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ミステリー要素がなくてもOK!?『このミステリーがすごい!』大賞

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

 

〝懐の広さ?が特徴

今回は、五月三十一日締切(消印有効)の『このミステリーがすごい!』大賞(四百字詰原稿用紙換算で四百?六百五十枚。横置きA4用紙に、縦組み四十字×四十行でページ設定)を取り上げる。

広 義のミステリーで、ホラー要素の強い小説やSF的設定を持つ小説でも、斬新な発想や社会性、現代性に富んだ作品であればOK、と応募要項にあるが、実際に はミステリー要素がなく、現代性など欠片もない時代劇でも、受賞作や「隠し玉」にあるという〝懐の広さ?が、この賞の特徴である。

で、まず第十三回の優秀賞受賞作の『いなくなった私へ』(辻堂ゆめ)を取り上げると、これは、どう読んでもミステリーではない。

典型的なホラー・ファンタジーである(といっても怖さは、ほとんどない)。

受賞作も読まずに「私にはミステリーは書けないから」と『このミステリーがすごい!』大賞を敬遠する新人賞狙いのアマチュアには、絶好の指針になる作品と言える。

(以降、ネタバレ注意)
物語は人気シンガソングライターの上条梨乃が殺害されたところから始まる(ただ、この時点では、殺人事件とは判明していない)。

殺された主人公の梨乃は、渋谷のゴミ捨て場で目を覚ます。従来型の作品だと、梨乃は幽霊になっていて自分を殺害した犯人を探すミステリーになるのだが、この作品は、そうではない(もし、そうなら「既存作あり」で、あっさり一次選考で確実に落選にされている)。

幽霊ではなく、ちゃんと実体のある生身の人間として〝復活?したのだが、周囲の人間の誰も梨乃を単に「梨乃に良く似た雰囲気の女性」としか、認識しない。

一種の輪廻転生ものだが、赤ん坊に転生するのではなく、死んだ時とほぼ同じ状態の肉体の中に転生する、という状況が目新しく、その点が、「新奇のアイデア」として評価されたのだろう。

梨 乃はマンションから投身自殺したことになっていて、自殺の動機などないことを知っている梨乃は、自分の所属していた芸能事務所にアルバイトとして入り、謎 を探っていく。まあ、その辺りが多少はミステリーらしいと言えないこともないが、それにしては名探偵らしさが一つもない。挙げ句、梨乃を自殺に偽装して殺 した犯人に、またしても殺されることになり……という流れになる。

殺人事件の謎解きミステリーではなく、どちらかというと、ほのぼのして「泣かせるファンタジー」系統に属する作品である。

宝島社は日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞もなくなり、ラブストーリーが売れなくなった今、こういうタイプの「別ジャンルで味付けした作品」で新人賞を狙うのは、非常に良いことだと思う。そういう意味で『いなくなった私』は新人賞狙いの〝傾向と対策?に役立つ。

〝傾向と対策?に役立つ過去の受賞作

ミステリーという点なら、その前回の「隠し玉」になった『泥棒だって謎を解く』と『二万パーセントのアリバイ』のほうが、よほど本格ミステリーの要素を備えている。

だ が『二万パーセント』は全体的に既視感(どこかで見たような話)が漂い、しかも殺人事件の容疑者のDNAが発見されるが、当人は刑務所に服役中で、鉄壁の アリバイを持っている(それが表題に繋がる)という点から「ああ、これは、同一のDNAを持っている一卵性双生児ものだな」と誰でも見当がつき、実際、そ のとおりになる。途中で何度も、そうではないぞ、というミス・ディレクションを仕掛けるのだが、弱い。

これが「隠し玉」に終わった理由だ ろう。本格ミステリーとしては、もう一本の『泥棒だって』のほうが意外性とドンデン返しの多さで上回っており、こちらは優秀賞でも良かったのではないか。 主人公の泥棒二人組が刑事二人と同級生で、四人がタッグを組んで難解な連続殺人事件の謎を解く、という登場人物設定のわざとらしさが減点材料になって、 「隠し玉」に留まったか。

この辺りの登場人物設定も、『このミステリーがすごい!』大賞を狙う際の〝傾向と対策?には役立つ。

『いなくなった私』と優秀賞同時受賞の『深山の桜』(神家正成)は、自衛隊員でなければ書けない作品。

単なる取材では、とてもここまで詳細に書くことはできない。

これはまた、別の意味で新人賞狙いの〝傾向と対策?に役立つ作品である。新人賞を、自分の職場の出来事に題材を採って書きたいのだが、公務員なので、守秘義務違反に抵触する懸念があって二の足を踏んでいる、という人は、意外に多い。そういう懸念を持っている人は、『深山』を読めば、どこまで書いたら守秘義務違反に抵触するのか、また、どこまでなら書いてもOKなのか、おおよその感覚が把握できると思われる。

『深 山』には時事ネタも山ほど出てくるが(マスコミで派手に取り上げられた時事ネタ素材は、新人賞応募落選作に大量に来るので、「創造力・想像力が貧困」と見 なされて選考時の減点対象になる可能性が大きい)ここまで専門的に掘り下げられれば、類似素材の他の応募作に明らかに差を付けることができる。そういう点 でも参考になる作品と言える。

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 若桜木先生が、『このミステリーがすごい!』大賞を受賞するためのテクニックを教えます!

