童話賞入選への道⑤:おすすめ童話賞解説
講談社児童文学新人賞
小学校高学年~中学生向けが入選作品の多数を占める!
講談社児童文学新人賞は、同社創立50 周年を記念し、1959年(昭和34年) に創設。タイトルに新人賞とあることからもわかるように児童文学の新人を発掘するために始まった。
募集しているのは小学校1年生から高校生までが読める児童文学で、枚数は30枚~300枚と幅がある。30枚は枚数的に幼年童話になり、300枚は中高生向けの小説になるが、それらは一緒に審査されるのだろうか。
「応募の際に種別(童話・少年少女小説・ファンタジー・SF ・推理小説・探検冒険小説など) を書くことになっていますが、この種別に分けて審査し、バランスを考えて最終候補作を選んでいます」(講談社)
予備審査は外部にも依頼はするが、基本は編集部が総出であたる。
中高生向けといっても書き方自体は大人の小説と変わらないが、児童文学だから自ずと内容は違い、また同じ中高生向けでもライトノベルとも違う。
「たとえば性を扱うとしても、そこになんらかの必然性があって、子どもたちにテーマを伝えるためにはこれは仕方ないよねと、私たちを納得させてほしいですね」
新人賞を受賞すると担当編集がつき、講談社から刊行(一部佳作も) され、晴れて作家デビュー。
また、編集者が次作、次々作を書くべくアシストしてくれる。
公募ガイド的主観
過去の受賞作を見ると、小学校高学年i中学生を対象としたものが多い。幼年童話の受賞作もあるが、数は少ない。受賞作のレベルは高く、「これが受賞作?」と思うような作品はない。
有名作家を多数輩出
講該社児童文学新人賞は、児童書を扱う出版社の講談社が主催するだけあり、有名な童話作家を多数送り出している。
第1 回受賞者は「モモちゃんシリーズ」で有名な松谷みよ子さんで、受賞作は「龍の子太郎」。第2回はさまざまな童話賞の審査員、童話の指導者としても有名な立原えりかさん。第4回は岩崎京子さん、第9回は森山京さん、第27回は「ルドル
フとイッパイアッテナ」の斉藤洋さんとビッグネームがたくさんいる。
また、第31回の森絵都さんのように、その後、直木賞を獲るなど活躍している受賞者もいる。
歴代受賞者と受賞作のレベルは、そのままその賞のレベルと言える。
主催:講談社
内容:小中高生対象の児童文学
枚数:30~300枚
新美南吉童話賞
作風はほのぼの系か、しみる系。全体に小学校中学年向けが多い
新美南吉童話賞は、当初は半田青年会議所が創設。その後、94年に新美南吉記念館ができたことから、同館が賞の運営を引き継いでいるという。
2015年からは、自由創作部門のほか、新美南吉童話賞ならではの特色を出すため、新美南吉オマージュ部門を創設。
オマージュは「尊敬」という意味で、尊敬の念で模倣するわけだが、南吉童話のストーリーをまねるのでもなく続編を書くのでもなく、南吉童話にインスパイア(触発) され、その根底に流れるものやタッチを踏襲する。
全部門の審査は、地元知多管内の小中学校教諭、元教諭によって行われる。第29回の場合、予選で1790編を37編に絞り、最終審査は童話作家、児童文学者(浜たかや、酒井晶代、富安陽子、藤田のぼるの4氏) が行った。
公募ガイド的主観
規定枚数7枚は枚数的には幼年童話だが、過去の受賞作品を見ると、小学校高学年まではいかないが、小学校中学年ぐらいを読者として想定しているような作品が多い。少なくとも、分かち書きをし、オールひらがなのような幼年童話は見当たらない。
作風は、第29回「家の灯り」は空き家に新しい家族が来る温かい話。第28 回「書き足し和尚」は「石」に「少」と書くと「砂」になるというアイデアの、どこか昔話風の話。第27 回「森の図書館」は、命を削ってでも読書を続ける虫たちという深い話。
新美南吉を意識するせいか、どこかほのぼのした話か、切なく胸にしみる系の話が多い。荒唐無稽の楽しいばかりの作品はない。
