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ネットの海で物語る【第18回】エッセイに必要なもの

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ネットの海で物語る
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エッセイに必要なもの

私は小説以外にも、エッセイを書くことがあります。
今ご覧いただいている『ネットの海で物語る』もそのエッセイのひとつです。

エッセイとは

エッセイは公募のなかでも挑戦しやすいカテゴリーです。 自分の体験や特別な経験を、自分というフィルターを通してテキストに置き換えます。 これだけ書くと「日記」のようにも思えますが「エッセイ」は他者に読んでもらうためのものです。
自分に向けて書く文章と、他人に向けて書く文章では書き方が変わりますよね。 これからエッセイを書こうという方は、まずは誰に向けて書くのかを意識してみてください。
それだけで、ぐっと読みやすい文章に近づきます。

エッセイを書くリスク

さて、挑戦しやすいエッセイですが注意が必要です。
事実(ノンフィクション)を書くということは、それだけでトラブルのリスクが発生します。 ざっくりと書くと「個人特定のリスク」「他者のプライバシーの侵害」などが挙げられます。

≪個人情報について≫
本名で活動されているエッセイストの方もいらっしゃいますが、事実を書くエッセイと言ってもすべてを正直に書けばいいということではありません。

「私は〇〇と言います。〇〇歳で〇〇県の〇〇市に住んでいるのですが、今日は〇〇線沿いにあるコンビニで起こった出来事を書きます。私がからあげくんを買おうとしたときに、ここの店員さんに驚きの対応をされたのです。――名札には〇〇さんと書いてありました。」
*〇〇には事実が書かれているとします。

これは極端な例ですが、こんなエッセイを書いたら自分がどこの誰なのか、すぐに特定されますよね。また、このエッセイがコンビニの店員さんに関する話なら、その店員さんの個人情報まで流出させたのと同義です。コンビニの名前をぼかしても、商品名でローソンだと結びつきますから。

エッセイは自分の考えや感情を深堀して書いていくものです。そこが面白いのですが、それゆえに考えの違いで反感を買う可能性も高いジャンルです。特定しやすい個人情報を書いた場合、自分はもちろん、実在する他者に危害が及ぶ可能性もあります。書かなくてもいい個人情報をわざわざ晒す必要はありません。
自分の特性がエッセイで伝えたいことの本質に関わっていないのであれば「あるコンビニで、店員さんとこのようなやり取りがありました」と書く。それだけでいいのです。

≪他者の権利の侵害≫
エッセイを書くとき、他人について書くことも多いでしょう。家族、友人、同級生、同僚などなど。
例え家族のような近しい間柄でも、個人特定が容易かつ勝手にプライバシーを暴くようなものを書いた場合はトラブルが起こる可能性があります。近年ではエッセイ漫画でのトラブルも記憶に新しいでしょう。

できるなら自分以外の誰かをエッセイで書くときには「このような形でエッセイに書いてもいいですか?」という許可・同意をもらうのが一番の理想です。それが難しい場合は個人が特定できないように最大限に配慮する必要があります。自分が知らないところで自分のことをおもしろおかしく書かれていたり、揶揄されていたらいい気はしないですよね。

また、エッセイでは仕事に関わる話が人気です。 ですが、仕事においても秘密保持義務があります。業務上知り得た個人の情報を漏洩することはご法度です。そのような観点からも、エッセイにおいて他者の権利を侵害していないかの視点は必要不可欠と言えるでしょう。

さて、リスクと注意点を書きましたが「それならエッセイやノンフィクションなんて書くの無理じゃね?」と感じたのではないでしょうか。創作においては「表現の自由」というものもあります。内容が誹謗中傷ではなく、最低限の個人の特定を避けることができたら、問題ないと判断されることも多いでしょう。
この部分の定義はかなり難しくかつグレーなので、執筆者個人の判断・裁量に委ねられます。
特別な職業に踏み込んだエッセイや、稀有な経験のエッセイは貴重ですし需要があります。
また、他人を面白おかしく観察するエッセイも人気が出やすい傾向にあるでしょう。 そのような側面からも、私はこのジャンルがとても難しいと感じているのです。

エッセイに必要なもの

これは私なりの答えですが、エッセイには「誠意」が必要だと考えています。 登場する誰かに、読者に、そして自分自身の体験に誠意をもって向き合っているかどうかを大切にしています。

個人情報は守られているか、悪戯に他人を消費していないか、テキストを面白くしようとするあまりに過度な脚色をしていないか……。原稿を書く前に考え、書いた後にもその視点で何度も読み直します。
そして「エッセイとして出すのは難しいかも」と感じた場合は、いっそセミフィクション(実際の出来事を基に脚色した作品)にしたり、フェイクを盛りに盛ってフィクションとして発表すればいいと考えています。体験を作品に活かすのは、エッセイ以外でもできますからね。

エッセイを世に出す場合、その原稿の責任は自分にあります。 何気ない日常を面白く書くこともできるし、特別な経験を共有することもできます。 エッセイを書くときには、今回お伝えしたリスクを頭の隅にでも置いてもらえると嬉しいです。

◆おまけ
私がエッセイで大賞をいただいたときの賞品です。

パルムヨギボーというレアな品なのですが、存在感がすごいです。 毎日パルムを感じながら日々を過ごしております。

次回は執筆・書籍化作業に役立つツールを紹介する予定です。

※次回は3/20(水)更新予定です。


■profile
蜂賀三月 (はちが みつき)
小説家。ショートショート、児童書、YA小説をメインに執筆活動を行う。著書に『絶対通報システム~いじめ復讐ゲームのはじまり~』(スターツ出版)、 短編小説収録『5分後に奇跡のラスト』(河出書房新社)など。小説情報メディア 「WebNovelLabo」 を運営。