ヨルモの「小説の取扱説明書」~その6 人物視点~
公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。毎週金曜日に配信。
さて、第6回目のテーマは、「人物視点」についてです。
距離感を把握するための手段
「視点」のことを知らないで小説を書いたら、やはり作者視点(神の視点)で書いてしまうように思います。
近代小説以前の神話や物語の多くも、作品世界を俯瞰的に見た神の視点で書かれています。
加えて、映像の時代を迎え、小説より漫画や映画に親しんできた世代のほうが多くなっていますから、なんとなく映画のワンシーンを頭に描き、それをノベライズするように書いてしまう人がいるのもうなずけます。
もちろん、それでもいいのですが、同じ場面に視点が2つあり、主人公視点になったり、別の人物の視点になったりすると、めまぐるしいですよね。
ボール2つでサッカーをしているようなものです。
さらに言えば、紙の上では方向を表しにくいので、視点が2つあると、「右」と言われてもわかりにくいですよね。
「主人公」という1つの視点であれば、主人公の目で作品世界を覗いているため、「右」とか「手前に」とかの距離感がわかりやすいわけです。
「私」をスタートにしてみる
人物視点を推奨してきたのは、日本では自然主義以降の私小説作家だったと思います。
私小説は「私」が主体ですから、当然、「私」の目をよりどころに作品世界を映していきます。
第三者の目は必要ない。
ある特定の個人は、何をどう考えたか、が問題であって、ほかの人の内面はどうでもいい。というより、主人公以外の内面を書いてしまうと、何が言いたいのかがブレます。
一点突破だからこそ、話が成り立つわけです。
また、人物視点は、主人公の実感も書きやすく、ということは、描写がしやすいので、やはりまずここからという気がします。
生物学の「個体発生は系統発生をくり返す」という定説じゃないけれど、個人が小説をマスターするときも、日本の近代文学がたどってきたとおり、私小説から書いてみるというのも手だと思います。
次回は、小説の味がでやすい「一元視点の限界」について解説していきます。
(ヨルモ)
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「小説の取扱書」を執筆しているのは、ヨルモのお父さんの先代ヨルモ。