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若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

『このミステリーがすごい!』大賞(2016年5月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

 

〝懐の広さ?が特徴

今回は、五月三十一日締切(消印有効)の『このミステリーがすごい!』大賞(四百字詰原稿用紙換算で四百?六百五十枚。横置きA4用紙に、縦組み四十字×四十行でページ設定)を取り上げる。

広 義のミステリーで、ホラー要素の強い小説やSF的設定を持つ小説でも、斬新な発想や社会性、現代性に富んだ作品であればOK、と応募要項にあるが、実際に はミステリー要素がなく、現代性など欠片もない時代劇でも、受賞作や「隠し玉」にあるという〝懐の広さ?が、この賞の特徴である。

で、まず第十三回の優秀賞受賞作の『いなくなった私へ』(辻堂ゆめ)を取り上げると、これは、どう読んでもミステリーではない。

典型的なホラー・ファンタジーである(といっても怖さは、ほとんどない)。

受賞作も読まずに「私にはミステリーは書けないから」と『このミステリーがすごい!』大賞を敬遠する新人賞狙いのアマチュアには、絶好の指針になる作品と言える。

(以降、ネタバレ注意)
物語は人気シンガソングライターの上条梨乃が殺害されたところから始まる(ただ、この時点では、殺人事件とは判明していない)。

殺された主人公の梨乃は、渋谷のゴミ捨て場で目を覚ます。従来型の作品だと、梨乃は幽霊になっていて自分を殺害した犯人を探すミステリーになるのだが、この作品は、そうではない(もし、そうなら「既存作あり」で、あっさり一次選考で確実に落選にされている)。

幽霊ではなく、ちゃんと実体のある生身の人間として〝復活?したのだが、周囲の人間の誰も梨乃を単に「梨乃に良く似た雰囲気の女性」としか、認識しない。

一種の輪廻転生ものだが、赤ん坊に転生するのではなく、死んだ時とほぼ同じ状態の肉体の中に転生する、という状況が目新しく、その点が、「新奇のアイデア」として評価されたのだろう。

梨 乃はマンションから投身自殺したことになっていて、自殺の動機などないことを知っている梨乃は、自分の所属していた芸能事務所にアルバイトとして入り、謎 を探っていく。まあ、その辺りが多少はミステリーらしいと言えないこともないが、それにしては名探偵らしさが一つもない。挙げ句、梨乃を自殺に偽装して殺 した犯人に、またしても殺されることになり……という流れになる。

殺人事件の謎解きミステリーではなく、どちらかというと、ほのぼのして「泣かせるファンタジー」系統に属する作品である。

宝島社は日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞もなくなり、ラブストーリーが売れなくなった今、こういうタイプの「別ジャンルで味付けした作品」で新人賞を狙うのは、非常に良いことだと思う。そういう意味で『いなくなった私』は新人賞狙いの〝傾向と対策?に役立つ。

〝傾向と対策?に役立つ過去の受賞作

ミステリーという点なら、その前回の「隠し玉」になった『泥棒だって謎を解く』と『二万パーセントのアリバイ』のほうが、よほど本格ミステリーの要素を備えている。

だ が『二万パーセント』は全体的に既視感(どこかで見たような話)が漂い、しかも殺人事件の容疑者のDNAが発見されるが、当人は刑務所に服役中で、鉄壁の アリバイを持っている(それが表題に繋がる)という点から「ああ、これは、同一のDNAを持っている一卵性双生児ものだな」と誰でも見当がつき、実際、そ のとおりになる。途中で何度も、そうではないぞ、というミス・ディレクションを仕掛けるのだが、弱い。

これが「隠し玉」に終わった理由だ ろう。本格ミステリーとしては、もう一本の『泥棒だって』のほうが意外性とドンデン返しの多さで上回っており、こちらは優秀賞でも良かったのではないか。 主人公の泥棒二人組が刑事二人と同級生で、四人がタッグを組んで難解な連続殺人事件の謎を解く、という登場人物設定のわざとらしさが減点材料になって、 「隠し玉」に留まったか。

この辺りの登場人物設定も、『このミステリーがすごい!』大賞を狙う際の〝傾向と対策?には役立つ。

『いなくなった私』と優秀賞同時受賞の『深山の桜』(神家正成)は、自衛隊員でなければ書けない作品。

単なる取材では、とてもここまで詳細に書くことはできない。

これはまた、別の意味で新人賞狙いの〝傾向と対策?に役立つ作品である。新人賞を、自分の職場の出来事に題材を採って書きたいのだが、公務員なので、守秘義務違反に抵触する懸念があって二の足を踏んでいる、という人は、意外に多い。そういう懸念を持っている人は、『深山』を読めば、どこまで書いたら守秘義務違反に抵触するのか、また、どこまでなら書いてもOKなのか、おおよその感覚が把握できると思われる。

『深 山』には時事ネタも山ほど出てくるが(マスコミで派手に取り上げられた時事ネタ素材は、新人賞応募落選作に大量に来るので、「創造力・想像力が貧困」と見 なされて選考時の減点対象になる可能性が大きい)ここまで専門的に掘り下げられれば、類似素材の他の応募作に明らかに差を付けることができる。そういう点 でも参考になる作品と言える。

 あなたの応募原稿、添削します! 受賞確立大幅UP!

 若桜木先生が、『このミステリーがすごい!』大賞を受賞するためのテクニックを教えます!

 『このミステリーがすごい!』大賞講座

 受賞できるかどうかは、書く前から決まっていた!

 あらすじ・プロットの段階で添削するのが、受賞の近道!

 あらすじ・プロット添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。