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ヨルモの「小説の取扱説明書」~その15 三人称一視点~

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小説の取説

公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。

さて、第15回目のテーマは、「三人称一視点」についてです。

三人称でも「ぼく」に置き換えられる視点

三人称で書かれた小説は、二種類あります。

一つは三人称の人物視点、もう一つは三人称の全知視点(神の視点)です。

三人称人物視点は、一人の視点で書く三人称一視点と、章などによって視点人物がかわる三人称多視点があります。

ここでは、三人称一視点について説明しましょう。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。

向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落した。雪の冷気が流れこんだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ呼ぶように、

「駅長さあん、駅長さあん」

明りをさげてゆっくり雪を踏んで来た男は、襟巻で鼻の上まで包み、耳に帽子の毛皮を垂れていた。

(川端康成『雪国』)

「島村の」とあります。三人称小説です。

しかし、客観的な三人称のように、

《島村は過去に消せない傷を持っていたが、そのことを本人は知らなかった。》

といったような、主人公の知らないことを説明的に書いた箇所はありません(実は一か所だけあるのですが、それは原作から探してください)。

「島村」とありますが、一人称と同じ視点で書かれています。その証拠に、「島村の」を「ぼくの」にかえて、

向側の座席から娘が立って来て、ぼくの前のガラス窓を落した。雪の冷気が流れこんだ。

と書いても、問題なく読めます。

つまり、三人称一視点は、視点は一人称だけど、人称は三人称というハイブリッドな書き方です。

一人称と三人称のいいとこ取り

この形式のいいところは、一人称と同様、読者は主人公の視点をたどっていけばよく、情景がわかりやすいこと。

また、主人公の視点で書かれているので、主人公の気持ちに寄り添いやすいというメリットもあります。

一方、見かけは三人称なので、客観的に書けます。

作者自身、作品と距離がとれるわけですね。

しかも、三人称ですから、

《島村の背中には糸くずがついていた。》

というような主人公に見えない情景も書けます。

これは一人称では書きにくい。

《私の背中には糸くずがついていた。》

と書いた場合、「背中が見えたのかなあ、それとも誰かから教えてもらったのかなあ」と思われ、ちょっと不自然な文章になってしまいます。

三人称一視点は、一人称と三人称のいいとこ取りというわけです。

(ヨルモ)

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ヨルモって何もの?

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「小説の取扱書」を執筆しているのは、ヨルモのお父さんの先代ヨルモ。