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刺さる文章②:「刺さる」の本質を探る2

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いま、この本が「刺さっている」

『九十歳。何がめでたい』佐藤愛子著

動作音が静かで接近に気づけない自転車、よくわからないスマホなど、九十歳には理解できないものにイチャモンをつける。言いたいことを言ってとにかく痛快。モヤモヤしながら生きているすべての人に刺さり、スカッとさせてくれる。

『みかづき』森絵都著・集英社

「学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思う」
昭和三十六年、小学校用務員の吾郎は千明と学習塾を立ちあげる。三世代にわたって奮闘する家族の感動巨編。人は誰も欠けた月。どの世代にも刺さる!

『嫌われる勇気』岸見一郎・古賀史健共著・ダイヤモンド社

フロイト、ユングと並ぶ心理学のアドラー。同書は、哲人と青年の対話形式でまとめた自己啓発本。「トラウマは存在しない」「すべての悩みは『対人関係の悩み』」。この本が刺さっているということは、みんな人間関係に悩んでいる!

『夫のちんぽが入らない』こだま著・扶桑社

交際して二十年、「入らない」女性が自分と向き合って書いた衝撃の実話。ドライかつユーモアあふれる筆致なのでお気楽な本のようですが、中身は真面目で深刻。あまりの衝撃に、村上春樹に1月第4週の売れ行きで勝ってしまった話題作!

「剌さる」に共通すること

偽らざる本音が、悩める心に剌さる

刺さっている本の代表として、話題の四冊を紹介しました。
『九十歳。何がめでたい』はタイトルからしてキャッチーで、九十歳と世間とのズレについてやけくそで書いただけあって、そこには高齢者の本音があります。
『みかづき』は塾業界を舞台とした物語。親の世代は戦前の教育に嫌な思いをし、子の世代は詰め込み教育と、どんな世代も教育にはなんらかの苦い思いがあり、そこが刺さります。
『嫌われる勇気』は、まさに悩みから救ってくれるという自己啓発書。「嫌われたくない」ことで苦しんでいる人は気になる本。
『夫のちんぽが入らない』は、近代文学でいえば自然主義文学を紡彿とさせる衝撃的な内容。著者と同じ体質の人は少ないと思いますが、医者に相談するくらいならこのままでいい、子どももいらない、兄妹みたいな夫婦でいいという痛切な言葉には共感する人が多いはず!

剌さる本は弱い部分を突いて衝撃がある

上記四冊からは、どんなキーワードが引き出せるでしょうか。
『九十歳。何がめでたい』から導き出せる言葉は「本音」でしょう。
『みかづき』は「葛藤」でしょうか。『嫌われる勇気』は心の問題、『夫のちんぽが入らない』は「告白」「衝撃」でしょう。
これらの本が気になった人は、どこかに問題を抱え、それをどうにかしたいという気持ちがあるはずです。
そうした弱いところを突いてくるのが、刺さる本!

剌さる本に共通すること

  • 偽らざる本音が書いてある。
  • 多くの人に共通する問題を扱っている。
  • 心の悩みとその解決法がある。
  • 言えないことを言っている。
  • 衝撃がある。

剌さる余話

最近はネガティブな言葉のポジティブ化がよくあり、「やばい」もそう。「こだわる」「ハマる」「鳥肌が立つ」もネガティブな意味で使われていましたが、今はポジティブな意味でも使われます。
また、「刺さる」のように、もともとあった言葉に新しい意味を付加して使う例が増えています。

たとえば、「引く」「寒い」「ヘコむ」「かむ」「痛い」など。これらは日本にもとからあった和語です。和語には動詞が少なく、ー語の意味が広い。「答えが合う」「気が合う」「サイズが合う」。みんな「合う」。
流行り言葉に和語が多いのは、意味が広く、新しい意味を加えやすいからです。

※本記事は「公募ガイド2017年4月号」の記事を再掲載したものです。

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