誰でも一生に一冊小説が書ける。③:誰もがつまづく地の文の書き方


書き始めてすぐにぶち当たる壁。それは地の文をどう書くか。
ここではアマチュアが陥りやすい点を4つ挙げ、こう書いては? という修正案を示します。
Q1:主人公が旧友と会うシーンがあり、旧友がどんな人か説明を書きました。必要な情報は過不足なく入れたつもりですが、読み返してみると、われながら面白くもなんともなく、情報も頭に入ってこない感じです。こういうとき、どうすればいいでしょうか。
A1:「東京のことはまだわからないの」が唐突だったので、その説明を入れたわけですね。説明文の分量は問題ないと思いますが、流れが止まりますので、メールとメールの間ではなく、どこか落ち着いた場所に移動してはどうでしょう。今回はとりえず前のほうに移動させます。
【原文】
私は圭子と会うことにし、メールした。品川には十時頃着くが、駅の近くにホテルを知らないかと。圭子からメールが来た。
「東京のことはまだわからないの」
四軒あった。
圭子夫婦は沖縄で暮らしていたが、十年前に夫だけ東京に単身赴任になった。圭子は沖縄で子育てしていたが、今春、娘の進学を期に一緒に上京した。念願の東京デビューを果たしたというわけだ。
ホテルは一軒に空きがあった。
「ありがとう。ホテル取れました」
【修正案】
圭子夫婦は沖縄で暮らしていたが、十年前に夫だけ東京に単身赴任になった。圭子は沖縄で子育てしていたが、今春、娘の進学を期に一緒に上京した。念願の東京デビューを果たしたというわけだ。
私は圭子と会うことにし、品川には十時頃着くが、駅近くにホテルを知らないかと書いてメールした。ほどなく返信があった。
「東京のことはまだわからないの」
それでも四軒書いてあり、一軒に空きがあった。メールでお礼を言う。
「ありがとう。ホテル取れました」
Q2:主人公が旧友と会うシーンがあり、旧友がどんな人か説明を書きました。必要な情報は過不足なく入れたつもりですが、読み返してみると、われながら面白くもなんともなく、情報も頭に入ってこない感じです。
こういうとき、どうすればいいでしょうか。
A2:「読者は物語が読みたいのであって、説明が読みたいわけではない。説明過多になってはいけない」と言いますが、プロは説明すらも面白く書きますね。面白ければ説明過多でもいいと思いますが、単なる情報の羅列はつらいです。セリフを交えるなどして説明を小出しにしては?
【原文】
帰省したとき、霊園の駐車場で幼なじみの晴美と会った。
昔、晴美とカラオケに行ったことがある。それ以来、晴美とは会っていない。晴美のいとこの結衣とは今も会う。私と結衣は東京で働いている。晴美は青森だ。
私は同窓会には一度も出席したことがないが、晴美と結衣は同窓会で何度か顔を合わせているそうだ。
【修正案】
帰省したとき、霊園の駐車場で幼なじみの晴美と話した。
「昔、カラオケに行ったよね」晴美は懐かしそうに言い、あなたと結衣は東京だからいつでも会えるわねとこぼした。晴美は青森だ。
結衣というのは晴美のいとこで、私は今も会うが、晴美とはカラオケに行って以来、会ってない。
「結衣とも会ってないでしょ?」
私の問いに、晴美は即答した。
「同窓会で何度か会ったわ」
二人は同窓会に出席していると言う。私は出席したことがなかった。
Q3:ある場面で、〈ふと、熊本でうどん店をやっている知人を訪ねてみようと思い立った。〉と書いたところ、小説の合評会で、「そんなに都合よく『ふと』思うものですか。『ふと』は禁句では?」と言われてしまいました。
「ふと」は禁句なのですか。
A3:
現実に「ふと思う」こともよくありますし、自然に「ふと」と書いてある分にはいいと思います。
ただし、それを小説の中でやったとき、いかにも作者の都合でそう思わせた感が出てはまずいです。何か思い出すきっかけを与えてはどうでしょうか。
【原文】
熊本市内に入る途中に「道の駅」があった。とくに買うものもなかったが、健三は自分にできる支援は物産を買うことぐらいだと思い、特産品を物色してまわった。
そのとき、ふと、熊本でうどん店をやっている知人を訪ねてみようと思い立った。
【修正案】
熊本市内に入る途中に「道の駅」があった。とくに買うものもなかったが、健三は自分にできる支援は物産を買うことぐらいだと思い、特産品を物色してまわった。
施設内を一回りし、反対側の外に出ると、うどんの粉を販売している一画があった。
そういえば熊本でうどん店をやっている知人がいたなと、にわかに懐かしさに駆られ、健三は知人を訪ねてみようと思い立った。
Q4:小説を書いて家族に見てもらったところ、「この場面だけど、今、喫茶店に入ったと思ったら、もう出るんかい」と突っ込まれてしまいました。
〈二時間経った。〉と書いたからこれでいいと思ったのですが、〈二時間経った。〉という説明だけではだめだったのでしょうか。
A4:〈二時間経った。〉と書けば、作中の時計を進めることはできますが、読んでいる人も二時間経ったような気にさせたいです。そのためには心情を書いたり、「二時間の変化」(時計の針が進むなど)を書くといいです。普通はもっと字数が必要ですが、やるだけやってみましょう。
【原文】
秋野は買い物帰りのマリを見つけ、喫茶店に入った。コーヒーを飲みながら話した。時間はかつて付き合っていたときに戻っていた。二十年が過ぎても、マリは少しも変わっていなかった。二時間経った。
「私、そろそろ帰らないと」
【修正案】
秋野は買い物帰りのマリを見つけ、声をかけて喫茶店に誘った。店内にはクラシック音楽が流れ、アンティークの壁時計は三時を指していた。この店、よく来たよね。君、二十年前と変わってないよ、などと話が盛り上がり、注文するのを忘れたほどだった。二人ともかつて付き合っていたときに戻り、時間が経つのも忘れて話し込んだ。
時計を見ると、もう五時だった。
マリもスマホで時刻を確認している。
すでに主婦の顔だった。
「私、そろそろ帰らないと」