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強い女性刑事の書き方

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作文・エッセイ
作家デビュー

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

 

弱い女性より強い女性

残念ながら、依然として出版界の空前の絶不景気が続いている。ひところ騒がれた電子出版も「笛吹けど踊らず」で、ほとんど売れていない。

その中で唯一、売れているジャンルが時代劇とミステリーだ(正確に言えば、SFとかラブストーリーといった他ジャンルが壊滅して、時代劇とミステリーが売れているように見えるだけで、実際には大して売れていない)。

特にミステリーはテレビ化の企画に乗りやすい、という理由で新人賞を主催している出版社も「映像化されそうな応募作に授賞する」傾向が見られる(どの程度まで新人賞選考の場において考慮されるかは、選考委員と幹部編集者の力関係によるので、新人賞によって差がある)。

で、今回は「映像化という観点において選考時に加点材料となりそうな、主人公のキャラクター設定」について述べる。

映像化には、美女・美少女(できれば両方)を出して活躍させることが必須で、そうしないと視聴率が取れない。なぜか、男性のイケメン俳優を出しても、視聴率は取れない。で、その美女・美少女だが、刑事になる警察ミステリーが映像化企画に乗りやすい。

ミステリーの売れ筋は孤島や特殊な館で密室殺人事件が起きる新本格系と警察ミステリー系の二本である。

前回、メフィスト賞で密室殺人事件に触れたので、今回は警察ミステリーについて述べる。

で、その女性刑事だが、強い女にするか、弱くて平凡な女にするか、という、最初に設定を考える上での問題があるが、私は前者を推奨する。書き易いのは、いかにも女性らしい、弱くて平凡な女だが、これは誰が書いても似たような雰囲気になる。

新人賞の選考基準は「他の応募者が書けないような作品を書くアマチュア」を発掘するところにある。前者を推奨する理由はそこにある。

一括りに「強い女」と言っても、これは書き手の個性が出てくるので、仮に「強い女刑事」が出てくる既存作を読んで真似して書こうとしても、いざ書いてみると、そうならない。

書き手のオリジナリティが出てくるので「強い女刑事」をイメージして物語を考えてみると良い。

強い女性刑事はこの作品をパクれ!

で、どういう作品があるか、だが、列挙していくことにすると、まずは『私の結婚に関する予言38』で日本ラブストーリー大賞エンタテインメント特別賞を受賞して出てきた吉川英梨の『女性秘匿捜査官・原麻希』シリーズの主人公・原麻希。これは瀬戸朝香の主演でドラマ化された。ラブストーリーでデビューしながら以降ずっと警察ミステリーを書いているところから見ても、こちらのほうが売れることが推測できる。

鮎川哲也賞を『ヴェサリウスの柩』で受賞して出てきた麻見和史の『警視庁捜査一課十一係』シリーズの主人公・如月塔子。木村文乃の主演でドラマ化されたが、このキャラ設定は、やや弱い。もうちょい強いほうが新人賞は予選突破しやすいはず。麻見も、鮎川哲也賞受賞作の系統よりは警察ミステリーにシフトしている。

篠原涼子主演でロングランのドラマ化された『アンフェア』シリーズの主人公・雪平夏見。原作者は秦建日子で、河出書房から四冊が出ているが、秦は元々が脚本家で、書き方が小説的ではないので、このスタイルは真似しないほうが良い。選考時の減点対象になる危険性が高いので、模倣は主人公設定のみに留めるべき。

誉田哲也の『ストロベリー・ナイト』シリーズの主人公・姫川玲子。これは竹内結子主演で映像化された。同じく誉田の『ジウ』のW主人公の門倉美咲と伊崎基子だが、成功したのは基子のほうで、美咲は成功したとは言い難いし、模倣しにくい。

映像化は美咲が多部未華子、基子が黒木メイサの主演だったが、美咲を模倣すると誰が書いても似たような感じになるはずで、避けるべき。

多部未華子主演だと七尾与史原作の『ドS刑事』シリーズの主人公の黒井マヤ巡査部長。これは相当に毒のあるキャラ設定なので、仮に意識的に真似しても、おそらく似たようにはならないはずで、肌に合いさえすれば模倣する価値はある。

