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横溝正史ミステリ大賞

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

横溝正史ミステリ大賞

今回も前回に引き続いて「ミステリーで本格トリックを創るのが苦手な人は、代わりにドンデン返しを入れる」について論じることにして、最新の横溝正史ミステリ大賞受賞作『神様の裏の顔』(藤崎翔)を取り上げることにする(応募要項は、十一月五日締切で、ワープロ原稿は四十字×四十行で、八十八枚以上二百枚以内)。

『神様』は、いろいろな面で物議を醸した作品で、たくさんあるアマゾンのレビューも★一つから★五つまで、ばらばら。こういう場合、★五つは「作者の身内がサクラで書き込んだ〝やらせ?だろう」と思わせられるのだが、『神様』に限って言えば、全部のレビューが当て嵌まっている印象を与えた。

『神様』は極めて感情移入しにくい構成の物語である。感情移入が困難だった人は★一つの方向に向かい、感情移入できた人は★五つの方向に感想が向かうことになる。

つまり、一次選考が一人の下読み選者によって行われる新人賞の応募作であれば、しかも、その下読み選者が感情移入できなければ、一次選考で落とされた可能性もある作品だ、という特徴を念頭に置いて読めば『神様』は充分に〝傾向と対策?の教材となり得る物語だと言える。

(ここから先はネタバラシになるので、未読の人は注意)
『神様』は様々な登場人物のモノローグの手法で書かれ、しかも、そのモノローグの人物が次から次へと変遷する。『神様』とは中学校の校長まで務めた坪井誠造のことで、その人物が亡くなったお通夜の一晩、およそ二時間ほどの出来事で物語が終始する。

視点人物は葬儀社員↓喪主の坪井晴美(長女)↓坪井友美(次女)↓斎木直光(教え子)↓根岸義法(後輩教員)↓香村広子(隣人)↓鮎川茉希(教え子)↓寺島悠(故人のアパートの住人)と変遷し、これらの人物がランダムに入れ替わる。

これだけ入れ替わると、普通の人は感情移入しつつ物語の流れについていけない。通常、ついていけるのは三人で、大長編でも四人である。

この手の物語についていくには、実は主人公は、読んでいる読者自身で、亡くなった坪井校長は実は人格者などではなく、後暗い裏のある人間で、それを暴き出そうと目論んで会葬者に次々とインタビューしているルポライターだ、と自己暗示にでも掛けながら読むと、すんなり物語に溶け込める。

実際、物語は、そういう流れになっていく。故人の生存中に不審死や事故が何件も起きており、登場人物同士が会話することによって、実は故人が陰で糸を引いていたのではないか、不審死は全て故人が犯人の計画殺人事件で、事故は故人が犯人の計画傷害事件で、殺し損なったのではないか、という恐るべき状況が、浮かび上がってくる。

故人に対する嫌疑は、物語の四割ぐらいの時点で明らかになる。

人格者で神様のような人物だった故人が実はサイコキラーでした――というオチで物語を閉じるには四割という分量は早すぎる。いかにも犯人らしく見せかけておいて、実は、そうではありませんでした、というドンデン返しが来るはずだと思っていると、案の定、そうなる。

これが全体の七割ぐらいのところである。これまた、ここで「メデタシ、メデタシ」で終わるには早すぎる。となると、「いやいや、やっぱり全部が計画殺人事件や計画傷害事件でした」というドンデン返しが来るに違いない、と思って読んでいると、案の定そうなる。

『神様』には、新奇の本格トリックは一つもない。どの殺人事件や事故も、過去に使い古されているどころか、もっと平凡なものである。

この弱点をカバーするには、二度のドンデン返しでは少なすぎる。

『神様』は、二人一役のトリックも使っているので、この種明かしも加えるとしても、ドンデン返しの回数としては少なくて物足りない。過去の受賞作の『T.R.Y.』と続編の『T.R.Y.北京詐劇』や、前回、取り上げた『その女アレックス』に比べて少なすぎる。

どうしてこうなるのかというと、故人に連続殺人犯の嫌疑を掛ける、四割という位置が中途半端なのだ。

この半分、二割ぐらいの地点で嫌疑を浮上させていれば、もう一回や二回はドンデン返しを加える余裕が生まれてくる。

もちろんドンデン返しの数は多いほど良い。『神様』が、もしも五回も六回もドンデン返しがある応募作と競合していれば、グランプリを攫われた可能性は充分にある。

登場人物を二人ぐらい削って、故人の教え子に刑事がいたとでも設定すれば、可能になる。それと、登場人物の都合で、犯罪の証拠を握りつぶす箇所があって、これはご都合主義でいただけない。

それは敢えて明らかにせずに読者諸氏に課題として残すので、じっくり分析眼を持って『神様』を読んでみてほしい。

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 若桜木先生が、横溝正史ミステリ大賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 横溝正史ミステリ大賞講座

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

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電撃小説大賞

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『幽』怪談文学賞長編賞

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近藤五郎(第9回佳作)

