あなたとよむ短歌 vol.48 テーマ詠「はじめる」結果発表 ~短歌のつくりかた~(1/3)
テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。
(『母の愛、僕のラブ』より)
テーマ詠「はじめる」結果発表
~短歌のつくりかた~
短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。
今回はテーマ詠「はじめる」の結果発表です。
ものの名前や明確な動作ではない言葉なので、他のテーマのときよりもフワッと芯をとらえきれていなかった作品が多かったような気がします。
しかし、テーマ詠のコンテストは、得てして抽象的な題材が多いもの。自分の体験や具体的な何かを頭に置いて詠むとやりやすいかもしれません。
今回も最後に、投稿者の皆さんからの質問に回答しました。ぜひ入賞作品とあわせてお読みください。
京都も近い街で暮らそう
この一首は「はじめる」という言葉を使っていませんが、新生活をはじめる歌だと分かります。友人か恋人か、心を通わせていつも一緒にいたふたり。それぞれ大阪と京都に就職することになったのでしょうか。会えないこともない距離ですが、近いわけでもない距離です。
「じゃあまた次の休みにでも会おうね」ではなく「まんなかの街で暮らそう」という結論に至るのが、お互いを思いやり、必要としあっている関係なのがわかります。ルームシェアをするのかもしれません。
「暮らそう」のリフレイン(繰り返し)が牧歌的で、絵本の「ぐりとぐら」みたいです。「まんなかの街」で、仲良しのふたりが笑顔で新生活をはじめる様子が浮かびます。
続いて、優秀賞2首です。
終えたり始めたりしてしまう
「終えたり始めたり」という、大雑把でありながらも妙に本質を掴んでいるような、軽妙な言い回しがかっこいい一首です。
堤防を危うく歩いているときって、どんなときでしょう。
もし落っこちたら人生が終わるかもしれません。一方で、大人になったらあまりしないような型破りで衝動的な行動、青春っぽさも感じます。何かに大切なことに気づいたり、新しい自分を見つけたりできそうな気もします。
僕の席だけ春に置かれる
「教室」や「春」のキーワードから、新学期のイメージが浮かびます。
「僕の席だけ春に置かれる」は歌意(歌の意味)が取りにくくもありますが、むしろそれが魅力的です。学生時代には、自分でも説明できないような、意味のわからない感情になりますからね。
「僕の席だけ」という表現で少し孤独な気持ちが伝わってきます。教室のドアの段差につまずくなどして、なんとなく出遅れたような、新しいクラスになじめないような気持ち。
「春に置かれる」は、明るく、勢いのある春のなかに取り残されたような表現です。