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人は何歳まで作家デビューできるか4:本格ミステリー「ベテラン新人」 発掘プロジェクト(主催者インタビュー)

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団塊世代は宝の山

2011年1月に公募され、話題を集めた、講談社主催の「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」。日本のミステリー界をリードする作家・島田荘司氏発案のこのプロジェクトは、60歳以上を応募資格とし、「長い社会経験を
じて培われた才能」を発掘することを目的としてスタート。
このような賞では珍しいことだが、募集の際に東京で説明会を開催。300名近くが参加したという。
この模様(映像)をWEB上で流すなどして告知をしたこともあって、半年の募集期間で集まった作品数は217編に及んだ。
講談社文芸図書第三出版部の担当者は、「弊社の小説現代長編新人賞では一年間募集して1000通ぐらいの応募数。それを考えると、年齢制限があったにも関わらず、半年でこれだけ集まったのは相当多いのではないか」と話す。

ところで、応募資格を60歳以上にした狙いは何であったのだろうか。近藤氏は次のように説明している。
「弊社のメフィスト賞のように、西尾維新さんなど若手の受賞が多い賞でも、50代で受賞されている方もいらっしゃいます。しかし、今回のプロジェクトにおける島田先生のお考えとしては、長い間仕事をしてきて、小説を書いてこなかった方の中にこそ大変な知性が埋もれているのではないか、ということがありました。
戦後日本を支えてきた人たちは、一生懸命働いてきて、いろいろな知識を得、知識欲も旺盛。この世代は才能の宝庫なのではないかと。他の賞でもデビューはできるのでしょうが、あえてこの年代にスポットを当てて、競ってもらおうというのが、今回のプロジェクトの狙いとなりました」
この狙い通り、応募作品は全体的に当初予想した以上のレベルの作品が集まった。これは、「基本的にシニア世代は文章が上手」であるからではないかと近藤氏は分析する。
「小説に限らず文章や手紙を書く世代。読みやすさという点では合格点の方が多かったです」
ただし、一方ではこうも話す。
「その先のトリックを含めたミステリーの構築ということになると、応募処女作の場合、甘さが見えるなという作品が目立ちました」
とは言え、いわゆる自叙伝的な作品や身辺雑記を書いたような作品は全体の2、3割と少なく、きちんとミステリーを書こうという熱意のある人が多かったとの印象を受けたそうだ。
では、その中でデビューできる作品とはどのようなものなのだろうか。

物語と自叙伝の違いを知れ

「年齢を問わず、小説というのはなんらかの形で自分が投影される場合が多いと思うのです。それ自体は構わないのですが、ことミステリーに関して言うと、自分の思い入れを書きたいというだけでは、たぶんデビューはできないという気がします。エンターテインメント小説はやはり、物語ですから。物語を作るということと、自分の思い入れを表現するということは違うのだ、と冷静に考えられる方はデビューに近いのではないかと思います」
それでは、60歳以上でデビューした場合、出版社としてはその後の実働年数などをどのように考えているのだろうか。
「極端に言えば、小説には一発屋もありだと思っています。受賞の作品一作で、一筆入魂なのか、一作入魂なのか、そういうことが起こり得ると思うのです。長く書き続けるには、キャラクターを立ててシリーズ化していくことも多いのですが、まず一作がヒットしなくては仕方がない。そこで、とにかく面白い小説を一編、書いてみましょうという話になります。そういう意味で、最初から、末永く作品を書き続けてもらうということはあまり意識しません。それは若手の人であっても同じです。一年に何作も発表される方もいれば、一年に一作書くか書かないかという方も多いです。その人に合った考え方をするべきことですので、シニアだから特別ということはあまり考えていないですね」
このプロジェクトは今後も予定されており、次回は一年程度の募集期間を検討している。

 

※本記事は「公募ガイド2013年5月号」の記事を再掲載したものです。