創元推理短編賞を『三人目の幽霊』で受賞して出てきた大倉崇裕の『警視庁総務部動植物管理係』シリーズの主人公の薄圭子巡査。これは映像化は未だだが、いずれ映像化されると見ている。ややキャラ設定が弱いので、もう少し「強い女」にすれば予選突破し易い、オリジナリティのあるキャラを造型できるだろう。

同じ大倉の『福家警部補』シリーズは、檀れい・永作博美の主演で映像化されたが、こっちは見るからに『刑事コロンボ』のパロディ的なキャラ設定なので、NG。基本的に、パロディだとオリジナル創作能力に疑問符が付くので、予選で落とされるから、要注意。

応募作で最も多いパロディは金田一耕助で、以前は『横溝正史パロディ』の受賞作もあったが、最近は皆無なので避けるべきだろう。

 あらすじ・プロットの添削講座がスタート!

 小説を書き始める前の段階、あらすじ・プロットを添削します。

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

 あなたの欠点を添削しつつ、応募すべき文学賞を教えます。

 文学賞指南 添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。

強い女性刑事の書き方(2016年9月号)

文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。

多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授します。

 

弱い女性より強い女性

残念ながら、依然として出版界の空前の絶不景気が続いている。ひところ騒がれた電子出版も「笛吹けど踊らず」で、ほとんど売れていない。

その中で唯一、売れているジャンルが時代劇とミステリーだ(正確に言えば、SFとかラブストーリーといった他ジャンルが壊滅して、時代劇とミステリーが売れているように見えるだけで、実際には大して売れていない)。

特にミステリーはテレビ化の企画に乗りやすい、という理由で新人賞を主催している出版社も「映像化されそうな応募作に授賞する」傾向が見られる(どの程度まで新人賞選考の場において考慮されるかは、選考委員と幹部編集者の力関係によるので、新人賞によって差がある)。

で、今回は「映像化という観点において選考時に加点材料となりそうな、主人公のキャラクター設定」について述べる。

映像化には、美女・美少女(できれば両方)を出して活躍させることが必須で、そうしないと視聴率が取れない。なぜか、男性のイケメン俳優を出しても、視聴率は取れない。で、その美女・美少女だが、刑事になる警察ミステリーが映像化企画に乗りやすい。

ミステリーの売れ筋は孤島や特殊な館で密室殺人事件が起きる新本格系と警察ミステリー系の二本である。

前回、メフィスト賞で密室殺人事件に触れたので、今回は警察ミステリーについて述べる。

で、その女性刑事だが、強い女にするか、弱くて平凡な女にするか、という、最初に設定を考える上での問題があるが、私は前者を推奨する。書き易いのは、いかにも女性らしい、弱くて平凡な女だが、これは誰が書いても似たような雰囲気になる。

新人賞の選考基準は「他の応募者が書けないような作品を書くアマチュア」を発掘するところにある。前者を推奨する理由はそこにある。

一括りに「強い女」と言っても、これは書き手の個性が出てくるので、仮に「強い女刑事」が出てくる既存作を読んで真似して書こうとしても、いざ書いてみると、そうならない。

書き手のオリジナリティが出てくるので「強い女刑事」をイメージして物語を考えてみると良い。

強い女性刑事はこの作品をパクれ!

で、どういう作品があるか、だが、列挙していくことにすると、まずは『私の結婚に関する予言38』で日本ラブストーリー大賞エンタテインメント特別賞を受賞して出てきた吉川英梨の『女性秘匿捜査官・原麻希』シリーズの主人公・原麻希。これは瀬戸朝香の主演でドラマ化された。ラブストーリーでデビューしながら以降ずっと警察ミステリーを書いているところから見ても、こちらのほうが売れることが推測できる。

鮎川哲也賞を『ヴェサリウスの柩』で受賞して出てきた麻見和史の『警視庁捜査一課十一係』シリーズの主人公・如月塔子。木村文乃の主演でドラマ化されたが、このキャラ設定は、やや弱い。もうちょい強いほうが新人賞は予選突破しやすいはず。麻見も、鮎川哲也賞受賞作の系統よりは警察ミステリーにシフトしている。

篠原涼子主演でロングランのドラマ化された『アンフェア』シリーズの主人公・雪平夏見。原作者は秦建日子で、河出書房から四冊が出ているが、秦は元々が脚本家で、書き方が小説的ではないので、このスタイルは真似しないほうが良い。選考時の減点対象になる危険性が高いので、模倣は主人公設定のみに留めるべき。

