小説新人賞受賞の条件⑦:受賞者となれるか


オンリーワンであること
授賞の条件を知るには選評を読むのが一番。そこでここでは過去の選評を厳選して紹介。
純文学系
行くべき場所
すべての小説に、行きたい場所、もしくは行くべき場所があるのですから、作者にできることは、絶対にその邪魔をしないことです。自分の書いている小説がどこに行きたがっているのか、どこに行くべきなのか、辛抱強くあとをついて行くことだと思います。
(第39 回すばる文学賞·江國香織)
自立した生きもの
小説は自立した生きもののようであってほしい。作者の当初の意図を越えて育ち、作者にも驚きや気づきをもたらすのでなければ、書いても読んでもつまらない。
(第121回文學界新人賞・松浦理英子)
型にこだわらず
従来の小説の型にこだわらず、変に盛り上げようとせず、自分の表現したい世界を心ゆくままに書いた方が、多くの人の目に留まりやすいのではないだろうか。
(第122回文學界新人賞・綿矢りさ)
エンタメ系
テーマの重さ
テーマの重さで目を引く作品がある。よくぞこんな難敵へ挑んだと読み手を前のめりにさせてくれる意欲作。その敵と最後まで四つに組んで読ませ切ってくれたなら、多少の粗があってもぜひ支持したいと期待を込めて読み進めるのだが、残念ながら組み合う相手が手強いほどに御するのは至難の業となり、物語半ばにして破綻してしまうケースのほうが多い。
(第95 回オール讀物新人賞・森絵都)
脱マニュアル
〈泣けるエンタメ小説はこう書け!〉的な教則本どおりに書いたのではないか、という印象がどうしても拭えない。理不尽な言いがかりに聞こえるでしょうが、これが創作というものの皮肉な難しさで、巧く書いたからいい小説になるわけではないのです。
(第28回小説すばる新人賞・宮部みゆき)
新しさ
良くも悪くもそつがなさ過ぎる。イチャモンのようだけれど、そこが新人賞の怖さである。このままなら既存の作家でも替えがきくのでは?というこちらの懸念を押しのけるだけの叫びがこの作品からは聞こえてこず、強く推せなかったのが残念だ。
(第29回小説すばる新人賞・村山由佳)
展開
ストーリーが展開するから登場人物の心が動くのではなくて、登場人物の心が動くからストーリーは展開していくのである。
(第10回小説現代長編新人賞・角田光代)
説得
もしこのように大きな嘘を作るのだとするのなら、何かひとつ、徹底的な説得をしなければならない。(中略)読み手を説得させられるくらいリアリティを持って細部まで書きこむか、あるいはリアリティ以外の何かを持ってこなくてはならない。そうしないと嘘は小説にはならない。
(第10回小説現代長編新人賞・角田光代)
小説になっていない
あなたの半生がたとえどんなに波瀾万丈であろうとも、あったことをそのまま書いたものは日記や回顧録であって、小説とは呼べない。(中略)あなたの物語に小説と呼べる〈かたち〉を与えるために必要なものは何なのか。「企み」と「普遍性」である。
(第97回オール讀物新人賞・村山由佳)
何かがあるか
大切なことは、その作品に作者、、の書かざるを得なかった何かがあるかどうかである。
(第10回小説現代長編新人賞・伊集院静)
視点
視点の混乱(というか、視点変換の多用)でまず読み進めにくく、復讐劇としてもカタルシスが少ない。叙述がしばしば駆け足となり、時間経過の要約ですませている部分が何力所もあることも気になった。読者が読みたいものは、要約ではなく具体的なエピソードであり、シーンである。
(第96回オール讀物新人賞•佐々木譲)
新人ゆえ
文章が雑でも、多少の矛盾などがあっても良い。それをしのぐだけの勢いとトゲが欲しい。
(第96 回オール讀物新人賞・乃南アサ)
※本記事は「公募ガイド2018年4月号」の記事を再掲載したものです。