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物語の型カタログ3:昔話に学ぶ物語の型

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昔話に物語の原型を探す

民話や昔話は非常にシンプルな起承転結で構成されていることが多く、原稿用紙千枚もの長編小説のストーリーも、要約すればたいていの作品が昔話のストーリーに集約されてしまいます。
まず定番なのは、「一寸法師」や「力太郎」「わらしべ長者」などの立身出世譚で、これは前項のサクセスストーリーにあたります。「桃太郎」や「三年寝太郎」も立身出世譚ですが、勧善懲悪譚の面もあります。
「かちかち山」や「さるかに合戦」は、老婆を殺したタヌキや、カニを騙したサルに仕返しをする話ですが、仕返しをする側から見れば復讐譚であり、悪事を働いた者に焦点を当てれば因果応報譚です。
「こぶとりじいさん」「おむすびころりん」も因果応報譚と言えます。
変身譚、異類婚姻譚の代表は「鶴の恩返し」(「鶴女房」)で、ほかに「狐女房」「蛙女房」「蛇婿入り」といった話があります。「雪女」も同じです。
報恩譚は、「花咲か爺」「文福茶釜」「笠地蔵」「舌切雀」などで、大別すると、命を助けられた動物が恩返しをする動物報恩譚と、善行のお礼に特別な場所に招かれ、土産に宝物などをもらう致富譚に展開するものがあります。
「浦島太郎」は動物報恩譚であり致富譚でもあり、結末を見ると何やら因果応報譚のようでもあります。
逃走譚は、「ジャックと豆の木」や「ヘンゼルとグレーテル」(お菓子の家に食べられそうになって逃走する)のような話で、日本の古事記にもあります。
イザナギノミコトは黄泉の女神に追いつかれそうになり、鬘、櫛を投げてその隙に逃れます。また、「三枚のお札」では、山に入った小僧が山姥に追われ、和尚にもらったお札を使って逃げますが、この部分は逃走譚(呪的逃走譚)です。
ほか、王様の血筋が追放されて放浪しているという貴種流離譚や、「かぐや姫」のような難題婚姻譚、動物の姿で生まれてくる異常誕生譚、「シンデレラ」的な継子いじめ譚、信仰や信念を貫き通したり試されたりする信仰譚、映画『シェーン』のように誰かがやってきて去っていく到来譚、落し物を拾ったり何かに気づいてしまったりする発見譚、もっと積極的に何かを探しに行く冒険譚や探索譚があります。
「ヤマタノオロチ」のような異類退治譚や、冥界や地の果て、海の底などに行く冥界訪問譚、魔術や妖術で戦う呪的勝負譚は、冒険活劇的な物語のストーリーのベースになってくれそうです。

昔話のリメイクという方法

太宰治に、その名も『お伽草子』という小説があります。室町時代から江戸時代にかけて成立した『御伽草子』のパロディーというかリメイクしたもので、大筋は同じでもテーマも中身も全く違います。こうした手法は芥川龍之介をはじめ、多くの小説家がやっていますが、では、どんなものなのか、『お伽草子』の中から「カチカチ山」を引用してみます。

カチカチ山の物語に於ける兎は少女、そうしてあの慘めな敗北を喫する狸は、その兎の少女を恋している醜男。これはもう疑いを容れぬ儼然たる事実のように私には思われる。(中略)
何をするんだ、痛いじゃないか、櫂でおれの頭を殴りやがって、よし、そうか、わかった!お前はおれを殺す気だな、それでわかった。」と狸もその死の直前に到って、はじめて兎の悪計を見抜いたが、既におそかった。
ぽかん、ぽかん、と無慈悲の櫂が頭上に降る。狸は夕陽にきらきら輝く湖面に浮きつ沈みつ、
「あいたたた、あいたたた、ひどいじゃないか。おれは、お前にどんな悪い事をしたのだ。惚れたが悪いか。」と言って、ぐっと沈んでそれっきり。兎は顏を拭いて、「おお、ひどい汗。」と言った。

(太宰治「カチカチ山」)

ストーリーメイクが苦手な人は、ストーリーも人物もそのままに、文章については小説らしく描写で書き替え、テーマについても換骨奪胎するというトレーニング方法があります。ただし、元ネタが割れていますから、実作品として使うなら原作以上の何かが必要になりますね。
もう一つ、ストーリー展開は踏襲しつつ、設定だけ変える方法もあります。あるいは、元ネタのストーリーを一言で言えるくらいまで凝縮し、それを膨らませて新たなストーリーを生む方法も。しかし、これでは結末が同じですから、元ネタがハッピーエンドなら、リメイク作品はアンハッピーエンドにしたりします。
こうしたリメイクや換骨奪胎を繰り返せば、物語構造が体で覚えられます。

