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【Web限定企画】先生はどんな人?第1回 上野歩先生

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先生はどんな人
第1回は「はじめての小説講座」や「公募に勝つ!添削講座」で丁寧な
添削が評判の上野歩先生。小説家としての活躍から普段は聞けない
添削講座のことまでインタビュー!

 

上野歩(うえの・あゆむ)
小説家。『恋人といっしょになるでしょう』で第7回小説すばる新人賞受賞。著書に『就職先はネジ屋です』『キリの理容室』『墨田区吾嬬町発ブラックホール行き』『わたし、型屋の社長になります』『削り屋』など。
公式HP『上野亭かきあげ丼』
 

 

「誰しも自信はない。だから、勇気をもって挑戦を!」

自分だけのテーマを持つこと
――先生はいつから小説家を目指されていたのですか?
実は小学6年生から作家になりたいという気持ちがありたくさん本も読んでいたので、いつか1冊くらい出せるんじゃないかという根拠のない自信がありました。(笑)でも何を書くべきか定まらないまま大人になった。20代である玩具業界誌の会社に勤めたのですが、誰もが遊ぶ「おもちゃ」という業界での経験は小説になると確信して、書き始めました。その後コンクールに応募し始め、32歳のとき『恋人といっしょになるでしょう』で小説すばる新人賞を受賞したんです。
『恋人といっしょになるでしょう』
(集英社・1994 年発売)
 
――以降はずっと専業作家として来られた?
デビュー後に数冊出したのですが、あまりたくさんは売れなかった。以降、当然仕事が来なくなる。そして、何を書いていいかもわからなくなり、実は2001年から10年間書けなかった時期があるんです。その間は、自費出版の会社で書籍化したい人へアドバイスや作品の添削をしていました。
――書けない時代があったのが意外です。その後、どうやってまた書き始めたのですか?
この仕事が結構面白くて、このままでもいいかと思っていたのですが、ある時期から自費出版業界が斜陽化しはじめ、僕の仕事も減り焦ってきた。そんなころ「お仕事もの」というジャンルだ!と気が付いたんです。そこで読んだ小説、エッセイ、自分史にはいろんな人の仕事が描かれていて、みなプロ意識が高く刺激を受けていた。また、僕自身生まれが墨田区という工場街です。父がプラスチックの加工工場を経営していたので、旋盤工として一人前になっていく青年の物語『削り屋』を書きました。それを出版社に持ち込み、書籍化につながったんです。
『削り屋』
(小学館・2015年発売)
 
――「自分の経験を書く」というのは、やはり題材として強いのでしょうか?
必ずしも実体験でなくていいと思います。ただ、自分だけのテーマがあるといいですね。そこを起点に情報を集めて広げるとやりやすい。経験だけに頼ると1作しか書けないので、むしろ題材は外に求めた方が作品の幅は広がります。
読者をどう楽しませるか
――先生の小説講座に送られてくる作品で、多く見られる弱点はありますか?
短い作品が多いわけですが、たとえば「別れた恋人に会う」という目的で物語が始まり、会うまでの街の情景の説明だけ書いて、その後を期待させるところで終っているような作品が多い。面白いのは、恋人と会ってからだから、そこを一番書かないといけない。
――延々と説明が続いても読んでいて面白くない。
説明ではなく主人公を動かし、エピソードの中で紹介したほうがいい。『チャイナタウン』という名作映画があります。その中でジャック・ニコルソン演じる探偵が、悪党に追い詰められ、ナイフを鼻の穴に突き付けられて小鼻をシュッと切られるシーンがある。監督のロマン・ポランスキー自身が演じている有名なシーンですが、ここにこの悪党の冷酷さが出ている。動作や表情、行動でキャラクターや状況を「描く」ほうがいいんです。
『チャイナタウン』
(ロマン・ポランスキー・1974年公開)
 
――面白くなる前で終ってしまう理由は何だと思われますか?
厳しいかもしれませんが、肝心なところは書かずに逃げているのだと思います。とりあえず枚数を書いたという自己満足で終っている。やはり、作者には読者をどう楽しませるかという視点が必要です。
――とはいえ、主人公の生きる世界を最低限伝えないといけない。他にも説明臭くしない方法はありますか?
作者が作品を俯瞰で見なければいけないんです。僕の最新刊『市役所なのにここまでするの!?』の舞台は、桑形市という架空の場所ですが「クワガタムシの頭のような形をした町」という設定にしています。最初から、どんな読者でもイメージしやすくしておけば、やたら説明をする必要はありません。
『市役所なのにココまでするの!?』
(双葉社・2020年発売)
 
――提出作品で他に気になる点は?
三人称多視点で書いているつもりが、三人称なのか作者視点なのかわからずぶれているものが多い。初心者は三人称一視点か、一人称一視点をお勧めします。あと、回想して何度も過去を書くと、誰がいつのことを書いているのかわかりにくい。NHKの大河ドラマや朝ドラのように、時系列に沿って書いていく。まずは、基本となる視点と時間軸をしっかり書けるようになることが大事です。
始まりと終わりを決める
――最後まで書き切るコツはありますか?
物語のパターンは大きく2つしかないと思っています。主人公が動き出す動機が、達成したい目標に向かうか、欠落を埋めるために目標に向かうか。そして、達成されたらハッピーエンドで、されなければバッドエンドです。その中で、経験を通して主人公は必ず変化・成長する。だから、この物語の基本に沿って、まず主人公の始まりと終わりを決める。そうすれば、とにかくぶれずに最後まで書き上げることが出来るはずです。
――上手く書くための、お勧めの勉強法を教えてください。
「たくさん読んで、たくさん書く」これしかありません。読む数は多いに越したことはないけれど、好きで真似したいと思う作品を5冊でも10冊でもいいから繰り返し読むといいです。自分ならどうするか……書く側の視点で読んでみる。すると、技術がしみ込んでいくと思います。
――推敲のコツはありますか?
「一文を短くする」「重複表現をなくす」この2つをやっていただくと確実に良くなります。内容が明確に読者に伝わるからです。あと、時間をおいてプリントアウトし、もう一回読み直す。これをやるといいです。
――最後に読者のみなさんにメッセージを。
僕が10年間書けなかったのは、1作目に書いたものと同じようなものを書こうとしていたから。本当はそれ以上のものを生み出さないといけないのに、尻込みして書けないと言い訳していたんです。だから、僕も自信がないし誰もがない。でも今は挑戦しようと思っているし、みなさんも勇気をもって挑戦してほしい。そして、わからなかったら、どんどん質問しましょう。質問があるのは、よく考えている証拠。気軽に送って下さい。
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プロへの道も一歩から!勇気を持って挑戦してみよう!
あなたの作品に上野先生がアドバイス!
「読者を楽しませるには?」と悩んだら作品を送ってみよう!
取材:岡田千重
(おかだ・ちえ)
フリーランス・ライター 。広告物の企画・ライティングの経験を経て、2003年より映像系クリエイターにインタビューをするようになる。現在は月刊公募ガイドでも作家のインタビューを手掛ける。2012年、1000字シナリオコンテスト最優秀賞受賞。2013年度より、シナリオ・センターにて講師およびシナリオ添削を担当。公募スクールではじめてのエッセイ講座を担当。
はじめてのエッセイ講座