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自治体文学賞を狙う2:各自治体文学賞①

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やまなし文学賞

高い人気を誇る「一葉」ゆかりの文学賞

今年度の募集で記念すべき20回目を迎える「やまなし文学賞」は、平成4年4月、両親の出身地として山梨県にゆかりの深い樋口一葉の生誕120年を記念して制定された。近年は小説部門の応募数が毎回300編を超え、地方自治体がバックアップする文学賞の中では高い人気を誇っている。
「昨年度の募集では、全国40都道府県の方々からご応募をいただきました。県内の方からのご応募は全体の1割程度です。ご応募いただいた方々を見ると、近年、60歳代の方々と若い年齢層のご応募が増えているのが目につきますね。全体を見れば、下は15歳から上は94歳まで、幅広い年齢層の方からご応募いただきました」(山梨県立文学館 文学学芸課)
大きな特徴として挙げられるのは、研究・評論部門(図書として刊行、または雑誌、同人誌などに発表されたものを推薦)が併設されていること。広い視野で、文学の研究と新しい才能の発掘に力を入れていることがうかがえるのが、高い人気の秘密なのかもしれない。
やまなし文学賞1編と佳作2編は山梨日日新聞紙上、および同紙ウェブサイトに掲載される。同紙は地方紙としては全国屈指の歴史を持ち、山梨県内では驚くほど愛読者の多い新聞なので、高齢の応募者の中にはここでの発表にステイタスを感じる人も多いようだ。
さらに、最高賞の受賞者は山梨日日新聞社から単行本としての出版が約束されている。単行本デビューへと直結する自治体文学賞は限られているので、これもまた大きな魅力だ。
ジャンルは特に限定されていない。設立の目的には「山梨文学の振興」という文言もあるが、「山梨県を舞台に」などの縛りも特に設けられていない。
「選考委員が純文学の方なので、応募が最も多いのは純文学ですが、若い応募者の増加とともに、応募作のジャンルも年々広がってきているのはすごく感じます。歴史を振り返ると最高賞の受賞者は40〜50代の方が多かったようですが、今後は若い方にもチャンスが広がりそうな気がします。とはいえ、若い方だけでなく、まだまだ負けじと熟年層の方々にも頑張ってほしい。とにかく、幅広い年齢層の方にチャレンジしてもらいたいです。選考委員の先生方も、新しい文学の息吹に期待されています。明治の文学界に旋風を巻き起こした一葉のような、新たな才能に出会えることを、本当に心待ちにしています」
期待されているのはあなたの中にある「まだ見ぬ何か」かも。探してみては?

主催:やまなし文学賞実行委員会

島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞

カリスマ作家が一人で選ぶ「長編本格推理」

江戸時代には当今第一と評された漢詩人菅茶山、近代に入っては、巨匠井伏鱒二をはじめとして、随筆家福原麟太郎、劇作家小山祐士、詩人木下夕爾、小説家日野啓三らを生んだ文学都市・福山。
この街に生まれた「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」は、「福ミス」の愛称で親しまれ、本格ミステリー作家への登竜門になっている。
求められているのは「広義のミステリーではなく、長編本格推理」。つまり、密室殺人など謎解きを主題とした作品。しかも、選者はたった一人。同市出身の、その道のカリスマ作家・島田荘司氏だ。
「設立の目的は、多くの文芸家を生み出した福山という土地の地域文化を、この時代でも花開かせたいということです。そして、この街出身の島田先生と協議の結果、『地方の賞としてははじめて、まったくの新作長編小説を一般から募り、この中から年に一度、最高の出来の新作ミステリー小説を選んで授賞とし、即刻東京の大手出版社から出版しよう』ということになったわけです」(福山市教育委員会社会教育部文化課)
応募枚数は350〜800枚。アマチュアにとっては過酷な枚数ではあるが、その分、受賞した際の見返りは大きい。
受賞作は講談社・光文社・原書房という大手出版社が年代わりで出版を担当。惜しくも最高賞の受賞を逃しても、それら出版社から出版のチャンスがある(次点の「優秀作」の出版例多数)。最終選考手前で落ちても、出版社からの声がかりがあった応募者も過去にはいたようだ。
「最も応募が多いのは、長年本格ミステリーを読まれている40〜50代の方。ですが第3回(昨年度)では60代の方が増え、第4回(今年度)は20〜30代の方が増えています。島田先生や出版社の方が必ずおっしゃるのが、『とにかく2作目、3作目を期待できる人を!』ということ。私どもも作家としての意気地をしっかりとお持ちの方を期待しています」
第1回(2008年)の優秀作受賞作「少女たちの羅針盤」(原書房)は、福山市を舞台に映画化もされ、作者の水生大海氏も次々と新作の本格ミステリーを発表している。
「もちろん、2作目、3作目と書くことはラクなことではない。それでも出身の作家さんたちは、福ミスの名を背負って、みなさん新作に取り組んでいらっしゃいます。彼らに続いて、『文学のまち・福山』を広めてくださる新しい才能をお待ちしています」
長編本格推理という壁は高く見える。
でも挑んでみる価値は確実にある。

