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時代小説のいろは4:江戸の食・江戸の性愛

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江戸の外食産業

前項に出てきた棒手振りは流しの宅配業で、冷蔵庫がないため庶民は朝から豆腐、シジミ、納豆などを買いました。
この棒手振りの中から、食材を調理して売る煮売り屋が生まれ、独身男性が多かった江戸で大いにウケました。
煮売り屋は店だったり屋台だったりしましたが、やがて食事と一緒に酒も出すようになり、これが居酒屋になります。
ただし、椅子やテーブルはなく、座敷に座ったり、上がり端に腰かけて飲食しました。酒は造った量に税金がかかったため、濃く作って水で薄めて売っていました。
寿司は江戸初期は押し寿司でしたが、文政年間(一八一八年〜)に花屋与兵衛が握り寿司を作り、たちまち江戸のファーストフードとして人気に。ネタは卵焼き、エビ、こはだ、小鯛、まぐろなど。
大きさは現在のおにぎりほどでした。蕎麦は蕎麦がきの状態で食べていましたが、寛延年間(一七四八年〜)に小麦粉をつなぎとした二八蕎麦が生まれ、もり・かけとも十六文。夜鷹蕎麦は屋台に風鈴をつけて客を呼びました。
天ぷらが登場したのは安永年間(一七七二年〜)で、立ち食いが基本。ネタはエビ、アナゴ、白魚、イカ、貝柱など。
野菜の天ぷらは天ぷらとは言わず、精進揚げ、揚げ物と呼ばれていました。

江戸時代にはない食材も

庶民の食事は一汁一菜で、おかずの一番人気はメザシ。野菜類では、きんぴらごぼう、煮豆、焼豆腐煮、ひじき白和え、切り干し煮付け、小松菜のおひたしなどが人気。もちろん、江戸前の魚介類も人気で、鯨も食べられていました。
味噌汁の具は握りつぶした豆腐や細かく切った納豆など。納豆ご飯は醤油が普及する江戸後期から。
醤油は江戸初期は関西からの下り物でしたが、江戸中期に醸造が始まり、後期になると関東(銚子や野田)で造られるものの品質が向上し、ほとんどが地廻り物になりました。関西より味が濃いのは、関東は東北や甲信越からの流入者が多かったことと、ほとんどの庶民が肉体労働者で、汗で失われた塩分を補うためと言われています。
一方、江戸中後期の武士は貧しく、時代劇に出てくる貧乏旗本は傘の修理をしていますが、ほか家庭菜園をしたり、支給された大豆で味噌、醤油を手作りしたりと質素だったようです。ちなみに武士はキュウリ(の輪切り)が葵の紋に似ているとして食べなかったそうです。
なお、白菜が日本に来たのは明治期で、江戸時代にはまだありませんでした。

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江戸の恋事情

江戸の結婚は多くは見合いでしたが、会ってから断るのは支障があり、江戸初期は花見などに連れ出された女性を男性が陰から見る陰見が行われました。中後期も事情は変わらず、それとなく会って男性が品定めする形式が続きます。女性に断る権利はありませんでした。
ただし、これは町人の場合で、武家の場合は女性を美醜で品定めすること自体が武士にあるまじき行為とし、容姿に関わらず親が決めた相手と結婚しました。
江戸時代にも仲人がいました。娘を嫁がせる場合、仲人は家柄に合った持参金(結納金)を用意させましたが、娘の器量が悪いときは持参金を上積みしました。成功報酬は一割でした。
女性の適齢期は十六〜十八歳。結婚すると眉を剃り、お歯黒にしました。男性は社会人として自立してから結婚し、適齢期は二十代半ば過ぎでした。
姦通罪があった江戸時代でも不義密通はありました。行為の場は神社や茶屋の裏や物陰。または出合茶屋で、ここは表向きは食事処になっている店もありますが、奥に部屋を取ることもできます。つまりラブホテルで、利用客はもっぱら不倫カップルのみ。なお、密通の多くは死罪ですが、江戸中期には大半が示談になり、示談金の相場は七両二分でした。

江戸の性風俗

元和三年(一六一七年)、江戸の各地にあった遊女屋が日本橋に集められ、幕府公認の遊女街、吉原遊郭になりました。
吉原は明暦の大火で全焼し、浅草に移って新吉原になりますが、これが現在の吉原です。今は男性向けの歓楽街ですが、江戸時代は男女とも行く観光地で、花魁はファッションリーダーでした。
店には大見世(高級店)、中見世(準高級店)、小見世(大衆店)とランクがあり、張見世で気に入った遊女を選んで登楼しても、一回目が初会、二回目が裏、三回目でようやく馴染みに。疑似恋愛が前提で、馴染みになったら浮気は禁止です。
江戸には吉原遊郭のほかにも私娼街があり、品川、内藤新宿、板橋、千住の四宿はなかば公認。また、これ以外にも非公認の岡場所が百か所以上ありました。
さらに市中には夜鷹、船饅頭と呼ばれる私娼や、旦那取りという妾もいました。
妾は今は公然と斡旋することはできませんが、妾奉公も職業であり、当時は希望すれば口入れ屋が連れてきました。
旅籠の飯盛女も客寄せのために売春をし、さらに水茶屋という今のカフェには人気の茶汲み女がいて、湊屋のおろく、鍵屋のおせん、難波屋のおきたなどは錦絵のモデルなるほどのアイドル。中には裏で売春をさせる店もあったそうです。

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※イラスト:三浦宏一郎

※本記事は「公募ガイド2012年8月号」の記事を再掲載したものです。