小説投稿サイトのすべて③:場の提供に徹する老舗サイト 小説家になろう
小説家になろうのここがすごい!
固定読者が多い
2004年といち早く運営を開始しただけに固定ファンが多く、月間PVは14億!
使い勝手がいい
投稿する際のインターフェイスの機能がシンプルで、初心者でも使いやすい。
出版社選びが自由
出版打診があれば、どこの出版社からでも自由に書籍化できる。マージンも不要。
読者数78万人の巨大投稿サイト
ヒナプロジェクトが運営している『小説家になろう』の出発点は、代表の梅崎祐輔氏が大学生のときに立ち上げた個人サイト。
当時、梅崎氏は個人サイト単位で公開されていたWEB小説の読者だった。しかし、各個人サイトを巡回して読むのが大変だったため、「みんなが小説を持ち寄れる場を作ろう」と考えたのが誕生のきっかけだ。規模が大きくなったため、2010年に法人化した。
「始まりが個人サイトだったこともあり、ユーザーから利用料などはいただかず、ほぼ100%広告収入で運営しています。あくまでも、場を提供するプラットフォームというのが私たちの立ち位置です」(ヒナプロジェクト・山崎翔子さん)
投稿されるジャンルは、「異世界転生もの」といわれるファンタジーが中心。元の世界で死亡した主人公が、別の人間などに生まれ変わり、異世界で人生をやり直す、というものだが、設定やキャラクターを少しずつ変えた作品が無数に生まれ、「なろう系」と呼ばれる一大ジャンルを形成している。
「最近では『君の膵臓がたべたい』のヒットもあり、恋愛・青春小説も増えてきています」
最大の特徴は、サービス開始から13年を経ている老舗だけに、読者数が700万人超(WEBブラウザベースで算出)と、ずば抜けて多いこと。そのため、投稿しても誰にも読んでもらえない、ということは少ないという。
また、読者がポイントで作品を評価するしくみがあり、それがランキングに反映される。ランキング上位300位の作品のうち約8割が書籍化されているのも魅力の―つだ。
「書籍化の打診があれば作家さんに取り次ぎ、出版社と直接やりとりしていただく形をとっています。この出版社でなければいけないといった縛りもないので、さまざまな出版社から書籍化のチャンスがあります」
読者をつかむには、毎日3000字を更新
上位にランクインするためには、読者が気に入った小説を登録する「ブックマーク」が1万以上、ポイント2~3万ほどを獲得するのが目安。ポイントアップを狙うなら、セリフと地の文は1行空けるなど、WEB小説の基本を押さえるのはもちろん、読者を研究することも必要不可欠だ。
「pvアクセスを自分で見ることができるので、自分の作品が、いつ読まれているかがわかるんです。たとえば、朝7時にもっとも読まれていれば、予約投稿機能を使って7時に更新するという作家さんもいます。また、更新すると新着欄に作品名が並び、そこから飛ぶ読者も多いのですが、夜の12時や朝の7時はアップされる作品数が多く、埋もれてしまいがち。そこであえて7時5分過ぎに更新するという方もいます」
完成させた作品を一度にアップロードするケースもあるが、ランキング上位の作家は、通勤中や寝る前の細切れ時間に5分くらいで読める文字数3000~4000字くらいの分量を、毎日更新している人が多いという。
こうした工夫には時間と手間がかかり、なかなかすべての人がマネできるというものではない。そこで、「小説家になろう」では出版社などに新人賞やコンテストを開催する直硼クを提供。「書籍化を目指す作家さんのチャンスを増やしたい」とランキング上位でなくとも書籍化のチャンスが広がる仕組みを設けている。
「『第5回ネット小説大賞』の異世界・現実世界(恋愛)部門で受賞した『ニセモノだけど恋だった』という作品はブックマーク1000件未満ではありますが、宝島社さんから書籍化が決まっています。コンテスト名のキーワードをつけるだけで簡単に応募できるものがたくさんあるので、ホームページをチェックしてみてください」
小説家になろう発の本
『君の膵臓をたべたい』(住野よる著・双葉文庫)
ファンタジー系以外も「なろう」にはあると世に知らしめた、一般文芸にカテゴライズされた作品。著者の住野氏は、新人賞に3度落ち、「なろう」に本作を一度にアップ。人気作となって書籍化、映画化され180万部突破。
『ログ・ホライズン10 ノウアスフィアの開墾』(橙乃ままれ著・KADOKAWA/エンターブレイン)
SF、ファンタジー作品。シリーズ累計140万部。2010年に連就開始、2011年に書籍化。
マンガ化、TVアニメ化、ソーシャルゲーム化され、「魔法科高校の劣等生」とともに「なろう」の知名度アップに一役買った。
『魔法科高校の劣等生(22)動乱の序章編〈下〉』(佐島勤著・電撃文庫)
「魔法師」を養成する架空の教育機関「魔法科高校」が舞台の学園バトルアクション。「なろう」が注目されるきっかけになった作品。累計3000万PVの人気作となり、2011年に書籍化。累計発行部数は790万部。
※本記事は「公募ガイド2017年8月号」の記事を再掲載したものです。(特集監修:飯田一史(WEB小説評論家))