時代小説のいろは2:武家の生活・江戸の行政


武士の住まい
武士には将軍家直属の家臣団と、地方に領地を持ち、江戸に藩邸を持つ諸大名の家臣団の二種類があります。前者の知行一万石以上が譜代大名、一万石未満が直参で、直参のうち将軍に御目見できるのが旗本、できないのが御家人です。
大名は大名屋敷に住んでおり、江戸城に近い上屋敷のほか、大藩になると抱屋敷(別宅)、蔵屋敷(倉庫兼屋敷)、災害があったときの避難所でもある中屋敷や下屋敷も持っていました。
広さは、一万石は二千坪、五万石は四千坪、十万石は七千坪ぐらい。なかには水戸藩のように十七万坪という広大な土地を持っている藩もありましたが、これらは幕府から借りている拝領地で、場所も幕府から指定されました。
旗本屋敷も幕府から無償で貸し出された拝領屋敷です。広さは一石につき一、二坪で、百石の旗本の場合は百〜二百坪の屋敷になります。都心に百坪なら豪邸のようですが、敷地の半分が庭、半分が屋敷で、そこに家族や使用人も住みますからさほど広くはありません。
武家屋敷は道に面して門があり、玄関を設けた書院造りの独立した建物。門と玄関は名主以外の町人には許されません。
玄関には床から一段下がったところに式台という板張りの踏み台があり、これは駕籠から直接家に入るためにあります。
商家や農家は戸口の先に土間があり、そこから直接家に上がります。
武士の収入・服装
武士の収入には知行取りと蔵米取りがあります。知行取りは石高が百石であれば、日本のどこかに百石収穫できる知行地があるということ。そこから収穫される年貢は五公五民とすると約百俵で、つまり百俵の収入があるわけです。
一方、知行地はなく、幕府から米が現物支給される蔵米取りは、「三十俵二人扶持」のように米の量で表します。扶持というのは一年間に食べる米の量で、一日に食べる米は五合で計算します。これらは家禄と言い、代々受け継ぐものです。
このほか、なんらかの役職についていると職禄が得られますが、旗本の半分以上は無役で、つまり職禄はありません。
そのため、学問所で才能を磨いて求職したり、それがだめなら家庭菜園や副業をしたり、本来はいけないのですが屋敷の一部を又貸ししたりしました。
武士の服装は、普段着は小袖、つまり着物姿で、これに帯刀します。出仕するときは小袖の上に肩衣と袴の裃姿になります(百俵以下は羽織姿)。さらに上級の武士には、束帯と衣冠、直垂、狩衣、大紋という礼装があります。
江戸の基本は主従関係
江戸社会の特徴は将軍がすべてを直接支配しているのではなく、主従関係がたくさんあること。大名は大目付が、旗本・御家人は目付が、僧侶・神官は寺社奉行が、関八州(武蔵、相模、上野、下野、上総、下総、常陸、安房)など江戸近郊は勘定奉行が監視し、江戸市中の行政全般は町奉行の管轄となります。
町奉行は大岡忠相のいた南町奉行所と遠山金四郎のいた北町奉行所があり、月交替で月番と非番を繰り返しました。
両奉行所とも与力二十五人、その下に同心百二十人。いずれも八丁堀の役宅に住んでいます。同心には密偵をする隠密廻、巡回・捕縛をする定廻、その応援をする臨時廻の三種類がいます。
同心の下には小者、手先がおり、小者は同心宅に住む奉公人で十手を持った手伝い役。手先は私的に雇われた民間の協力者で、岡っ引き、目明かし、御用聞きと言われます。手先の下にはさらに手下がおり、これは手先の子分です。
幕府は財政難で江戸市中を治めるだけの数の役人を雇えません。そのため毒をもって毒を制す方式で、犯罪に明るい博徒やテキ屋などに警察の役目を負わせました。時代劇に出てくる岡っ引きが親分と呼ばれているのはヤクザ等の親分だからで本業は別にありました。
警察も行政もすべて自治
町奉行所には南北合わせて三百五十人ほどしかいませんが、こんな少人数で五十万人もの町人を掌握できたのは、すべてに自治制をとっていたから。頂点にいるのは町年寄で、その下に町名主(数町から十数町に一人)、さらにその下に家主からなる五人組。
ちなみに、主従関係は庶民も同じで、町人は町年寄が、奉公人は主人が、店子は家主が管理しました。
各町内には自警のための番所、自身番があり、常時三〜五名が交替で詰めて、不審者を捕らえたり、拘留したりしました。火の番もし、纏や鳶口などの消火道具のほか、火の見櫓もありました。半鐘はゆっくり鳴らすと「火の手は遠い」、速く鳴らすと「火の手は近い」でした。
町内警護のため、町の入り口(隣町との境)には木戸番という番屋が置かれていました。給金が少ないのでろうそく、駄菓子、焼き芋、金魚などを売る副業をしており、そのため商番屋とも呼ばれました。木戸番は番屋に住み込んでいます。
被疑者は奉行所の庭(お白州)に座らされる。調べるのは町奉行ではなく吟味与力で、民事訴訟は和解を勧めるのが常道。刑事裁判は自白第一主義で、しない場合は拷問。町奉行は吟味与力が作った調書に基づいて判決を申し渡しました。
※イラスト:三浦宏一郎
※本記事は「公募ガイド2012年8月号」の記事を再掲載したものです。