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予選突破作品のレベル

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

予選突破作品のレベル

公募ガイド誌で私が担当している中に「落選理由を探る」コーナーがあって、予選突破できなかった作品を読んでいるのだが、残念ながら、落とされて当然の作品しか来ない。

たぶん、ビッグ・タイトル新人賞受賞作、最終候補どまりの作、上位ベスト20ぐらいまでの作品で、大きな落差があるように思い込んで、「予選突破ぐらいは楽勝」という誤解をしているのではないかと痛感する。

現実には紙一重の差しかなく、選考委員の好みに合わなくて不運にも落とされたが、受賞作よりも面白いのでは、と思わせる作品さえ珍しくない。

しかし、アマチュアの立場では、残念ながら、そういった「受賞できず、候補作にも残れなかった作品」を読むことができない。

最近では『このミステリーがすごい!』大賞第十回の「隠し玉」の『保健室の先生は迷探偵』が一次選考落ち作品である。だが、出版に際して大幅加筆が行われているので、参考にならない。

そこで今回、叢文社の協力協賛を得て、予選突破したが最終まで残れなかった作品を、全く加筆改稿せずに応募作の状態で刊行して皆さんに読んでもらうことにした。

その第一弾として笹木一加『幸徳秋水の狐落とし││萬朝報怪異譚』(第十五回『このミステリーがすごい!』大賞ベスト21で応募時のペンネームは松野未加子)を取り上げる。

この作品は読者プレゼントするので、ふるって応募してほしいし、通販サイトでも購入可能である。

笹木は別ペンネームで朝日時代小説大賞の最終候補に二度、日経小説大賞と日本ミステリー文学大賞新人賞の最終候補に一度、残っている、腕利きのアマチュアだが、敢えて候補作ではなく、その前段階の応募作を世に出す理由は、ベスト20程度で留まった作品のレベルを周知してもらうためである。

この作品の講評は宝島社の『このミステリーがすごい!』大賞第十五回のサイトで読むことができる。一次選考は突破したが二次選考で「いささか、ふざけすぎ」と反対した選者がいて、落とされた。

しかし、『このミステリーがすごい!』大賞から出て来た作品には、「これ、ふざけすぎだろ?」という感想を抱くものが少なくない(特に「隠し玉」として刊行された作品群に目立つ)。

これらの作品群と『幸徳秋水』を読み比べてもらえば、ふざけることで登場人物のキャラを立てる手法の許容範囲がどのあたりにあるのか、見極めがつくかもしれない。

しかし、よほど読解力がないと、どこまでOKで、どこからがNGになるのかが分からないだろう。

そのくらい際どいライン上に笹木の『幸徳秋水』は、ある。これが、今回の企画の第一弾として私が選んだ理由である。

笹木は私の小説教室の生徒なので彼女がこれまでに書いた二十数作は全て読んでいるが、ほぼ全作に共通した欠点があって、それは「時系列が乱れがち」「カットバックの多用」である。

どっちも新人賞選考では致命的な減点を食らう可能性が高い。

笹木は「私は、こういう書き方が好きなんです」と頑固に物語構成法を変えようとしないので、もう、これは、どうしようもない。

それでもビッグ・タイトル新人賞で四度も最終候補作にノミネートされたほどだから、どうしても物語に時系列崩しやカットバックを盛り込みたいアマチュアには『幸徳秋水』は参考になることは間違いない。

『幸徳秋水』は序章と第一章の間で大きく時間がジャンプするし、序章の主人公は「使い捨て」で、その後は一度も主人公として復帰しない。

主要人物として何度も名前が出て来るが、ほとんど姿を見せることはなく、実際に姿を見せるのは物語の後半になってからである。

幸徳秋水は主人公ではなく、主人公の御代田遼次を、徹頭徹尾、引きずり回す性格最悪の名探偵役である。

で、遼次と秋水の二人がコンビになって奇怪な事件を追っている間に、二箇所(第六章、第八章)で大きくカットバックして過去の複雑な事情が明かされる。

また主人公の遼次の夢の中でも、一種のカットバックで、過去の少年時代に戻っての回想が再三に亘り、語られる。

この手法は、一つでも間違えれば一発で落選にされかねないほどの、大きな危険を含んでいる。

なぜ落選にされるのかというと、急いで読むことを義務づけられている予備選考の下読み選者の頭が混乱を引き起こすからで、下読み選者の混乱は、即刻落選と同義語である。

しかし、宝島社のサイトの一次選考評価は絶賛されている。つまり下読み選者は混乱しなかったわけだ。

この辺りの微妙な線引きを知るのに『幸徳秋水』は役立つはず。

 

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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。