新美南吉
1913年、愛知県出身。幼くして母を失い、養子に出されるなど寂しい幼少期を送る。中学生時代から創作を始め、18歳で 「ごんぎつね」 を書くが、29歳で逝去。代表作は「ごんぎつね」「手袋を買いに」「おじいさんのランプ」「飴だま」「うた時計」など多数。
主催:半田市教育委員
内容:創作童話
枚数:7枚
日産 童話と絵本のグランプリ 創作童話部門
文章的にもグレードは幼年童話
日産童話と絵本のグランプリの選考査員は、あまんきみこさん、富安陽子さんなど。
応募作品はまず予選にかけられ、それを突破した約50編が本審査会にまわる。本審査会では各審査員がABCとランク付けし、議論を尽くして入選者を決める。
公募ガイド的主観
グレードは幼年童話に近い印象。これは受賞作が絵本の単行本となって出版されることと関係がありそう。つまり、絵本になるなら絵本を読む年代に向けた作品を選ぶだろうということだ。
実際、第33回「こめとぎゆうれいのよねこさん」の書き出しは〈ぼくのうちに、こめとぎゆうれいのよねこさんがやってきた。〉とオールひらがな。内容も小学校低学年でも読めるものになっている。
主催:大阪国際児童文学振興財団
内容:創作童話
枚数:5~10枚
家の光童話賞
読者対象は就学前後の子ども
家の光童話賞は、JA (農業協同組合) グループの家の光協会が主催。
農作業や食卓など日々の暮らしを通じて感じたことや考えたこと、子どもに伝えたいことを、「農業・食べ物・ふるさと・自然」を題材にして書く(昔からその士地に伝わる民話は不可) 。童話の読者対象は、小学校就学前後の子ども。つまり、幼年童話ということになる。
公募ガイド的主観
農業やふるさとを題材にすることから、ほのぼの系の作品が多い。幼年童話なのでわかりやすい話がよく、夢や希望、優しさ、温かさ、勇気があり、元気が出る、心に響くものがいい。加るて、大人になってからもう一度読み返したくなるような作品であればなおよい。
主催:家の光協会
内容:農業・食べ物・ふるさと・自然を題材に
枚数:5枚以内
日本新薬こども文学賞 物語部門
明るく楽しい幼年童話が受賞する傾向
日本新薬こども文学賞は、絵本の原作となるような童話を募集。こどもの部と大人の部があり、第9回はこどもの部の受賞作が全体の最優秀賞になった。
第10回は夏休みを意識して9月締切だったが、第11回からは2月締切に戻る。
公募ガイド的主観
絵本になるということで、幼年童話と見ていい。賞創設当時の数回は心にしみる系の話が多く、第1回受賞作「おんぶおんぶ」は、おばあさんにおんぶされている太郎を見て、動物たちがうらやましくなるという心温まる話。
一方、ここ数回はシンプルに楽しい、子どもが喜びそうな話が受賞している。この傾向が続くかはわからないが、第9回選評にもあるように、まず問われるのは独創性だ。
主催:日本新薬
内容:絵本の原作となるような童話
枚数:6枚以内
グリム童話賞
小学校中学年・高学年向けメルヘン
栃木県石橋町(現下野市)は、グリム兄弟が生まれたドイツ・ヘッセン州のシュタインブリュッケン村と姉妹都市。
そこで夢とロマンのまちづくりを目指し、グリム童話賞が創設された。
公募ガイド的主観
グリム童話には残酷な話もあるが、応募要項には「誰もが楽しんで読める童話」とあり、読後感のよいものが求められている。
過去の受賞作から傾向を探ると、第17回「骨董店フル・ムーン」はファンタジーで、小学校高学年向き。
第16回「いくすしほ、の夜」は両親が離婚、姉妹が離れ離れになる直前の切ない話。
全体的に読者対象は高め。大人のメルヘン的な作品や、切なくて、でもどこか救いのある作品でも受賞可能だ。
主催:グリムの里いしばし
内容:テーマは毎回変わる。
枚数:10枚以内
※本記事は「公募ガイド2018年3月号」の記事を再掲載したものです。