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小説新人賞受賞の条件①:書くことは楽しいか

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完結しなければ始まらない

書いたら書けた、があるのが作家の道

マーク・トウェインは、『マーク・トウェイン自伝』の中で、小説を書いたことのない素人が作家になりたいというのは、オペラのための正規の骨の折れる修業をやったことがない人がオペラ歌手をやりたいと申し出るくらい厚顔無恥なことだと書いている。果たしてそうだろうか。

小説を書くのに必要なのは、

  1. 小説の書き方の知識
  2. 文章カ・表現力
  3. 想像カ・構想カ
  4. 人生経験• 読書経験
  5. 思索・思想

だと思うが、1以外は、小説を書かなくても、誰でも身につけることができるものだ。だからこそ、一夜にして作家になるということが可能なのだ。

楽しくなければ書き続けられない

初めて書いた小説でデビューという人もいるが、ほとんどの人は5年、10年と日々努力を続けることになる。この継続を可能にするのは、書くことが楽しいこと。書く楽しさにはカタルシス(精神の浄化)があることや、自分の考をを発見することなどがあるが、池波正太郎にこんな話がある。

連載小説を15枚ほど書いたところではたと行き詰まってしまい、5日も6日も先に進まなかったが、飼い猫に話しかけていたら、「その瞬間に、私は、(しめた!!) とおもった。押しても突いてもくずれなかった小説の壁に、ぽろりと穴が開いたのである」

(池波正太郎『日曜日の万年筆』)

 こういう醍醐味を味わえると、書くことがますます好きになる。

書けない理由

何を書いていいかわからない

書きたいことがないのが原因。書きたいことが見つかるまで、小説を読んだりエッセイを書いたりしよう。

どう書いていいかわからない

どう書いてもいいのだが、具体的な方法論を知りたいなら小説の指南書等のマニュアルを見るといい。

面倒くさくなって続かない

文章にも短距離の筋肉、長距離の筋肉がある。すぐに息切れする人は少しずつ距離(枚数)を伸ばしていく。

書いていて面白くなくなる

話にメリハリをつけ、面白い仕掛けを考えよう。またプロットどおりにやろうとしすぎると面白くなくなる。

書くことを楽しむ5つのコツ

マイペースで書く

急に思いたって一気に1 00枚書くなど、無理をすると苦痛だし疲れるし続かない。書きたい気持ちを温存するようにペースを守って書こう。

マイレベルを狙う

プロの登竜門的な小説新人賞もいいが、レベルに合った賞の場合、入選する自分が見えるようで意欲がわく。結果が出ればさらにやる気に。

受賞だけを目指さない

受賞したいのはやまやまだが、1 作書けた達成感を味わいつつ、次はもっと面白いものを書くことを目指そう。結果、それが実力に!

小説の世界に旅をする

小説を読むひとつの醍醐味は読者をどこかに連れていってくれること。これは旅行のようなもので、現実の旅行より楽しい。作者も楽しい。

書きながら発見する

急に展開が見えたり、何気なく書いたことがあとで伏線に使えたり、思いもしないセリフ、考えを思いついたり、何かに気づくことは楽しい。

マニュアルには使い方がある

小説を書きたいなら、なるべくたくさんの小説を読み、その書き方をまねするのが一番。しかし、やり方を間違えると上達しないどころか逆効果になる。
多読なのに文章力が上達しない人は、ストーリーばかり追わず、一字一句、ゆっくり熟読、精読していく遅読がお勧め。
書き方については、初心者のうちはマニュアルを読み、それに従って書くのもいい。しかし、マニュアルはあくまでもオーソドックスな一例だから、応用しないとなんの役にも立たない。
また、理論ばかり学んでしまうと頭でっかちになる。鑑賞力も必要だが、書き続けて物語力も上げていかないと書けなくなる。書けば書くことの難しさも楽しさも知ることができる。
未完の名作を書いても意味がない。完結させて初めてレベルが一段上がるのだから、多少無理やりにでも完結させよう。そこには頂上からしか見えない風景がある。

鈴木信一先生に聞く:発見があるから小説は面白い

ノープランで書くからこそ気付ける

書いていると思いがけないことが起こります。
以前、入院している義父を見舞う女性の話を書いたことがあります。ある日、病院に行って家に帰る。そのとき、原稿に「娘は家にいなかった」と気まぐれに書いたんですが、書いた以上、その理由を書かなくてはいけません。そこで「さっきメールがあり、今日は先輩の家に泊まると連絡があった。実は昨日も娘は家に戻らなかった」と書いちゃったんです。つまり、大学生になりたての娘の取り扱いに困っている夫婦という設定です。
僕は書きながら先輩というのは男で、娘はその男と泊まり歩いているんだろう、親としてはつらいだろう、と思っているんです。さて、書き進めていくうちに、こんどは、義父が亡くなったときのことを考えなくてはいけないと、もぬけの空になった義父の家に行く場面を作りました。夫には金庫をチェックさせ、この女性には台所に行かせたのですが、そこで僕は書きながらびっくりしちゃったんです。ポリバケツの中にコンビニの弁当の空き箱がぎっしり入っていたからです。いや、そういう光景がはっきり見えてしまった。腰が浮き上がるほど驚きました。
最初は浮浪者が侵入して飲み食いしたのかと思いました。でも浮浪者なら律儀にゴミ箱に捨てるはずがない。ああ、娘だ、と気づいたんです。先輩の家に行くと言って昨日も戻らなかった、それ以前にも連続して家を空けることがあった。でも、先輩の家というのは嘘で、ここで寝泊まりしていたんだ。冷めた家庭が嫌で、祖父母の温もりを求めて娘はここに泊まっていたんだと気づいたんです。これが書き継ぐことで書くべきことが見えてくるという典型です。ただし、これは天から降りてきたひらめきなどではありません。書いたことに縛られて、それを丁寧に追いかけた結果なんです。つまり、「どこに泊まり歩いているかわからない娘」を書いてしまって、それに縛られたからこそ、コンビニ弁当の空き箱を見てしまう。そして娘の真実に気づく。これは構想段階では気づけません。書くことでしか見えてこないことなんです。

 

※本記事は「公募ガイド2018年4月号」の記事を再掲載したものです。