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日本エンタメ小説大賞

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

日本エンタメ小説大賞

今回は、二月二十八日締切(当日消印有効)の日本エンタメ小説大賞(四十字×三十行で、百枚~二百枚。四百字詰め換算で、三百枚~六百枚)を取り上げることにする。


この賞は、2013年が第一回の公募で、そのために全く傾向が読めなかった。そこで、私の講座の生徒数人に応募させて、傾向を探ることにした(新しい新人賞が発足した時には、いつも、この手を使っている)。その結果、予選突破すると思った作品が通らず、逆に、予選落ちすると思った作品が二次選考まで通過する結果になり、大賞受賞作の中得一美『嫁の心得』と優秀賞受賞作の初瀬礼『血讐』を併せて読むことで、どうにか把握できた。


まず『嫁の心得』も『血讐』も、他のビッグ・タイトル新人賞なら、ほぼ確実に一次選考で落とされているタイプの作品である。したがって、日本エンタメ小説大賞を狙おうとする場合には、他の新人賞と両天秤的な狙い方をすることができない。日本エンタメ小説大賞だけにターゲットを絞った“決め撃ち”的な書き方をすることが要求される。


日本エンタメ小説大賞の基本コンセプトは「これまでになかった“映画化”を念頭に置いた新しい文学賞で、毎年、一番旬の映画プロデューサーに“審査委員長”をお願いし、自分が撮りたい映画の題材となるような小説を募集」である。


私の小説講座には「映像台本を書いていたが、生活できないので小説家になりたい」と言って門を叩いてくる生徒が何人もいるのだが、脚本経験者の書く小説には、ほぼ共通した欠点がある。それはカットバックの多用と神様視点の乱用、視点の乱れ飛びである。


映像化を意識しているだけに『嫁の心得』も『血讐』も、そういう欠点が見られた。


「他のビッグ・タイトル新人賞なら、ほぼ確実に一次選考で落とされている」と書いたのは、そういう理由による。


他の新人賞の場合、カットバックは必ずしも絶対的な不可ではないのだが、どこからどこまで時系列を変更したのかが読者に明確に分かるような物語構成を採ることが必須である。そうしないと、読者は混乱してストーリーの流れについてくることができない。『嫁の心得』も『血讐』も、予告なしにカットバックが入るので、熟読しないと時系列の変更が呑み込めず、混乱を来すことになる。


視点の乱れ飛びは、他の新人賞においては時系列の乱れ以上に大きな減点材料となる。


『嫁の心得』も『血讐』も、ころころ視点が切り替わる。いったい何人の視点人物がいるのか最初は数えながら読んでいたが、途中で「なるほど。映像化を意識しているので、これは映像台本をノベライズするようなタイプの作品なんだ」と気づいた時点で、止めた。


一般新人賞は、物語を主人公視点で書くことが要求される。選考委員の大半がミステリー畑の出身者が占めるようになって、この傾向が強まった(ミステリー畑以外の選考委員は、必ずしも主人公視点の徹底を要求しないが、それは、一割ぐらいの少数派である)。


しかし、日本エンタメ小説大賞は、主人公視点ではなく“カメラ視点”の物語を要求していると見た。映画は基本的に主人公視点ではなく、カメラ視点で撮影される。主人公視点になるのは『十三日の金曜日』のジェイソンや『ジョーズ』の人食い鮫など、ホラー映画で殺人鬼の類が密かに犠牲者を狙っている場合だけである。『嫁の心得』も『血讐』も、それと同じくらい主人公視点が少ない。カメラ視点だから、どんどん切り替わる。


そうすると読者は、主人公と一体化して読むことができない。映画館の観客席もしくはテレビの前で見ている観客の立場で、物語を読むことを要求される。一昔前の時代劇に、そういう書き方をしているものが多く、池波正太郎作品や藤沢周平作品が、そうである。


つまり、日本エンタメ小説大賞を狙うには、池波作品や藤沢作品を手本にするのが良いということになる。


内容的に言えば『血讐』は秋葉原の連続殺傷事件を題材にしている(こういう時事ネタは、他の新人賞では一次選考で撥ねられる)し、『嫁の心得』は時代考証が好い加減。


応募作を書くにあたって、かなり勉強した節は伺えるが、付け焼き刃の印象。「参勤交代で江戸に行く」などという初歩的な間違いが散見された。江戸に行って将軍に対面するのが「参勤」で、江戸から故国に帰るのが「交代」である。


誤字も多かった。ワープロ特有の誤変換ではなく、明らかに作者が無知であるがゆえの間違いとわかるものが多々あった(わざわざルビまで振ってあるので、それと分かる)。


つまり、選考委員も編集者も時代考証に弱く、他社なら見逃さない常識的なミスを見逃しているところから見て、この賞を狙うには、ひたすら面白ければOKで、正確な時代考証は無用だし、他新人賞ではNGの時事ネタもOK、という内情が、自ずと見えてくる。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

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 文学賞指南 添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

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小島環(第9回)

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その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