誉田哲也の『ストロベリー・ナイト』シリーズの主人公・姫川玲子。これは竹内結子主演で映像化された。同じく誉田の『ジウ』のW主人公の門倉美咲と伊崎基子だが、成功したのは基子のほうで、美咲は成功したとは言い難いし、模倣しにくい。

映像化は美咲が多部未華子、基子が黒木メイサの主演だったが、美咲を模倣すると誰が書いても似たような感じになるはずで、避けるべき。

多部未華子主演だと七尾与史原作の『ドS刑事』シリーズの主人公の黒井マヤ巡査部長。これは相当に毒のあるキャラ設定なので、仮に意識的に真似しても、おそらく似たようにはならないはずで、肌に合いさえすれば模倣する価値はある。

創元推理短編賞を『三人目の幽霊』で受賞して出てきた大倉崇裕の『警視庁総務部動植物管理係』シリーズの主人公の薄圭子巡査。これは映像化は未だだが、いずれ映像化されると見ている。ややキャラ設定が弱いので、もう少し「強い女」にすれば予選突破し易い、オリジナリティのあるキャラを造型できるだろう。

同じ大倉の『福家警部補』シリーズは、檀れい・永作博美の主演で映像化されたが、こっちは見るからに『刑事コロンボ』のパロディ的なキャラ設定なので、NG。基本的に、パロディだとオリジナル創作能力に疑問符が付くので、予選で落とされるから、要注意。

応募作で最も多いパロディは金田一耕助で、以前は『横溝正史パロディ』の受賞作もあったが、最近は皆無なので避けるべきだろう。

 あらすじ・プロットの添削講座がスタート!

 小説を書き始める前の段階、あらすじ・プロットを添削します。

 あらすじ・プロット添削講座

 自分に合った文学賞はどれ? どこに応募すればいい?

 あなたの欠点を添削しつつ、応募すべき文学賞を教えます。

 文学賞指南 添削講座

若桜木先生が送り出した作家たち

日経小説大賞

西山ガラシャ(第7回)

小説現代長編新人賞

泉ゆたか(第11回)

小島環(第9回)

仁志耕一郎(第7回)

田牧大和(第2回)

中路啓太(第1回奨励賞)

朝日時代小説大賞

木村忠啓(第8回)

仁志耕一郎(第4回)

平茂寛(第3回)

歴史群像大賞

山田剛(第17回佳作)

祝迫力(第20回佳作)

富士見新時代小説大賞

近藤五郎(第1回優秀賞)

電撃小説大賞

有間カオル(第16回メディアワークス文庫賞)

『幽』怪談文学賞長編賞

風花千里(第9回佳作)

近藤五郎(第9回佳作)

藤原葉子(第4回佳作)

日本ミステリー文学大賞新人賞 石川渓月(第14回)
角川春樹小説賞

鳴神響一(第6回)

C★NOVELS大賞

松葉屋なつみ(第10回)

ゴールデン・エレファント賞

時武ぼたん(第4回)

わかたけまさこ(第3回特別賞)

新沖縄文学賞

梓弓(第42回)

歴史浪漫文学賞

扇子忠(第13回研究部門賞)

日本文学館 自分史大賞 扇子忠(第4回)
その他の主な作家 加藤廣『信長の棺』、小早川涼、森山茂里、庵乃音人、山中将司
新人賞の最終候補に残った生徒 菊谷智恵子(日本ミステリー文学大賞新人賞)、高田在子(朝日時代小説大賞、日本ラブストーリー大賞、日経小説大賞、坊っちゃん文学賞、ゴールデン・エレファント賞)、日向那由他(角川春樹小説賞、富士見新時代小説大賞)、三笠咲(朝日時代小説大賞)、木村啓之介(きらら文学賞)、鈴城なつみち(TBSドラマ原作大賞)、大原健碁(TBSドラマ原作大賞)、赤神諒(松本清張賞)、高橋桐矢(小松左京賞)、藤野まり子(日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞)

若桜木虔(わかさき・けん) プロフィール

昭和22年静岡県生まれ。NHK文化センター、読売文化センター(町田市)で小説講座の講師を務める。若桜木虔名義で約300冊、霧島那智名義で約200冊の著書がある。『修善寺・紅葉の誘拐ライン』が文藝春秋2004年傑作ミステリー第9位にランクイン。