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キャラ設定のヒントはアメリカドラマにあり

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

今回、改めてキャラ立てに触れる。単純なようでいて、これほど難しいテーマはない。


これまで私は数百名のプロ作家志望者を見てきたが、最初からキャラが立った作品を書けるアマチュアは、せいぜい一%ないし二%である。こういうAクラスの生徒は、新人賞の主催者が求めているタイプの物語を思いつきさえすれば、すんなりプロ作家になれる。


「キャラを立てる」という言葉の意味は理解している(と当人は思っている)が実際には全く理解していない、いつまで経ってもキャラが立った人物を書けないCクラスの生徒が二〇%。中間の、書いていくうちに徐々に呑み込めてくるBクラスの生徒が、八〇%弱。


Bクラスでも新人賞を射止めてプロ作家になることは可能だが、本質的な部分でAクラスの生徒よりは劣っているので、せっかくデビューできても、うかうか、その後の精進を怠っていると、たちまち文壇から敢えなく消え、再デビューの道を模索することになる。


「キャラを立てる」にはツーステップあって、第一段階は、各主要登場人物を個性的に描き分けること。これだけでは、なかなか新人賞の関門は突破しにくい(時代考証や警察考証、科学考証の蘊蓄、本格トリックなどが優れていれば、突破できないこともない)。


第二段階は、選考委員に「この主人公(できれば副主人公も)は魅力的だ」と感じさせることだが、これが難しい。Aクラスの生徒だと、こうアドバイスしただけで即座に書けるようになるが、Bクラスの生徒だと「何か参考になる資料を教えてください」となる。


で、参考資料を紹介するにしても、本一冊を読破するのに、速読術でも身につけていない限り、一冊に数時間は掛かる。肌が合わなくて読むのが苦痛だったりすると、一冊に一週間を費やしてしまう、などの状況も起こりかねず、そうなったら、延々と捗らない。


そこで私が推奨しているのが、CATVやスカパー!で放映されている、欧米のドラマを見ることである。どちらも契約していなくても、貸しDVDで見ることが可能である。


私が見ている範囲でしか推奨できないが、『ヒューマン・ターゲット』『バーン・ノーティス 元スパイの逆襲』『BONES』『NCIS』『ライ・トゥー・ミー』『クリミナル・マインド』『メンタリスト』などで、SFを書きたい人なら『スタートレック』だ。


とにかく第一段階の「各主要登場人物を個性的に描き分ける」に関してはアメリカのドラマは優れている。一時間ドラマで、内容的には日本の二時間ドラマを遙かに凌ぐ。おまけに日本のドラマは玉石混淆で玉よりは砂利のほうが圧倒的に多く、時間の無駄である。


その中で「これは魅力的!」という人物を捜し当て、キャラ設定の参考にする。例えば男性では『ヒューマン・ターゲット』に出ているジャッキー・アール・ヘイリー演じるゲレロ。女性ならば『バーン・ノーティス』に出ている、ガブリエル・アンウォー演じるフィオナ・グレナン。この二人は秀逸だと思う。脇役だが、主人公を食っている感がある。


どっちも主人公は、個性的ではあるが、ステレオタイプの域を一歩も出ていない。ストーリー的には、ドンデン返しまたドンデン返しという、先が読みにくい(主人公が成功する結末だけは見えているが)物語展開が創作の参考になる。また、『バーン・ノーティス』では、ナレーションの形式で語られる、スパイに関する蘊蓄が秀逸で、主人公のジェフリー・ドノヴァン演じるマイケル・ウェスティンの魅力的な弱さをカバーしている。


登場人物全員が個性的という点では『BONES』が優れているが、BONESという渾名の主人公テンペランス・ブレナン博士は魅力的とは言い難い。演じているエミリー・デシャネルが美人だから一見すると魅力的に映るが、活字だけで読んだら、最悪だろう。


『ライ・トゥー・ミー』の主人公のティム・ロス演じるカル・ライトマン博士も、最悪。


こうやって克明に分析しつつ見ていくと、どういう具合にキャラを立てれば良いのか、第一から第二段階に移行する最大の相違点の「魅力」が、自ずと見えてくるはずである。


また、ストーリーの意外性も、日本の二時間ミステリーのように冒頭で配役を見た瞬間に犯人が分かる、などという大チョンボな設定は、ほぼ九九%、ない。


しかし、意外性を重視するあまり、ほとんど出てこなかった人物が結末で犯人だと指摘される(たいてい、頻繁に出ていた人物の家族など)事例があるが、これはNG。新人賞応募作でそんな書き方をしたら、落選に直結しかねない。また連続ドラマだと(二話連続や三話連続を含む)主人公を敢えて重大なピンチに陥れるために、主人公の上司を無能(単に無能なだけでなく、思い込みが激しかったり、偏見の持ち主だったり)に設定している事例が多々見受けられ、これも新人賞応募作でやってはいけない登場人物設定である。


周囲が全て有能(犯人や敵方の組織を含む)で、それでもなお、主人公が魅力的で能力的にも優れている、という書き方をしなければ、なかなか新人賞には届き得ない。

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

2ステップで「キャラを立てる」

今回、改めてキャラ立てに触れる。単純なようでいて、これほど難しいテーマはない。

これまで私は数百名のプロ作家志望者を見てきたが、最初からキャラが立った作品を書けるアマチュアは、せいぜい一%ないし二%である。こういうAクラスの生徒は、新人賞の主催者が求めているタイプの物語を思いつきさえすれば、すんなりプロ作家になれる。

