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「新宿を舞台にした作品は不利」という現実

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作文・エッセイ

 

第14回・日本ミステリー文学大賞新人賞受賞

先生のメール添削講座の受講を始めたは、2008年の5月でした。それまでも、小説らしきモノを書いていましたが、文字通り趣味の世界で遊んでいるだけでした。50歳を過ぎた時、「いい歳して、遊びで書いてどうするんだ? 本気で“小説”というものに挑戦したい」という思いが腹の底からわいてきました。

自分の書いた作品で、世の中の人が楽しんでくれたら、というのは、以前から、漠然と持っていた夢だったことに、改めて気付きました。

あわてて、小説の入門書を買い漁り、勉強を始めましたが、ルールはわかっても、具体的なことは、わかりません。年齢的にも、そんなに悠長なことは言っていられないので、正直、焦りました。

そんなときに、インターネットで見つけたのが、若桜木先生の添削講座です。当時は、福岡市に住んでいたので、メールでの講座は有り難く、すぐに入門させていただき、当時、書き始めていた作品の概要を送りました。作品は、新宿・歌舞伎町を舞台にした、人情ハードボイルドでした。

先生から返ってきたのは、最初のダメ出しでした。

「新宿を舞台にすると、先行作品が多く不利です。福岡に住んでいるのなら、舞台を福岡にして、博多弁で、ローカル色を思いっきり出してください」

福岡は住んで1年程度だったので、これには、少々、戸惑いました。しかし、いったん入門したからには、先生を信じて取り組もうと頭を切り換え、早速、舞台を九州一の歓楽街“中洲”に変更しました。

幸い、中洲を取材するのに、これまでと、何ら生活ペースを変える必要はありませんでした。職場の近くで一杯やった後に、中洲に繰り出すのも、自分に「取材、取材」と言い聞かせて、足を運びました。ただし、取材対象が中洲の場合、取材した日は、全く役に立たないという難点はありましたが。

先生からの返信の速さには、当初から驚かされました。夜中に書いて送っても、翌日には、的確な指摘が返ってくるので、やる気が継続できたのだと思います。

「これではニュアンスが伝わりません。どんな表情・口調などで言ったのかを書く」といった具体的な指導から、句読点の打ち方、漢字の正しい使い方まで、細かく指導をいただきました。

この作品の中で、最も時間がかかったのが、主人公が大きなピンチに陥るパートでした。最初の原稿に対して「主人公の捕まり方が間抜けです」の指摘。書き直しに対して「まだ間抜けです」。何度かやり取りがあって、前後も含めて、大幅に手直しをして、ようやくGOサインが出て、先に進むことができました。

実は、このパートについては、最初に送った時に「若干、甘いかな」という思いがあったのですが、言ってみれば、自分に妥協してしまった面がありました。先生から「主人公が、間抜け」と指摘された時、妥協して、目を瞑ってしまった自分が「間抜け」と、叱責を受けている気持ちになりました。

この部分のやり取りで、他人様に読んでいただく作品を書くのに、妥協は許されないという、極めて当たり前のことを、改めて教わりました。

その後は、とにかく「自分で納得できないモノは提出しない」「出し惜しみをしない」と、自分に言い聞かせながら、書き続けました。書き上がった時には、それまで貯めていたネタ、洒落たと思って取っておいたセリフ回し、その他、持ちネタを全て使い切ってしまいました。したがって、今は、空っぽの状態です。でも結果的には、これが良かったのだと思います。

作品が最終版に差し掛かり、先生から、応募先を「日本ミステリー文学大賞新人賞」と言われた時も、「この作品は、ミステリーではないので……」と思いましたが、先生は「この作品なら、この賞が狙い目です」と断言されました。

賞が決まって編集の方と会った時に「中洲を舞台にして、博多弁で通したのが新鮮で、評価が高くなった」と言われました。

小説の内容や表現だけでなく、それ以前の、基本的な方針から応募先まで、全て、若桜木先生の言われる通りでした。歌舞伎町を舞台に、妥協したり、弱い表現に目を瞑ったりしながら、一人で書いていたら、今回の受賞は絶対になかったことは、間違いありません。先生には、心から感謝しています。

小説指南本の件ですが、私が読ませていただいたのは2冊です。

『プロ作家養成塾 小説の書き方すべて教えます』

今も本棚に並んでいて、気になった個所に貼った付箋もそのままにしています。

エンターテインメント小説に必要な条件、登場人物・人間関係の出し方、小説の中に盛り込むべき内容や注意事項、人物は知り合わせるな・新環境に慣れさせるな、こうした箇所に付箋が貼ってありました。今でも執筆の際に注意している点が並んでいます。

面白い小説を書くための具体的なポイントや、知ってそうで知らない基礎知識なども、かなり参考にさせていただきました。

『作家養成講座 それでも小説を書きたい人への最強アドバイス』

ただ上手な文章を書くための指導本ではなく、新人賞受賞(もしくは持ち込み)で作家デビューを目指すには何が必要か具体的で現実的な内容になっていることがありがたかったです。

予選委員や編集者がどこをポイントに見るかといった考え方で小説を書いたことはなかったので、まさに目からうろこが落ちる思いでした。

また単なる説明ではなく、悪い文章と、それを書き換えた良い文章が例示されているで非常に説得力を感じると同時に、理解にも役立ちました。

 

(いずれもベストセラーズ刊)

50歳を過ぎて持った夢。まだ手が届いたとは言えませんが、スタートラインには、立たせてもらえたと思っています。これからも、先生の指導を受けながら、中年男の夢の実現に向かって頑張っていきます。

石川渓月

2010年『煙が目にしみる』で第14回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。
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