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小学館文庫小説賞

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

小学館文庫小説賞

今回は九月三十日締切(消印有効。A4の白紙に40字×40行で七十五?百五十枚。手書き原稿不可)の小学館文庫小説賞を論じることにする。

この賞の受賞作は出来不出来の差が極端に大きい。したがって人気作家になった者もいれば、あえなく文壇から跡形なく姿を消した者もいる。前回、小学館文庫小説賞について論じた時に取り上げたのが第十三回受賞作の『薔薇とビスケット』だが、これは、とうてい受賞作の名に値しない駄作だった。しかも第十四回の受賞作の八坂堂蓮『ドランク チェンジ』は未だに刊行されていない。

『薔薇』の酷評に懲りた編集部が、世に評価を問えるレベルまで改稿させようとして作者が注文に応じきれず、それで『ドランク』は未刊行に留まっているのではと見た。

で、第十五回受賞作の風カオル『ハガキ職人タカギ!』を全く期待せずに読んだのだが、良い方向に期待を裏切られた。正直、面白かった。まず、全く期待せずに読み始めた理由だが、主人公の高木少年が、高校二年生であること。物語が自宅のシーンから始まっていること。以下、通常であれば新人賞に応募すると一次選考で落とされそうな要素がオンパレードとなって出てくる。

新人賞を射止めるキーポイントの一つが「選考委員の知らない世界を書く」である。

太平洋戦争後、間もなくの頃とは違って、今や高校生活を知らない人はいない(少なくとも選考委員は、高卒以上である)から、高校生を主人公にするのであれば、よほど高校の環境が変わっていなければ、選考委員に目新しさを感じてもらうことはできない。バリバリの体育会系スポーツ強豪校とか、芸術系強豪校とかである。

さもないと、他の応募作と似通ってしまって「また、似たようなのが来た」で十把一絡げに落選にされる。新人賞は「他の人には思いつかないような物語を書ける新人を発掘する」ことに主眼を置いて選考が行われるからである。

主人公が通うのは県立の普通高校で、主人公はスポーツ少年どころか、どっちかというとオタク系、引き籠もり系で、学校には通っているものの、いつも自宅でラジオを聴いている。これも新人賞応募作としては、NGである。オタク系、引き籠もり系の物語は山ほど送られてくる。

主人公の高木には気になる女生徒がいる。同じクラスで、すぐ前の席に座っている、榊である。共学校で他にも女生徒はいるが、名前が出てくるのは、この榊だけである。となると、高木と榊の間がどうにかなる青春物語だろうと容易に想像ができる。高校生同士の男女関係に、そうそう変わったバリエーションは存在しない。男女関係は、どう書いても既視感(どこかで見たような話)を免れず、新人賞を狙うには、既視感は致命的な弱点となる。

だが『ハガキ職人』は読み進むに連れて、どんどん期待(予測)を、良い方向に裏切っていった。

「あれ? ちょっと毛色が違う方向に向かうぞ」と思い始める以前から『ハガキ職人』は登場人物の台詞回しが新人ばなれして巧かった。

短い単発台詞が多いのだが(通常、単発台詞はNG。理由は、書き手には登場人物の喋るイントネーションのイメージがあるが、それは単発台詞では読者に伝わらず、登場人物のキャラが見えてこない)はっきりと登場人物の個性が伝わってきた。

オタク系、引き籠もり系といっても、主人公はラジオを聴いて、お笑い系の番組に投稿して採用されるのを生き甲斐としている。これが表題の『ハガキ職人』にも繋がってくる。

ひょっとして、作者の風カオル自身が、このハガキ投稿のプロなのでは、とさえ思わせる。

遂に高木は投稿仲間から誘われて広島から「お上りさん」として東京に出て行き、番組のライブに出る。で、学期が始まって、高木は学校生活に戻るのだが、気になっていた女生徒の榊が、実は自分と同じ趣味を持っていて、榊は小学生の頃から高木の存在を投稿仲間として知っていたこと、将来は放送作家を目指していること、などが明らかになる。

あれあれ? この二人は、どうやら恋人同士になる展開ではないぞ、と思って(つまり、良い方向に期待が裏切られた)読み進めていくと、学校の文化祭という一大イベント(この内容も、当然のことながら、ありきたりの内容ではなくなる)で榊の台本および演出によって高木の級友たちの間で拍手喝采のショートコント劇が演じられる。

エンディングは、一挙に高校時代から九年後に飛ぶ。

高木は九年ぶりに、今やプロの放送作家になっている榊にラジオ生放送のライブ会場で再会を果たすのだが、高校時代には不細工少女だった榊は、都会生活で洗練され、それなりの美人になっている。

だからといって、高木と榊が恋人関係になるわけではなく、どうなっても不思議ではないような、今後を暗示するエンディングで物語に幕を引いている。

私は、よく生徒に「台詞の上手いのは七難隠す」と言うのだが、『ハガキ職人』は、台詞の巧みさだけでなく、自然な流れでありながら読者(選考委員)の予想を裏切る方向に物語を展開させていく

この辺りが、他のアマチュア応募者は参考にすべきところだろう。

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若桜木先生が送り出した作家たち

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わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

