狙うべき新人賞を具体的に決定する小説の新人賞は、作品の質が絶対条件ではない
新人賞をゲームとして考える。これが、作家・五十嵐貴久さんが提唱する「イガラシ・メソッド」のコンセプトです。前回は、新人賞に応募するのであれば、
「出版社が主催する長編新人賞で、ジャンルはミステリーが有利」
ということを学びました。では、具体的にどのようなポイントで賞を選び、攻略したらよいのでしょうか? 作家になるためのリアルな方法論を『超・戦略的!作家デビューマニュアル』(五十嵐貴久著/PHP新書)からご紹介します。
どの賞を狙うべきか? 選ぶ基準として以下の5つがあります。
1 .賞としての「格」
この場合の「格」というのは「歴史と伝統」を意味します。長く続いている賞には、それだけの信用があります。最も古くからあり、格のある賞といえば、江戸川乱歩賞です。
2. 賞金
印税のみという賞もあれば、1000万円というところもあります。あくまでも選択基準のひとつですが、「賞金額が高いから狙う」というのも、立派な応募動機です。
3 .審査員
審査員のメンバーに自分の敬愛する作家がいれば、そこに応募するというのもひとつの考え方です。その作家とあなたの好みは似ているはずなので、あなたの作品に対して好意的に接してくれる可能性が高いからです。
4. 倍率
たとえば乱歩賞の応募数は毎年350~400編ですが、ライトノベルでは1000を超えるところがあり、逆に応募が少ない賞では、100に達しないものもあります。作家デビューが目的であれば、倍率の低い賞を狙うというのも有効な選択肢です。
5. スケジュール
1本の長編小説を書く時間は、1年間を目安にしましょう。ざっくりいうと、プロットに2か月、執筆に8か月、推敲に2か月。締め切りまでの時間が1年に満たないのであれば、応募しても確実に落ちると、イガラシ・メソッドでは断言します。
これらのポイントで自分に合った賞を選びますが、しかし、重要なのはその先。賞の傾向と対策を練ることです。イガラシ・メソッドでは新人賞をゲームとして捉えます。ゲームにはルールと攻略法があります。
どんなに優れた作品を書いても、応募した賞の歴史や目的、傾向に沿っていなければ、受賞することはできません。傾向と対策が重要なのです。
とくに、過去の受賞作を読むことは傾向と対策のうえで重要です。最低でも過去3年分を読めば、受賞作のパターンや雰囲気がつかめるはずです。また、審査員の選評には受賞作のどこがよかったのか、受賞に至らなかった作品は何が足りなかったのかが書かれてあります。
ルールという面では、募集要項は絶対のルールです。
・制限枚数は1文字でもオーバーしてはいけない。
・募集の締め切りは1日でも過ぎてはいけない。
・募集要項に原稿を綴じる指示があれば、必ず綴じなければいけない。
・自分の氏名や連絡先は書き忘れてはいけない。
どれも当たり前のことですが、守れない人が意外と多いのです。これぐらいいいだろうという甘えは、新人賞攻略においては許されません。逆に言えば、ルールを守るだけでライバルよりも有利に立てるということです。
また、パソコンによる原稿執筆はマストだとイガラシ・メソッドでは指摘します。手書きの原稿は数段低く扱われるともいっています。この時代、手書きでしか原稿を書けないという人と受賞後も付き合っていきたいと思う編集者はいないということです。
基本ルールを守り、人としての常識がある。編集者や出版社が求めているものを的確につかんで提供できる。作家デビューするためには、こういった要素が想像以上に重要になってくるのです。
次回は、イガラシ・メソッドの根幹、長編小説の書き方をご紹介します。
五十嵐貴久(いがらし・たかひさ)
小説家。1961 年東京生まれ。出版社勤務を経て、2001 年『TVJ』でサントリーミステリー大賞優秀作品賞、『リカ』で第2 回ホラーサスペンス大賞を受賞し、翌年デビュー。警察小説、時代小説、青春小説、家族小説など幅広い作風で映像化も多数。著書に『1985 年の奇跡』『交渉人』シリーズ、『パパとムスメの7 日間』『相棒』など。
『超・戦略的! 作家デビューマニュアル』
五十嵐貴久
(PHP研究所/880円+税)
正しい方法論さえ身につければ、小説家になるのはカンタンだ! 効率よく、ノーリスクで作家になる方法が学べる、超実践的小説家入門。
Amazonで購入する