受賞のコトバ 2016年5月
雪をテーマに、雪の幻想性を表現した小さな物語を募集。審査員は萩尾望都、乳井昌史。大賞受賞者には賞金30万円が贈られる。
(主催:ゆきのまち通信)
受賞者:伊藤万記(いとう・まき)
1965年、石川県生まれ。早稲田大学第一文学部演劇専修卒業。高校教師。趣味は海外旅行、読書、料理、小説の執筆。受賞作は『月刊ジェイ・ノベル』4月号(実業之日本社)に掲載されている。
商業性とは離れたところで認められた経験
受賞の連絡を頂いたときは、正直、「何かの間違いではないか」と思いました。自分で言うのも何ですが、地味な応募作だったからです。
拙作『冬の虫』は、私が生まれ育った北陸をイメージして書いたもので、十年以上、どこへ出すあてもなく改稿を重ねてきた原稿でした。
それをなぜ今年になって応募したのかというと、以前は勤め先の規定で文章を自由に発表できなかったところ、転職を機に制約がなくなり、その解放感からポストに走ったというわけなのです。
つまり、応募すること自体が目的だった部分があり、投函した時点で既にかなり満足していました。
勿論、思い入れの深い掌編ではありましたが、冒頭で書いたとおり地味な話なので(どれだけ地味かは、ぜひ5月1日発行の『ゆきのまち通信』をご覧ください)、賞を獲るタイプではないと思っていたのです。
そんなふうに気負いなく応募した原稿を、多くの作品の中から大賞に選んで頂けるとは。時間が経つにつれ、そのことがしみじみと嬉しく、意味深く感じられます。
以前、小説に関して、私には兄のような存在の人がいました。中央の賞で才能を認められ、華々しくデビューした彼の本は、しかし売れませんでした。数年後には、担当編集者に新作の原稿を送っても、何の反応もなく放置される始末。
自信を失い追い詰められていく兄の姿を見て、私は出版社側に憤りを感じました。けれども後に、そんなことは有りふれた話だと知りました。出版は慈善事業じゃない。
売れない作家・作品は商業的に無価値なのだという当然のことを理解したとき、出版業界に対する幻想は消えました。その代わり、兄が苦しんだ商業出版の世界で、収益を生む商品をつくり出したいと考えるようになったのです。
しかし、ゆきのまち幻想文学賞は、そういった野心とは無縁のところにあります。
今回の受賞は、それこそ雪のイメージのように純粋な、商業性とは離れたところで自作を認めてもらえた経験として、今後の私を支え、あるいは諫めてくれることでしょう。
受賞作:『冬の虫』
朝となく夜となく家を抜け出し、駅のベンチで電車を待つ祖父。連れ戻すのはいつも孝志の役目だった。第一志望の高校に合格すれば実家を出ることが決まっている孝志は、この冬かぎりで祖父から解放されると、春を心待ちにしていたのだが?? 。
大手有名企業45社から出題された課題について、指定された広告媒体の中から一つを選択し、広告コピー・キャッチフレーズ、テレビ・ラジオCM企画を募集。グランプリ受賞者には100万円が贈られる。
(主催:宣伝会議)
受賞者:今野和人(こんの・かずと)
1984年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部人文科学科卒業。お笑いトリオ「ザ・フライ」のメンバー。趣味は読書。好きな作家は山田太一。
前回との一番の差は覚悟の大きさ
僕は年中暗い感情で生きているのですが、強い広告は自分の気持ちに関係なく目に飛び込んできて心を動かしてくれます。暗い気持ちを吹き飛ばし、憧れや何かを切実に欲しいと願う思いを持たせてくれるのです。大学生の頃、そうしたキャッチコピーやCMの価値に気づき、芸人になった後も関心をずっと寄せ続けていました。
3年前、初めて宣伝会議賞に応募しました。その時の応募理由は、前述の広告に対する関心と賞金の100万円が欲しかったからでした。当時(今も)、芸人の収入だけでは到底生活できないので、アルバイトをしていました。ですが僕はアルバイトが昔から嫌いで、始めても長続きしません。毎度初日から辞めたくなり、毎回、芸人の仕事が忙しくなってきたので……という酷い嘘をついて辞めてきました。口先では、芸人になってから7年で10回も売れているのです。言葉って信用できないですね。
そんな苦労が長続きしない僕でも、芸人としてネタ作りだけは続けられていました。創作活動という意味においてネタ作りと似たキャッチコピー制作なら、相応に努力できてかつ賞金も獲得できるのでは? と思い至り挑戦したのです。
結果は1本も一次審査を通りませんでした。惨敗です。他ジャンルに挑戦する前に、もっと本業の芸事を磨こうと思いました。
では3年後、なぜ再び挑戦したかというと、今度は勝手ながら応募を芸人として成長するための仕事の一つと捉え、真剣に向き合ってみようと思ったからです。そのため、前回は誰にも知らせず応募したのですが、今回は宣伝会議賞の企画の一環である「チャレンジブログ」というブログ内で芸人だと公表した上で制作に臨みました。
ですから前回と今回の一番の差は、覚悟の大きさです。成果を出さざるを得ない状況に自分を持っていったので、ギリギリまで粘って考えられました。ちなみに受賞作は締め切り直前の晩に書いたものです。
今後は「ザ・フライ」というトリオとしての活動を継続させていく一方で、僕個人の仕事の幅も広げたいです。具体的には今回のCM字コンテのような、台本を執筆する仕事を頂けるようになりたいと考えています。
受賞作品
【親子】篇
父親がリビングにて寝転がってテレビを見ている。
娘が掃除機をかけながら父親の前まで来る。
娘 「お父さん、そこ掃除するから」
父 「ああ」
娘 「旅行でも行ってきて」
父 「え?」
(娘の手から父親の手に商品を手渡されるカット)
驚く父親を尻目に掃除機をかける娘
NA 「大切なあのひとに、JTBの旅行券を贈ろう」
協賛企業:ジェイティービー
課題:「JTBの旅行券」を大切なひとへ贈りたくなる広告表現