小学館文庫小説賞(2015年10月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

小学館文庫小説賞

今回は九月三十日締切(消印有効。A4の白紙に40字×40行で七十五?百五十枚。手書き原稿不可)の小学館文庫小説賞を論じることにする。

この賞の受賞作は出来不出来の差が極端に大きい。したがって人気作家になった者もいれば、あえなく文壇から跡形なく姿を消した者もいる。前回、小学館文庫小説賞について論じた時に取り上げたのが第十三回受賞作の『薔薇とビスケット』だが、これは、とうてい受賞作の名に値しない駄作だった。しかも第十四回の受賞作の八坂堂蓮『ドランク チェンジ』は未だに刊行されていない。

『薔薇』の酷評に懲りた編集部が、世に評価を問えるレベルまで改稿させようとして作者が注文に応じきれず、それで『ドランク』は未刊行に留まっているのではと見た。

で、第十五回受賞作の風カオル『ハガキ職人タカギ!』を全く期待せずに読んだのだが、良い方向に期待を裏切られた。正直、面白かった。まず、全く期待せずに読み始めた理由だが、主人公の高木少年が、高校二年生であること。物語が自宅のシーンから始まっていること。以下、通常であれば新人賞に応募すると一次選考で落とされそうな要素がオンパレードとなって出てくる。

新人賞を射止めるキーポイントの一つが「選考委員の知らない世界を書く」である。

太平洋戦争後、間もなくの頃とは違って、今や高校生活を知らない人はいない(少なくとも選考委員は、高卒以上である)から、高校生を主人公にするのであれば、よほど高校の環境が変わっていなければ、選考委員に目新しさを感じてもらうことはできない。バリバリの体育会系スポーツ強豪校とか、芸術系強豪校とかである。

さもないと、他の応募作と似通ってしまって「また、似たようなのが来た」で十把一絡げに落選にされる。新人賞は「他の人には思いつかないような物語を書ける新人を発掘する」ことに主眼を置いて選考が行われるからである。

主人公が通うのは県立の普通高校で、主人公はスポーツ少年どころか、どっちかというとオタク系、引き籠もり系で、学校には通っているものの、いつも自宅でラジオを聴いている。これも新人賞応募作としては、NGである。オタク系、引き籠もり系の物語は山ほど送られてくる。

主人公の高木には気になる女生徒がいる。同じクラスで、すぐ前の席に座っている、榊である。共学校で他にも女生徒はいるが、名前が出てくるのは、この榊だけである。となると、高木と榊の間がどうにかなる青春物語だろうと容易に想像ができる。高校生同士の男女関係に、そうそう変わったバリエーションは存在しない。男女関係は、どう書いても既視感(どこかで見たような話)を免れず、新人賞を狙うには、既視感は致命的な弱点となる。

だが『ハガキ職人』は読み進むに連れて、どんどん期待(予測)を、良い方向に裏切っていった。

「あれ? ちょっと毛色が違う方向に向かうぞ」と思い始める以前から『ハガキ職人』は登場人物の台詞回しが新人ばなれして巧かった。

短い単発台詞が多いのだが(通常、単発台詞はNG。理由は、書き手には登場人物の喋るイントネーションのイメージがあるが、それは単発台詞では読者に伝わらず、登場人物のキャラが見えてこない)はっきりと登場人物の個性が伝わってきた。

オタク系、引き籠もり系といっても、主人公はラジオを聴いて、お笑い系の番組に投稿して採用されるのを生き甲斐としている。これが表題の『ハガキ職人』にも繋がってくる。

ひょっとして、作者の風カオル自身が、このハガキ投稿のプロなのでは、とさえ思わせる。

遂に高木は投稿仲間から誘われて広島から「お上りさん」として東京に出て行き、番組のライブに出る。で、学期が始まって、高木は学校生活に戻るのだが、気になっていた女生徒の榊が、実は自分と同じ趣味を持っていて、榊は小学生の頃から高木の存在を投稿仲間として知っていたこと、将来は放送作家を目指していること、などが明らかになる。

あれあれ? この二人は、どうやら恋人同士になる展開ではないぞ、と思って(つまり、良い方向に期待が裏切られた)読み進めていくと、学校の文化祭という一大イベント(この内容も、当然のことながら、ありきたりの内容ではなくなる)で榊の台本および演出によって高木の級友たちの間で拍手喝采のショートコント劇が演じられる。

エンディングは、一挙に高校時代から九年後に飛ぶ。

高木は九年ぶりに、今やプロの放送作家になっている榊にラジオ生放送のライブ会場で再会を果たすのだが、高校時代には不細工少女だった榊は、都会生活で洗練され、それなりの美人になっている。

だからといって、高木と榊が恋人関係になるわけではなく、どうなっても不思議ではないような、今後を暗示するエンディングで物語に幕を引いている。

私は、よく生徒に「台詞の上手いのは七難隠す」と言うのだが、『ハガキ職人』は、台詞の巧みさだけでなく、自然な流れでありながら読者(選考委員)の予想を裏切る方向に物語を展開させていく

この辺りが、他のアマチュア応募者は参考にすべきところだろう。

 あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP!

 若桜木先生が、小学館文庫小説賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 小学館文庫小説賞講座

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

小説現代長編新人賞

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。