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日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

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C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

横溝正史ミステリ大賞(2015年4月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

横溝正史ミステリ大賞

今回も前回に引き続いて「ミステリーで本格トリックを創るのが苦手な人は、代わりにドンデン返しを入れる」について論じることにして、最新の横溝正史ミステリ大賞受賞作『神様の裏の顔』(藤崎翔)を取り上げることにする(応募要項は、十一月五日締切で、ワープロ原稿は四十字×四十行で、八十八枚以上二百枚以内)。

『神様』は、いろいろな面で物議を醸した作品で、たくさんあるアマゾンのレビューも★一つから★五つまで、ばらばら。こういう場合、★五つは「作者の身内がサクラで書き込んだ〝やらせ?だろう」と思わせられるのだが、『神様』に限って言えば、全部のレビューが当て嵌まっている印象を与えた。

『神様』は極めて感情移入しにくい構成の物語である。感情移入が困難だった人は★一つの方向に向かい、感情移入できた人は★五つの方向に感想が向かうことになる。

つまり、一次選考が一人の下読み選者によって行われる新人賞の応募作であれば、しかも、その下読み選者が感情移入できなければ、一次選考で落とされた可能性もある作品だ、という特徴を念頭に置いて読めば『神様』は充分に〝傾向と対策?の教材となり得る物語だと言える。

(ここから先はネタバラシになるので、未読の人は注意)
『神様』は様々な登場人物のモノローグの手法で書かれ、しかも、そのモノローグの人物が次から次へと変遷する。『神様』とは中学校の校長まで務めた坪井誠造のことで、その人物が亡くなったお通夜の一晩、およそ二時間ほどの出来事で物語が終始する。

視点人物は葬儀社員↓喪主の坪井晴美(長女)↓坪井友美(次女)↓斎木直光(教え子)↓根岸義法(後輩教員)↓香村広子(隣人)↓鮎川茉希(教え子)↓寺島悠(故人のアパートの住人)と変遷し、これらの人物がランダムに入れ替わる。

これだけ入れ替わると、普通の人は感情移入しつつ物語の流れについていけない。通常、ついていけるのは三人で、大長編でも四人である。

この手の物語についていくには、実は主人公は、読んでいる読者自身で、亡くなった坪井校長は実は人格者などではなく、後暗い裏のある人間で、それを暴き出そうと目論んで会葬者に次々とインタビューしているルポライターだ、と自己暗示にでも掛けながら読むと、すんなり物語に溶け込める。

実際、物語は、そういう流れになっていく。故人の生存中に不審死や事故が何件も起きており、登場人物同士が会話することによって、実は故人が陰で糸を引いていたのではないか、不審死は全て故人が犯人の計画殺人事件で、事故は故人が犯人の計画傷害事件で、殺し損なったのではないか、という恐るべき状況が、浮かび上がってくる。

故人に対する嫌疑は、物語の四割ぐらいの時点で明らかになる。

人格者で神様のような人物だった故人が実はサイコキラーでした――というオチで物語を閉じるには四割という分量は早すぎる。いかにも犯人らしく見せかけておいて、実は、そうではありませんでした、というドンデン返しが来るはずだと思っていると、案の定、そうなる。

これが全体の七割ぐらいのところである。これまた、ここで「メデタシ、メデタシ」で終わるには早すぎる。となると、「いやいや、やっぱり全部が計画殺人事件や計画傷害事件でした」というドンデン返しが来るに違いない、と思って読んでいると、案の定そうなる。

『神様』には、新奇の本格トリックは一つもない。どの殺人事件や事故も、過去に使い古されているどころか、もっと平凡なものである。

この弱点をカバーするには、二度のドンデン返しでは少なすぎる。

『神様』は、二人一役のトリックも使っているので、この種明かしも加えるとしても、ドンデン返しの回数としては少なくて物足りない。過去の受賞作の『T.R.Y.』と続編の『T.R.Y.北京詐劇』や、前回、取り上げた『その女アレックス』に比べて少なすぎる。

どうしてこうなるのかというと、故人に連続殺人犯の嫌疑を掛ける、四割という位置が中途半端なのだ。

この半分、二割ぐらいの地点で嫌疑を浮上させていれば、もう一回や二回はドンデン返しを加える余裕が生まれてくる。

もちろんドンデン返しの数は多いほど良い。『神様』が、もしも五回も六回もドンデン返しがある応募作と競合していれば、グランプリを攫われた可能性は充分にある。

登場人物を二人ぐらい削って、故人の教え子に刑事がいたとでも設定すれば、可能になる。それと、登場人物の都合で、犯罪の証拠を握りつぶす箇所があって、これはご都合主義でいただけない。

それは敢えて明らかにせずに読者諸氏に課題として残すので、じっくり分析眼を持って『神様』を読んでみてほしい。

 あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP!

 若桜木先生が、横溝正史ミステリ大賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 横溝正史ミステリ大賞講座

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。