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歴史時代小説において時代考証は必須要件である

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作文・エッセイ

 

第6回・角川春樹小説賞・第3回野村胡堂文学賞受賞

若桜木虔が育てた歴史時代作家は数多い。朝日時代小説大賞では平茂寛(第三回)、仁志耕一郎(第四回)、木村忠啓(第八回)、歴史群像大賞の山田剛(第十七回佳作)、祝迫力(第二十回佳作)、富士見新時代小説大賞の近藤五郎(第一回優秀賞)と日経小説大賞の西山ガラシャ(第七回)のいずれも若桜木虔の指導を受けている。また、小説現代長編新人賞では、中路啓太(第一回奨励賞)、田牧大和(第二回)、仁志耕一郎(第七回)、小島環(第九回)、泉ゆたか(第十一回)の五人とも歴史時代小説で受賞している。文学賞デビュー組ではないが『信長の棺』や『秀吉の枷』で知られる加藤廣も門下出身である。(敬称略)

僕自身、若桜木虔に指導を受けて第六回角川春樹小説賞を『私が愛したサムライの娘』で受賞し、二〇一四年にデビューした。同作では第三回野村胡堂文学賞も受賞できた。

本書を読めば、歴史時代小説を書く上でどうしても必要な、それでいて他書で見落とされがちな知識が身につく。新人賞を応募する方には得がたい参考書となるはずである。

さて、プロの歴史時代小説作家の中でも、時代考証のとらえ方には温度差がある。あえて考証を外す挑戦を重要なテーマと考えていらっしゃる先生方も何人も存在する。

かくいう僕も、「反射」や「自由」など、ことに地の文では現代語を用いる場合も少なくない。現代に生きる読者に作中の情景や情感などをビビッドに伝えたいからである。

ただ、新人賞を目指して歴史時代小説を書いている方は、こんな真似をしてはいけない。

本書でも触れられているが、ある知識を知っていて考証に従わないことと、知らないで考証ミスを犯すことは、まるで意味が違う。

仮に既受賞作が考証を外していたり、先行作家が考証を無視していたとしても、あなたが投稿した作品の選考過程でそれが通用するとは限らない。実際に、時代考証に非常に厳しい選考委員も存じ上げている。考証の勉強はしっかり積み上げてゆかねばならない。

(叢文社刊)

さて、本書の後半「江戸の吉原NG」は、読みながらうなり声を上げっ放しだった。

本書の吉原世界の解説はピカイチだと思う。専門書は措くとして、このジャンルでは他書に類を見ないレベルだと断言してもいい。史実がどうであったか、はわかっても、なぜそうであったかに触れていない概説書が多いのである。

初回、裏を返す、馴染みになる……。吉原で高級遊女と同衾するために三回の登楼を必要とした史実は、古典落語でもよく描かれている。たとえばこのしきたりも、きわめてプラグマティックな理由から生まれてきたと、本書は謎解きをしてくれる。

ここだけの話だが、僕も吉原が登場する作品を書きたくて勉強中なのである。本書はライバル作家にはあまり読んで欲しくない。

あなたが、歴史時代小説を書いていらっしゃるのであれば、間違いなくラッキーだと思うのである。本書は必ずや、執筆の大きな糧となることだろう。

鳴神響一

2014年『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞。
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