日本エンタメ小説大賞(2014年3月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

日本エンタメ小説大賞

今回は、二月二十八日締切(当日消印有効)の日本エンタメ小説大賞(四十字×三十行で、百枚~二百枚。四百字詰め換算で、三百枚~六百枚)を取り上げることにする。


この賞は、2013年が第一回の公募で、そのために全く傾向が読めなかった。そこで、私の講座の生徒数人に応募させて、傾向を探ることにした(新しい新人賞が発足した時には、いつも、この手を使っている)。その結果、予選突破すると思った作品が通らず、逆に、予選落ちすると思った作品が二次選考まで通過する結果になり、大賞受賞作の中得一美『嫁の心得』と優秀賞受賞作の初瀬礼『血讐』を併せて読むことで、どうにか把握できた。


まず『嫁の心得』も『血讐』も、他のビッグ・タイトル新人賞なら、ほぼ確実に一次選考で落とされているタイプの作品である。したがって、日本エンタメ小説大賞を狙おうとする場合には、他の新人賞と両天秤的な狙い方をすることができない。日本エンタメ小説大賞だけにターゲットを絞った“決め撃ち”的な書き方をすることが要求される。


日本エンタメ小説大賞の基本コンセプトは「これまでになかった“映画化”を念頭に置いた新しい文学賞で、毎年、一番旬の映画プロデューサーに“審査委員長”をお願いし、自分が撮りたい映画の題材となるような小説を募集」である。


私の小説講座には「映像台本を書いていたが、生活できないので小説家になりたい」と言って門を叩いてくる生徒が何人もいるのだが、脚本経験者の書く小説には、ほぼ共通した欠点がある。それはカットバックの多用と神様視点の乱用、視点の乱れ飛びである。


映像化を意識しているだけに『嫁の心得』も『血讐』も、そういう欠点が見られた。


「他のビッグ・タイトル新人賞なら、ほぼ確実に一次選考で落とされている」と書いたのは、そういう理由による。


他の新人賞の場合、カットバックは必ずしも絶対的な不可ではないのだが、どこからどこまで時系列を変更したのかが読者に明確に分かるような物語構成を採ることが必須である。そうしないと、読者は混乱してストーリーの流れについてくることができない。『嫁の心得』も『血讐』も、予告なしにカットバックが入るので、熟読しないと時系列の変更が呑み込めず、混乱を来すことになる。


視点の乱れ飛びは、他の新人賞においては時系列の乱れ以上に大きな減点材料となる。


『嫁の心得』も『血讐』も、ころころ視点が切り替わる。いったい何人の視点人物がいるのか最初は数えながら読んでいたが、途中で「なるほど。映像化を意識しているので、これは映像台本をノベライズするようなタイプの作品なんだ」と気づいた時点で、止めた。


一般新人賞は、物語を主人公視点で書くことが要求される。選考委員の大半がミステリー畑の出身者が占めるようになって、この傾向が強まった(ミステリー畑以外の選考委員は、必ずしも主人公視点の徹底を要求しないが、それは、一割ぐらいの少数派である)。


しかし、日本エンタメ小説大賞は、主人公視点ではなく“カメラ視点”の物語を要求していると見た。映画は基本的に主人公視点ではなく、カメラ視点で撮影される。主人公視点になるのは『十三日の金曜日』のジェイソンや『ジョーズ』の人食い鮫など、ホラー映画で殺人鬼の類が密かに犠牲者を狙っている場合だけである。『嫁の心得』も『血讐』も、それと同じくらい主人公視点が少ない。カメラ視点だから、どんどん切り替わる。


そうすると読者は、主人公と一体化して読むことができない。映画館の観客席もしくはテレビの前で見ている観客の立場で、物語を読むことを要求される。一昔前の時代劇に、そういう書き方をしているものが多く、池波正太郎作品や藤沢周平作品が、そうである。


つまり、日本エンタメ小説大賞を狙うには、池波作品や藤沢作品を手本にするのが良いということになる。


内容的に言えば『血讐』は秋葉原の連続殺傷事件を題材にしている(こういう時事ネタは、他の新人賞では一次選考で撥ねられる)し、『嫁の心得』は時代考証が好い加減。


応募作を書くにあたって、かなり勉強した節は伺えるが、付け焼き刃の印象。「参勤交代で江戸に行く」などという初歩的な間違いが散見された。江戸に行って将軍に対面するのが「参勤」で、江戸から故国に帰るのが「交代」である。


誤字も多かった。ワープロ特有の誤変換ではなく、明らかに作者が無知であるがゆえの間違いとわかるものが多々あった(わざわざルビまで振ってあるので、それと分かる)。


つまり、選考委員も編集者も時代考証に弱く、他社なら見逃さない常識的なミスを見逃しているところから見て、この賞を狙うには、ひたすら面白ければOKで、正確な時代考証は無用だし、他新人賞ではNGの時事ネタもOK、という内情が、自ずと見えてくる。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

 あなたの欠点を添削しつつ、応募すべき文学賞を教えます。

 文学賞指南 添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。