物語の型

復讐劇

主人公は何者かによって冒頭で欺かれ、騙され、裏切られる。結果、大きな損失、ハンディキャップを負うが、仕返しをする、復讐するなどの行為によって現状を回復する。昔話「かちかち山」が典型的。
冒頭で事件が起こり、不遇の身に転落する場合もあれば、最初から大きなハンディを負わされた状態で物語が始まる場合もある。
復讐は単独で行う場合と、周囲に助けられながら行う場合とがあり、裕福になって、貧しかった自分の人生に復讐するとなれば、それはひとつのサクセスストーリーになる。

勧善懲悪譚

正しい者は得をし、正しくない者は損をする(罰が当たる)というストーリー。昔話「桃太郎」や「こぶとりじいさん(こぶ取り爺)」などがこの型にあたる。
正しいものと正しくないものとは、「正義と悪」「平和と戦争」「無欲と強欲」など相反するものだが、「弱者と強者」のように善も悪もない場合は、善玉はより善玉らしく、悪玉は悪玉らしく描く必要がある。
「正しい状態」「あるべき状態」を回復する物語でもあるが、悪に身を落とした主人公に罰が当たれば、それは因果応報譚となる。

変身譚

狼男、ヴァンパイアなど、人間が人間でないものに変身してしまう物語。変身譚は、古くはオウィディウスの『変身物語』など神話にもあり、小説にもカフカ『変身』、中島敦『山月記』などがある。
変身するものは動物に限らず、妖精や植物の場合もある。また、動物が人間になるパターンもある。
男が女に(女が男に)なる、正常な人間が一時狂人になる、人格が変わる、異常な精神状態になる、自分が自分でなくなるような状態に陥る恋愛小説なども変身譚。最後に元の状態に戻ることで結末を迎える。

異類婚姻譚

人間が人間以外のものと結婚する話。神婚と動物婚の二種類がある。恩返しに来た動物と結婚するが、正体が発覚して去っていくパターンや、危機に陥った主人公が「結婚してくれるなら助ける」と言われ、一度は承諾するが、のちに約束を反故にして罰が当たるパターンなど、ストーリー展開は様々。異類との間に子どもが生まれる異常誕生譚も異類婚姻譚の変形と考えられる。
普通の男女や老若を一種の異類と考え、異類であるがゆえに様々なトラブルが起きるというふうに恋愛小説に応用することもできる。

報恩譚

報恩譚とは、「笠地蔵」「鶴の恩返し」のような恩返しのストーリー。
前半では、主人公は何者かを助け、その後、助けられた者がやってきて主人公に恩返しをする。
後半のパターンは二種類あり、一つは「舌切雀」や「花咲か爺」のように、結果的に主人公に富がもたらされるもの。これを致富譚と言う。
一方、「鶴の恩返し」や「浦島太郎」のように一度は恩返しされるものの、禁忌を破った結果、罰が与えられるパターンもある。このパターンの民話は世界各地にあり、人類の根源的なテーマと言える。

逃走譚

神話によくある、この世でないどこかに行って帰ってくるという異郷訪問譚の帰還部分でもある。主人公は異郷を訪れ、財宝や美女を盗んで帰郷しようとするが、途中で追いかけられる。その際、事前に与えられていた三つのアイテムを投げると、アイテムが変身して逃走を助けるのを呪的逃走と言う。呪的逃走では異郷の美女を連れて帰ることがあるが、それが発展すると課題婚となる。
逃走譚の典型は「ジャックと豆の木」で、これに巻き込まれ型をあてはめると逃亡劇、また貴人が追放された話にすると貴種流離譚になる。

 

信仰譚

主人公はなんらかの信仰を持っているが、出来事が起きて、その信仰が揺らいだり、一時的に信仰をやめたりする。しかし、最終的には信仰心を取り戻すというストーリー。
この信仰を、自分を信じる心と考えるとサクセスストーリーになり、自分を信じる心の再生と捉えると、アイデンティティー回復譚となる。
対象を自分以外の者にし、「試される友情」とすると太宰治の『走れメロス』になり、対象が恋人や配偶者であれば、恋愛、結婚小説に。いずれも信仰が大きく揺らぐ事件を起こせるかどうかが鍵となる。

到来発見探索譚

到来譚は、外部から誰かやってきて去っていく話。学園ものなら転校生ものがこれにあたり、難題求婚譚でもある「かぐや姫」もこのパターン。人ではなく物が落ちていて、それを拾ったことで物語が始まり、手放すことで終わるパターンも。
発見譚は、どこかに行って何かを発見したり、今いる環境の中に重大な何かを発見してしまうパターン。
探索譚は、今いる環境の中に重大な何かがないことに気づき、それを探しにいく物語。それはロードムービーでもあり、探すものが本来の自分であれば自分探しとなる。

 

※本記事は「公募ガイド2012年10月号」の記事を再掲載したものです。