまり、視覚情報を書くことで、読者の頭の中に情景を浮かび上がらせ、触覚や聴覚によって感じを補強していると言えばいいでしょうか。
いい表現は端的で隙間がある
描写の肝は、この「感じ」といういわく説明しがたいものを表現するところにあります。
というと、その「感じ」はどう表現すればいいの? ということになりそうですね。
「感じ」を表現するには、まず、主人公が見たもの、聞いたものをありのままに書く。頭だけの表現にならないように気をつけ、五感でとらえたものを正しく言葉に変換していく。これがベースになります。
このとき、正しく伝えることだけでなく、表現効果も考えましょう。
表現は厳密に伝えようとすればするほど長くなります。しかし、長く書いて済むのであれば、こんな楽なことはないですね。
いい表現は端的で隙間があります。読者はその隙間を埋めて、書いていないことまでも想像で埋めてしまう。そういう表現効果の高い描写をしたいですね。
(ヨルモ)
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公募ガイドのキャラクターの黒ヤギくん。公募に応募していることを内緒にしている隠れ公募ファン。幼馴染に白ヤギのヒルモくんがいます。「小説の取扱書」を執筆しているのは、ヨルモのお父さんの先代ヨルモ。