「キャラを立てる」という言葉の意味は理解している(と当人は思っている)が実際には全く理解していない、いつまで経ってもキャラが立った人物を書けないCクラスの生徒が二〇%。中間の、書いていくうちに徐々に呑み込めてくるBクラスの生徒が、八〇%弱。

Bクラスでも新人賞を射止めてプロ作家になることは可能だが、本質的な部分でAクラスの生徒よりは劣っているので、せっかくデビューできても、うかうか、その後の精進を怠っていると、たちまち文壇から敢えなく消え、再デビューの道を模索することになる。

「キャラを立てる」にはツーステップあって、第一段階は、各主要登場人物を個性的に描き分けること。これだけでは、なかなか新人賞の関門は突破しにくい(時代考証や警察考証、科学考証の蘊蓄、本格トリックなどが優れていれば、突破できないこともない)。

第二段階は、選考委員に「この主人公(できれば副主人公も)は魅力的だ」と感じさせることだが、これが難しい。Aクラスの生徒だと、こうアドバイスしただけで即座に書けるようになるが、Bクラスの生徒だと「何か参考になる資料を教えてください」となる。

で、参考資料を紹介するにしても、本一冊を読破するのに、速読術でも身につけていない限り、一冊に数時間は掛かる。肌が合わなくて読むのが苦痛だったりすると、一冊に一週間を費やしてしまう、などの状況も起こりかねず、そうなったら、延々と捗らない。

「魅力的な人物」はアメリカのドラマを分析せよ

そこで私が推奨しているのが、CATVやスカパー!で放映されている、欧米のドラマを見ることである。どちらも契約していなくても、貸しDVDで見ることが可能である。

私が見ている範囲でしか推奨できないが、『ヒューマン・ターゲット』『バーン・ノーティス 元スパイの逆襲』『BONES』『NCIS』『ライ・トゥー・ミー』『クリミナル・マインド』『メンタリスト』などで、SFを書きたい人なら『スタートレック』だ。

とにかく第一段階の「各主要登場人物を個性的に描き分ける」に関してはアメリカのドラマは優れている。一時間ドラマで、内容的には日本の二時間ドラマを遙かに凌ぐ。おまけに日本のドラマは玉石混淆で玉よりは砂利のほうが圧倒的に多く、時間の無駄である。

その中で「これは魅力的!」という人物を捜し当て、キャラ設定の参考にする。例えば男性では『ヒューマン・ターゲット』に出ているジャッキー・アール・ヘイリー演じるゲレロ。女性ならば『バーン・ノーティス』に出ている、ガブリエル・アンウォー演じるフィオナ・グレナン。この二人は秀逸だと思う。脇役だが、主人公を食っている感がある。

どっちも主人公は、個性的ではあるが、ステレオタイプの域を一歩も出ていない。ストーリー的には、ドンデン返しまたドンデン返しという、先が読みにくい(主人公が成功する結末だけは見えているが)物語展開が創作の参考になる。また、『バーン・ノーティス』では、ナレーションの形式で語られる、スパイに関する蘊蓄が秀逸で、主人公のジェフリー・ドノヴァン演じるマイケル・ウェスティンの魅力的な弱さをカバーしている。

登場人物全員が個性的という点では『BONES』が優れているが、BONESという渾名の主人公テンペランス・ブレナン博士は魅力的とは言い難い。演じているエミリー・デシャネルが美人だから一見すると魅力的に映るが、活字だけで読んだら、最悪だろう。

『ライ・トゥー・ミー』の主人公のティム・ロス演じるカル・ライトマン博士も、最悪。

こうやって克明に分析しつつ見ていくと、どういう具合にキャラを立てれば良いのか、第一から第二段階に移行する最大の相違点の「魅力」が、自ずと見えてくるはずである。

また、ストーリーの意外性も、日本の二時間ミステリーのように冒頭で配役を見た瞬間に犯人が分かる、などという大チョンボな設定は、ほぼ九九%、ない。

しかし、意外性を重視するあまり、ほとんど出てこなかった人物が結末で犯人だと指摘される(たいてい、頻繁に出ていた人物の家族など)事例があるが、これはNG。新人賞応募作でそんな書き方をしたら、落選に直結しかねない。また連続ドラマだと(二話連続や三話連続を含む)主人公を敢えて重大なピンチに陥れるために、主人公の上司を無能(単に無能なだけでなく、思い込みが激しかったり、偏見の持ち主だったり)に設定している事例が多々見受けられ、これも新人賞応募作でやってはいけない登場人物設定である。

周囲が全て有能(犯人や敵方の組織を含む)で、それでもなお、主人公が魅力的で能力的にも優れている、という書き方をしなければ、なかなか新人賞には届き得ない。

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞 小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞 仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞 山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞 近藤五郎(第1回優秀賞)
電撃小説大賞 有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)
『幽』怪談文学賞長編賞 風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞 鳴神響一(第6回)
C★NOVELS大賞 松葉屋なつみ(第10回)
ゴールデン・エレファント賞 時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)