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クリスマスツリー

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クリスマスツリー

長谷川綾

クリスマスイブの朝、おかあさんはゆうくんにマフラーをまいてくれました。

「おやつをたくさんかって、でんしゃ見に行こうか」

「ぼく、あおいでんしゃがいい」

でんしゃのだいすきなゆうくんはおおよろこびです。

「おかしはサンタさんのブーツにする。あおいの買ってね」

おかしをかいにいくみちでゆうくんはおかあさんとてをつないで、かけっこしました。

夜になるころ、ゆうくんはおかあさんとえきのホームにやってきました。

ゆうくんはおおきく、きれいなクリスマスツリーをみあげてうっとりしました。

「きれいね。クリスマスね」

おかあさんはゆうくんのマフラーをそっとさわりながら、

「クリスマスツリー、お家になくてごめんね」

と言ってうつむきました。

「いいの。サンタさんのブーツ買えたし、でんしゃもいっぱいみられたし」

ゆうくんはえがおでおかあさんのてをにぎりました。

そのとき、ホームにあおいでんしゃがはいってきました。

「やったぁ。ぼくのだいすきなあおいでんしゃだ」

ゆうくんはおおよろこびです。

おかあさんはゆうくんにそっとはなしかけました。

「おかあさんね、いかなくちゃいけないところがあるの。ここでまっててくれる」

「いいよ。おかしたべてまってるね」

おかあさんはあおいでんしゃにのりこみました。ゆうくんはえがおでいっぱいてをふりました。

きがつくと、でんしゃはこなくなって、ホームの明かりもすこしくらくなりました。

駅員さんがやってきて、ゆうくんのそばにすわってききました。

「ぼく、おなまえは? ママはどこ?」

「ゆうき。ママはもうすぐくるの」

駅員さんはすまなそうにいいました。

「ゆうきくん。ごめんね。もうでんしゃはこないんだ」

「ママはくるよ。まっててっていったもん」

ゆうくんのみつめるさきで、クリスマスツリーはこなゆきの中、きれいにひかっていました。

クリスマスの朝、ゆうくんはやくしょの人といっしょに、しせつにいくことになりました。

しせつにいくみちでゆうくんは、キャンデーをいっこずつ雪のうえにおきながらあるきました。おかあさんがかえってきたとき、ゆうくんがどこにいるかわからなくてこまらないように、できるだけきれいないろのキャンデーにしました。

そしてつぎのひから、まいにちえきのベンチに行って、でんしゃをたくさんまちました。おかあさんがでんしゃにのったひに見た、クリスマスツリーはまいとしうつくしい光をホームにおとして、かわらないすがたをみせてくれました。

やがておおきくなったゆうくんのとなりに、かわいい女の子がすわるようになりました。そしてふたりのあいだに、小さなあかちゃんが眠るようになりました。

ある年のクリスマスイブの夜、ベンチにはゆうくんとゆうくんそっくりの、ちいさな男の子がすわっていました。男の子はうつくしいクリスマスツリーにうっとりしていいました。

「きれいね。クリスマスね」

ゆうくんはおとこのこのマフラーにそっとふれながらいいました。

「ずっとずっといっしょにいようね」

おとこのこはえがおでゆうくんのてをにぎりました。

この年のクリスマス、ゆうくんははじめて泣きました。

そしてつぎのとしのクリスマスから、もうこのベンチにゆうくんが来ることはありませんでした。