主催:福山市/島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞実行委員会

ちよだ文学賞

誰でも応募でき、賞金は200万円!

千代田区には神田神保町の書店街や美術館、博物館があり、島崎藤村、森鷗外、与謝野晶子、 泉鏡花、武者小路実篤、吉行淳之介など、数多くの作家が暮らしたところとしても知られている。また、言うまでもなく政治、経済、文化の中心でもある。
ちよだ文学賞は、このような区の文化的、歴史的魅力をアピールし、文学の担い手となる新たな才能を発掘するために実施されている。
第1回募集は2006年(平成18年)で、この年、「千代田区文化芸術プラン」に基づく新規・主要事業として、多くの人が活字にふれ、文字・活字の大切さを知るきっかけにと創設された。
選考委員は、推理小説の逢坂剛氏、女流作家で恋愛小説の書き手として知られる唯川恵氏、芥川賞作家で純文学の堀江敏幸氏とバラエティーに富んでいる。
「ジャンルを特定せず、誰でも応募できる賞」(千代田区文化スポーツ課)というのがうなずける顔ぶれである。規定枚数が120枚というのも、より多くの人が応募できるようにと設定された枚数だ。
30枚、50枚というのは、実はアマチュアには難しい半端な枚数と言える。かといって、300枚もの長編となるとそれはそれでハードルが高く、下手をすると枚数を稼ぐためにセリフばかりを並べたライトノベルっぽい作品が増えてしまう。こうしたことを考慮したうえでの枚数だそうだ。
応募要項には「千代田区ゆかりの人物や区内の名所・旧跡、歴史などを題材にした作品を歓迎します」とあり、皇居のマラソンランナーを主人公にしたり、お茶ノ水の聖橋を舞台にした作品もあったという。
また、神田、麹町、番町といった時代劇ではおなじみの舞台を背景に、時代小説で応募する人もいる。
もちろん、第5回大賞の『夏の宴』のように千代田区が出てこない作品もある。千代田区を題材にするのは「歓迎」であって応募条件ではないから、「必然性はないけど、とりあえず千代田区の地名だけ出しました」みたいな書き方はしないほうがよい。
最終選考に残った作品は入選作品集『ちよだ文学賞』に掲載される。商業ベースではないが、千代田区の有料頒布物として1000冊前後印刷されるので、目に留める関係者もいるだろう。
第3回大賞受賞作の『森崎書店の日々』(八木沢里志)は、神田古書店を舞台に、主人公貴子の失恋と回復と成長を描いた小説だが、入賞作品集を読んだ映画監督の日向朝子氏は、「こういう映画があったら素敵だ。この小説を映画にしてみたい」と直感的に思い、映画化した。また、映画化が決まったあと、小学館文庫から出版化されている。
賞金は自治体文学賞では破格の200万円。いろんな意味でおいしい賞である。

主催:千代田区

※本記事は「公募ガイド2011年11月号」の記事を再掲載したものです。

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