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日経小説大賞

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

 

今回は、六月三十日締切(消印有効)の日経小説大賞を取り上げる。四百字詰め原稿用紙換算で三百枚から四百枚程度(「程度」とは一割超過ぐらいまでは許容範囲とする)。

第七回受賞作の『公方様のお通り抜け』の筆者の西山ガラシャは、幸い、私の教室の生徒で、もう一人、最終候補に残った『白虎の征く道』の笹木一加も私の教室の生徒で、両方の作品とも私は全文を読んでいる(新人賞で私の教室の生徒が最終候補に複数名が残るのは、これで四度目)ので、日経小説大賞の選考傾向が読み取れた。

『公方様』は二月に日本経済新聞社から刊行予定で進行している(冒頭部分は日本経済新聞社のサイトで読むことができる)ので、この文章と併せ読んで〝傾向と対策?としてほしい。

『公方様』はユーモア時代劇である。随所で笑わせる。通常、笑わせる物語と泣かせる物語が激突すると選考委員は後者のほうに軍配を上げる。

もし『公方様』が外すとしたら、そこだろうと懸念していたのだが、講評を読むと、そこは好意的に捉えられている。つまりユーモア系物語で新人賞を射止めたいと願っているアマチュアにとっては日経小説大賞は狙い目だ、と言える。

次に『公方様』の表題にもなっている将軍は、家斉である。徳川十五代将軍の中では、家康、家光、綱吉、吉宗、家斉、慶喜の六人が超有名人で、いったい何作で取り上げられているか、数え切れない。

通常、こういった超有名人を取り上げると、応募作にも極めて多いために、一次選考の下読み選者が「またか」で飛ばし読みモードに入る。こうなったら挽回は厳しく、なかなか最終選考まで残ることが難しい。

しかし『公方様』が射止めたことで、超有名人を素材に取り上げても、書き方次第で充分にグランプリを狙えることがわかった。時代劇で一切の有名人を出さないことは極めて困難だから、そういう点で『公方様』は大いに参考になる。

小説現代長編新人賞奨励賞受賞作の『実さえ花さえ』(朝井まかて)にも超有名人が出てくるが、これは最後の最後まで伏せられていて、エンディング近くになって、ようやく種明かしのように明かされる。

だが『公方様』では最初から家斉の名前が堂々と出てくる。「なるほど、こういう書き方があるのか!」という絶好の指針になるはずである。

また、時代劇に限らず、小説では、どうしても登場人物の過去に触れざるを得ない。ある程度、その人物の過去に触れなければ、物語としての深みを出すことが困難だからである。

そうすると、どうしてもカットバックを多用したくなる。このカットバックが極めて難しい。書いている側は分かりやすくしているつもりだろうが、読んでいる側は時として、エピソードの時系列がよく分からなくなり、混乱を来す。

熟読すれば分かるが、下読み選者は熟読せず、斜めに読み飛ばすのが選考の基本という現実を忘れてはいけないし、そもそもエンターテインメントにおいて読者に「熟読・精読」を要求してはいけないのは、芥川賞受賞作『火花』に触れた際に述べたとおりである。

『公方様』にはカットバックがない。そこは大いに参考にしてほしい。どうしてもカットバックを使用せざるを得ない場合には、そこで章立てを変更して、何年ぐらい過去に戻ったのかを冒頭に明記することが必須である。これを怠ると、選考委員が混乱し、その混乱分だけ受賞から遠のくことになる。

また物語の中に「謎」を設定することは読者(選考委員)の興味を惹く上で必須だが、謎にしてはNGのものまで謎にしている応募作が実に多い。様々な新人賞で予選突破の常連となっている達者なアマチュアでも、往々にして、この間違いを犯す。

たとえば「男」とか「女」とだけ書いて、名前を出さない。それでメフィスト賞受賞作の『ハサミ男』のように、最後の最後まで引っ張って明かすのであれば、これは「真の謎」であって、許される。

ところが「男」「女」と書いていながら、ほんの数行先で、その男女の名前やら職業が明かされたりする。これは「謎」ではない。「単なる出し惜しみ」である。しかも、出し惜しみをする人は、これで選考委員の気を惹けると、大いなる勘違いをしているから、やたら、あちこちで乱発する。選考委員の顰蹙(ひんしゅく)を買って採点表に大きな減点材料として書き込まれているのに全く気づかない。

情報を伏せるのであれば、とことん最後の最後まで伏せて引っ張る。すぐにネタバラシするようなレベルの情報は伏せずに最初から明かす

前回も取り上げた注意事項だが、これはエンターテインメントを書くに際しては必須の鉄則である。

また、登場人物のキャラを立てることは、エンターテインメント系の新人賞を射止めるには必須だ。

私の小説教室でも、キャラ立ての上手い生徒と下手な生徒は両極端に分かれる。不思議なことに、中間の生徒は、ほとんどいない。

上手い生徒は最初から上手く、小説現代長編新人賞を処女作で射止めた田牧大和とか、料理人時代劇で売れっ子の小早川涼などは最初から上手かった。

『公方様』の西山も飄々とした人物造型が上手い。その辺りも、参考にして読んで欲しい。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

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 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

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若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

日経小説大賞(2016年3月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

 

