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刑事モノを書くときに取り違えてはならない基本常識

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

刑事ドラマの警察考証間違い

今回は警察小説に関しての一般論を述べる。

警察小説は、今野敏、誉田哲也、笹本稜平、佐々木譲、堂場瞬一などの人気作家を輩出しており、TV化される作品も多く、売れ行きも良い。

したがって、同等レベルの応募作が競合したら、営業的な理由で警察小説のほうに軍配が上がる可能性は極めて高い。

新人賞を狙うアマチュア作家も、そう考えていると見えて、警察小説の応募作は多い。だが、いかんせん警察考証間違いが目立つ。

『このミステリーがすごい!』大賞受賞作『警視庁捜査二課・郷間彩香特命指揮官』のように意図的に警察考証をネジ曲げた作品と、無知であるが故に間違えた作品とでは、相違点が読んでいて歴然と分かる。

後者はどうもテレビの刑事ドラマを参考にしているように思える。

今回、某社からの依頼でテレビの刑事ドラマの警察考証間違いを指摘する本の執筆を依頼されたのだが、もう、呆れるくらいに間違いがある。

制作上の理由(経費節減など)で致し方なく現実の警察考証を歪めた作品もあるが、圧倒的大多数は監督も脚本家も無知であるが故に誤謬を犯したとしか思えない。

それを、番組名も挙げて列挙していく。

①『警視庁機動捜査隊216』

これは沢口靖子主演の人気ドラマで今年になってテレビ・ミステリーの大半が二時間枠を撤廃された以降も放映されたので、今後とも続くだろう。

一一〇番通報を受けて、真っ先に事件現場に臨場するのが機動捜査隊で、所轄署の刑事が先に到着して、機動捜査隊が出てこない刑事ドラマが多いが、これは間違い。

いきなり捜査一課が出てくるとなると、もっと大間違い。

基本的に捜査一課は他殺事件だと確定して以降でなければ出てこない。

『警視庁機動捜査隊216』では、機動捜査隊の捜査で他殺事件と確定した後に捜査一課が出てきて「お前らは帰れ」と沢口靖子や赤井英和が邪魔者扱いされて追い出される場面が定番だが、ここが最大の警察考証間違い。

凶悪な殺人事件などで特別捜査本部が立つと、最初に機動捜査隊が絡んだ事件でなくても召集が懸かって捜査陣に機動捜査隊が組み込まれる。

機動捜査隊は東京だと第一(二十三区の東部)第二(二十三区の西部)第三(多摩地区)の三方面に分かれているが、人手が足りなければ管轄区域外の機動捜査隊まで召集されるほどで、敏腕刑事が揃っている。

②『科捜研の女』

同じく沢口靖子主演の人気ドラマで、まだまだ延々と続くだろうが、これが本当だと思い込んでいるアマチュアが多くて呆れる。

科学捜査研究所の署長は、警視。

副所長も理事官で警視。その下には七つの分野があるが、このトップは理事官の下の管理官で、警視。

つまり科学捜査研究所には九人もの警視がいるのだが、『科捜研の女』には一人も出てこない。

その上の科学警察研究所はトップこそ、学者だが、副所長は警視監、調整官と総務部長が警視長、課長が警視正となる。総務部長から県警本部長に栄転した実例も存在する。

『科捜研の女』の問題点は、死体が見つかったとなると、すぐさま沢口靖子演じる榊マリコ技官が飛び出していって検視すること(検死ではない)。検視は警部以上の階級の幹部警察官が行わなければならない。マリコは一介の技官だから許されない。

マリコは理系の博士号を持っているが、いきなり科捜研に入ったのではなく、まず公務員試験を受験して警察官として採用され、階級が警部以上になった状態で科捜研に異動したのであればOKだが。

『科捜研の女』と似たような物語を書きたければ、その辺りを押さえている必要がある。

③捜査一課にキャリア捜査官

この間違いは刑事ドラマにあまりに多いので、いちいち挙げない。

名の通ったプロ作家の警察小説にも、この間違いを犯している作品が見受けられるのが情けない。

捜査一課は、平刑事からトップの課長まで「平刑事からの叩き上げ」の牙城である。

経験不足のキャリア警察官が捜査指揮を任され、頓珍漢な捜査の指示を与えて現場の刑事を腐らせる――は刑事ドラマの定番だが、そんなことは有り得ない。

捜査一課にキャリアが配属される場合は、将来の刑事部長とか警察庁刑事局長とかの幹部管理職になる場合に備えての「事件現場見習い」であって、捜査指揮を任されることなど絶対にない。

ましてや、一介の刑事として殺人事件の捜査に携わるなど(この手のドラマも相当数ある)百パーセントない。逆に捜査二課はキャリア警察官の定番コースで、ここには、ほぼ確実にキャリアがいる。

④新宿署長に若手キャリア警察官

テレビドラマだと「新宿」に「西」だの「東」だのが付くが、明らかに新宿署で、そこに三十歳前後の若手キャリアが赴任してきて引っ掻き回すのも定番だが、これも有り得ない。

新宿署のように大事件が頻発する大規模署には捜査一課長が異動してくる。若手キャリアが署長になるのは、滅多に大事件が起きない平和な小規模署である。

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若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。