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時代劇本格ミステリー その2

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

時代劇本格ミステリー その2

 

前回に引き続き、鳴神響一が提唱する新ジャンル「時代劇本格ミステリー」の『多田文治郎推理帖』 第二弾『能舞台の赤光』に触れる。

第一弾の『猿島六人殺し』も同様だが、ページを捲ると、早々に事件現場の見取り図が出て来る。

これは本格ミステリー(新本格を含む)を書こうと目論む場合には、必須である。

従来の定義どおりの密室であろうが、衆人環視状況の中で殺人事件が決行されて犯人が分からない、広義の密室(これを「開かれた密室」と呼ぶ)であろうが、見取り図は絶対に入れなければならない。

なぜならば、本格ミステリーの愛読者(選考委員を含む)にとって、事件現場の見取り図を見ながら本文を読み進め、ああでもない、こうでもなかろう……と推理しながら読み進むのは至福の時間だからだ。

従来の、現代が舞台の本格ミステリーには事件現場の見取り図が入った作品は山ほどあるが、時代劇では目にした記憶がない。

だからこそ新ジャンルと言えるのである。

『猿島』も『能舞台』も、事件現場の見取り図は、冒頭の一箇所だけである。プロ作家の作品は、これだけで良いが、新人賞応募作の場合は、これだけではNGである。

なぜなら、一般読者は読んでいて分からない箇所にぶつかったら、冒頭ページを捲り返して見取り図の確認を行うが、限られた時間内で予選突破作と落選作を振り分ける義務を負っている予選委員は、そんな丁寧な読み方はしていられないからだ。

丁寧に読んでくれるのは、最終候補作に残った場合の選考を行う、応募要項に名前が出ている有名作家や評論家だけである。

だから、応募作の場合は要所要所に複数回、事件現場の見取り図を挿入しなければならない。

もちろん、冒頭に挿入するものと同一ではダメで、もっと細分化した図を入れなければならない。

『能舞台』であれば、まず、被害者の上州屋惣右衛門が殺害された時に、主人公の多田文治郎を含む、薪能の鑑賞者が、どういう位置取りで座っていたのかを示す、白州席の見取り図を入れなければならない。

で、文治郎が、薪能を主催した、福岡黒田家の江戸留守居役および黒田家六代当主の継高から依頼されて不可解な密室殺人事件の謎を解いていく名探偵になるわけだが、これは不可能、これまた不可能……と考え得るトリックを次々に潰 していく。

その全ての場面で見取り図が必要になってくる。これは応募者が自分で作成しなければならない(友人知人に依頼して作成してもらう場合を含む)が、首尾良く新人賞受賞者となってプロ作家デビューできる将来を考えれば、自力でパソコンで作成できるのが望ましい。

エクセルで作成してPDFにするのも良し、ウィンドウズ常備のペイントという簡易な画像ソフトで作成しても良い。

ちなみに私は青春出版社から何冊か視力回復のトレーニング本を執筆してベストセラーとなっているが、その中のイラストの九割以上は自分の手で作成している。

これだけ電子データが重要視される時代になった以上は、プロ作家たらんとする者は文章だけでなく、必要最低限のイラストぐらいはパソコンで描けなくては、とうてい読者のニーズに応えられない。

大昔の、読書ぐらいしか知的娯楽が存在しなかった時代に比べて、現代は世間に娯楽が溢れている。

読み難くても、難解でも、最後まで読み通してくれる辛抱強い読者は圧倒的少数派で、たいていは見放す。それが選考委員であれば「この作品は難解。状況が頭に入らない」と決めつけて落選にする。

応募作は、とにかく複雑怪奇な密室殺人事件の状況を気の短い選考委員に理解してもらうのが至上命題であるから、作中に挿入する事件現場の見取り図は何枚あっても良い。

ここで思い出して欲しいのは第十三回の日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作の『ラガド 煉獄の教室』(両角長彦)である。

これは密室殺人事件ではなく、衆人環視状態の教室内で殺人が行われ、犯人が誰なのかも分かっていて動機のみが不明の物語だが、九十三枚もの大量の教室の見取り図が挿入されている。

さすがに『能舞台』は、そこまで大量に見取り図は必要としないが、それでも、新人賞応募作ならば最低でも五枚ぐらいは事件現場周辺の見取り図を入れたほうが読みやすいことは間違いない。

まず、『能舞台』を通して最後まで読んで見る。で、真犯人と殺害方法が分かったところで、主人公の文治郎が探偵作業を開始する時点に戻って「自分なら、ここと、ここに見取り図を挿入するな」などと考えながらの再読を勧める。

そうすれば、この時代劇本格ミステリーという新ジャンルで新人賞を狙おうとするアマチュアには、大いに役立つはずである。

 

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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。