がん研究者が描く本格医療ミステリーが「このミス」大賞
「公募ガイド」1月号では、実体験を下敷きににしたり、発想のもとにすることで「作品の描写をリアルにできる」手法を特集しています。
先日発表された、第15回 『このミステリーがすごい!』では、がん治療の現場を描いた『救済のネオプラズム』が大賞を受賞しましたが、作者の岩木一麻さんは国立がん研究センター、放射線医学総合研究所で研究に従事していた経験があり、現在も医療系出版社編集部に勤務しているとのこと。まさに今回の公募ガイドの特集にリンクした作品が受賞されたので、非常に驚いています。
応募前に、医師・看護師・研究員などの専門家に読んでもらい、感想を聞いたりもされていたようで、まさにリアルを生かして書かれた作品であるともいえます。
また、今回の受賞作は、第13回の2次選考で落選した作品を改稿して再応募したものだそう。「頂いたアドバイスを生かして他賞に応募するのも変な話だと思い、作品を選考委員に読んでもらえれば良い、と割り切って応募しました」というコメントが励みになる人も多いのではないでしょうか。
ほか、優秀賞には柏木伸介さんの『クルス機関』と、三好昌子さんの『縁見屋の娘』の2作が受賞。題名やあらすじだけでもワクワクして「早く読みたい」と思ってしまったこれら3作品は、2017年には刊行予定とのこと。今から楽しみです。
大賞
『救済のネオプラズム』(仮)/岩木一麻
【あらすじ】
余命半年の宣告を受けた患者たち。半年後、彼らの身体からがんは消え去っていた。一体がん治療の世界で何が起こっているのか?
【受賞者プロフィール】
岩木一麻(いわき・かずま)
埼玉県出身、現在は千葉県在住。神戸大学大学院自然科学研究科分子集合科学専攻修了。国立がん研究センター、放射線医学総合研究所で研究に従事。現在、医療系出版社編集部に勤務。
<選評>
・史上最高レベルの医療本格ミステリー。こんなとんでもない謎を正面に掲げるとは前代未聞、大胆不敵。(大森望)
・まったく見当のつかない真相。謎の設定がとにかく素晴らしい。(香山二三郎)
優秀賞
『クルス機関』(仮)/柏木伸介
【あらすじ】
日本に潜伏している北朝鮮の工作員が大規模破壊工作を画策している――果たして、独断専行の外事課捜査官はテロを防げるか
【受賞者プロフィール】
柏木伸介(かしわぎ・しんすけ)
愛媛県出身・在住。横浜国立大学教育学部生涯教育課程社会教育コース卒業。現在、地方公務員。大学生協でレイモンド・チャンドラーの文庫を手にして以来、ハードボイルド、冒険小説、スパイ小説等に触れ、「自分も、いつかは」と思うようになり、小説を書き始め、様々な賞に応募。
<選評>
・迫真のリアリティと大胆な虚構性。そのバランスが絶妙で、思わず物語にひきこまれてしまう。(吉野仁)
・公安警察版の『新宿鮫』。クライマックスのテロ・シーンに向けてサスペンスを高めていく演出もスリリングのひと言だ。(香山二三郎)
『縁見屋の娘』(仮)/三好昌子
【あらすじ】
悪縁により短命な家系に生まれた不運な娘を救うべく、謎の修験行者が施す大いなる“秘術”とは?
【受賞者プロフィール】
三好昌子(みよし・まさこ)
岡山県出身、現在は京都府在住。主婦。嵯峨美術短期大学洋画科(現、京都嵯峨芸術大学短期大学部)卒業。これまで、過去3回松本清張賞の最終選考まで残るも受賞にはいたらず、今回が初受賞。少林寺拳法を7年、居合道を8年続け、少林寺拳法初段、居合道二段を取得。
<選評>
・伝奇仕掛けの人情サスペンス。こなれた語りで読ませる。(香山二三郎)
・小説的な完成度は今応募作中、随一。登場人物一人ひとりへの目配り、展開の説得力、伏線の見事な回収、活き活きたした会話――どれをとっても文句の、つけようがない。(茶木則雄)
『このミステリーがすごい!』大賞を受賞するコツ
文学賞を受賞するにはどうすればいいのか、傾向と対策はどう立てればよいのか。多数のプロ作家を世に送り出してきた若桜木虔先生が、デビューするための裏技を文学賞別に伝授する好評連載「作家デビューの裏技、教えます!」。
過去に『このミステリーがすごい!』大賞について語ってもらった回をまとめました。この賞を目指すかたは、あわせてぜひご覧ください。
イジメの話は一次落ちの可能性アリ[2016年6月号]
ミステリー要素がなく、時代劇でも受賞する「懐の広さ」[2016年5月号]
現実の出来事をなぞらない[2015年6月号]
「映像化が可能か否か?」が大きな加点ポイント[2014年6月号]
「主人公のドジでピンチを招く展開」に注意[2013年6月号]
こういう作品を書いて応募してはいけない[2012年5月号]