今回は、六月三十日締切(消印有効)の日経小説大賞を取り上げる。四百字詰め原稿用紙換算で三百枚から四百枚程度(「程度」とは一割超過ぐらいまでは許容範囲とする)。

第七回受賞作の『公方様のお通り抜け』の筆者の西山ガラシャは、幸い、私の教室の生徒で、もう一人、最終候補に残った『白虎の征く道』の笹木一加も私の教室の生徒で、両方の作品とも私は全文を読んでいる(新人賞で私の教室の生徒が最終候補に複数名が残るのは、これで四度目)ので、日経小説大賞の選考傾向が読み取れた。

『公方様』は二月に日本経済新聞社から刊行予定で進行している(冒頭部分は日本経済新聞社のサイトで読むことができる)ので、この文章と併せ読んで〝傾向と対策?としてほしい。

『公方様』はユーモア時代劇である。随所で笑わせる。通常、笑わせる物語と泣かせる物語が激突すると選考委員は後者のほうに軍配を上げる。

もし『公方様』が外すとしたら、そこだろうと懸念していたのだが、講評を読むと、そこは好意的に捉えられている。つまりユーモア系物語で新人賞を射止めたいと願っているアマチュアにとっては日経小説大賞は狙い目だ、と言える。

次に『公方様』の表題にもなっている将軍は、家斉である。徳川十五代将軍の中では、家康、家光、綱吉、吉宗、家斉、慶喜の六人が超有名人で、いったい何作で取り上げられているか、数え切れない。

通常、こういった超有名人を取り上げると、応募作にも極めて多いために、一次選考の下読み選者が「またか」で飛ばし読みモードに入る。こうなったら挽回は厳しく、なかなか最終選考まで残ることが難しい。

しかし『公方様』が射止めたことで、超有名人を素材に取り上げても、書き方次第で充分にグランプリを狙えることがわかった。時代劇で一切の有名人を出さないことは極めて困難だから、そういう点で『公方様』は大いに参考になる。

小説現代長編新人賞奨励賞受賞作の『実さえ花さえ』(朝井まかて)にも超有名人が出てくるが、これは最後の最後まで伏せられていて、エンディング近くになって、ようやく種明かしのように明かされる。

だが『公方様』では最初から家斉の名前が堂々と出てくる。「なるほど、こういう書き方があるのか!」という絶好の指針になるはずである。

また、時代劇に限らず、小説では、どうしても登場人物の過去に触れざるを得ない。ある程度、その人物の過去に触れなければ、物語としての深みを出すことが困難だからである。

そうすると、どうしてもカットバックを多用したくなる。このカットバックが極めて難しい。書いている側は分かりやすくしているつもりだろうが、読んでいる側は時として、エピソードの時系列がよく分からなくなり、混乱を来す。

熟読すれば分かるが、下読み選者は熟読せず、斜めに読み飛ばすのが選考の基本という現実を忘れてはいけないし、そもそもエンターテインメントにおいて読者に「熟読・精読」を要求してはいけないのは、芥川賞受賞作『火花』に触れた際に述べたとおりである。

『公方様』にはカットバックがない。そこは大いに参考にしてほしい。どうしてもカットバックを使用せざるを得ない場合には、そこで章立てを変更して、何年ぐらい過去に戻ったのかを冒頭に明記することが必須である。これを怠ると、選考委員が混乱し、その混乱分だけ受賞から遠のくことになる。

また物語の中に「謎」を設定することは読者(選考委員)の興味を惹く上で必須だが、謎にしてはNGのものまで謎にしている応募作が実に多い。様々な新人賞で予選突破の常連となっている達者なアマチュアでも、往々にして、この間違いを犯す。

たとえば「男」とか「女」とだけ書いて、名前を出さない。それでメフィスト賞受賞作の『ハサミ男』のように、最後の最後まで引っ張って明かすのであれば、これは「真の謎」であって、許される。

ところが「男」「女」と書いていながら、ほんの数行先で、その男女の名前やら職業が明かされたりする。これは「謎」ではない。「単なる出し惜しみ」である。しかも、出し惜しみをする人は、これで選考委員の気を惹けると、大いなる勘違いをしているから、やたら、あちこちで乱発する。選考委員の顰蹙(ひんしゅく)を買って採点表に大きな減点材料として書き込まれているのに全く気づかない。

情報を伏せるのであれば、とことん最後の最後まで伏せて引っ張る。すぐにネタバラシするようなレベルの情報は伏せずに最初から明かす

前回も取り上げた注意事項だが、これはエンターテインメントを書くに際しては必須の鉄則である。

また、登場人物のキャラを立てることは、エンターテインメント系の新人賞を射止めるには必須だ。

私の小説教室でも、キャラ立ての上手い生徒と下手な生徒は両極端に分かれる。不思議なことに、中間の生徒は、ほとんどいない。

上手い生徒は最初から上手く、小説現代長編新人賞を処女作で射止めた田牧大和とか、料理人時代劇で売れっ子の小早川涼などは最初から上手かった。

『公方様』の西山も飄々とした人物造型が上手い。その辺りも、参考にして読んで欲しい。

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

 あなたの欠点を添削しつつ、応募すべき文学賞を教えます。

 文学賞指南 添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。