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エンタメ技法を盗め!小説に活かす映像のテクニック1:見る人を飽きさせないテクニック

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映像で語る技術

 以下のようなシーンがあります。

 

○中尾家・茶の間(夜)
  お茶を飲んでいる瑞枝と史郎。
瑞枝「お義父さんに、また、新しい女ができたみたい。先週、宏樹がガールフレンドと遊園地に行ったじゃない。そのとき、おじいちゃんが派手な女といるところを見たって」
史郎「親父の病気だ。おふくろもどうでもいいんじゃないかな。ほっとけよ」

柏田道夫『シナリオの書き方』

 

このシーンは人物がお茶を飲みながら話しているだけで場面に動きがありません。いかにも退屈です。
では、画面に変化をつけてみましょう。

 

○中尾家・茶の間(夜)
  お茶を飲んでいる瑞枝と史郎。
  瑞枝、スナップ写真を出す。
  遊園地で楽しそうな初老の男と化
粧の濃い中年女。
瑞枝「お義父さん、また新しい女よ」
史郎「どうしたんだ、これ?」
瑞枝「宏樹、先週、ガールフレンドと行ったの。そしたら偶然。どうする?」
史郎「親父の病気さ。おふくろも諦めてる。(写真を放り)ほっとけよ」

柏田道夫『シナリオの書き方』

 

最初のシナリオにはなかった「スナップ写真」が何事かを語っていますので説明的なセリフが減り、写真を出したり放ったりといった動きが出ました。

小道具を使う、象徴させる

前出の例文で出てきたスナップ写真も小道具ですが、単に場面に必要な小道具というだけでなく、小道具に人物の心理などを象徴させたりすると、場面がおもしろくなります。

 

○晴美の部屋・中
  花を生けている晴美。パチパチと花バサミの音が響く。
  横でひたすらタバコをふかす浩之。
晴美「三人目よね(パチ)」
浩之「エ?」
晴美「私と出会ってから」
浩之「……(タバコをひねり潰す)」
晴美「バレたのだけで、もっと多いのかも(と葉っぱを乱暴にちぎる)」
浩之「帰ってくるのは、結局、キミのところなんだからさ」
晴美「感激して涙が出そう(ビチッ)」
浩之「悪かったよ( 新しいタバコに火)」
晴美、アネモネを取り出し、
晴美「……〝期待〟っていうのよ」
浩之「……?」
晴美「アネモネの花言葉」
浩之「花言葉なんて誰が決めたか知らないけど、花だって迷惑だぜ、きっと」
晴美「〝見捨てる〟ってのもあるのよ。期待って裏切られるからね」
  アネモネの花を、バチバチ首元から落としていく。
  浩之、ゾクリと震える。

柏田道夫『シナリオの書き方』

 

浮気を許せない晴美の心理を小道具が代弁し、説明が少なくて済んでいます。
心理は見えませんが、小道具は見えますから、印象にも残りやすくなります。

時間の省略

映像では、だらだらとはやれません。
削れる時間は徹底して削られます。

○バス停(朝)
  傘の列の中にいる高木、時計を見て、足踏みをしている。
  道路の向こう、バスは影もない。
  すぐ後ろに立っていた香、高木の肩を叩き、
香「あの……」
○走るタクシー・内(朝)
  乗っている高木と香。
  渋滞中でなかなか進まない。
高木「雨の日はこれですもんね」
香「ギリギリ、間に合いそう」
高木「そう、あの店にいらしたんですか。ごめんなさい。気がつかなくて」
香「寿不動産のみなさん、よくいらっしゃいますよね」

柏田道夫『シナリオの書き方』

定番のテクニックですが、場面を飛ばすことで、間にあった香の「お勤めは夢ヶ丘駅前の寿不動産ですよね。私もすぐ近くなんです、タクシー相乗りしませんか」というセリフを省略しています。
結果、話がテンポアップしますし、見ている人も想像をかきたてられておもしろくなります。

次のシーンへの引き

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のラストシーンでは、ようやく現在に戻ったマーティーのもとにドクがやってきて、未来のマーティーたちの子どもが窮地に陥っていると言い、今度は未来へと旅立っていきます。これは『Ⅱ』への引きといったところでしょうか。
このように前後のシーンをつなぐ要素や情報を盛り込んで終わるのは、連続ドラマの毎回のラストシーンではおなじみの手法ですね。
さて、以下は悪い例です。

○営業2課・内
  仕事をしている社員たち。
  山室、汗を拭き拭き戻ってくる。
山室「まいったよ。大山食品さん、急に見積もり出せなんていうからさ」
  鈴木課長、待っていたとばかりに、
鈴木「山室くん、ちょっと」
  と会議室を指す。
山室「(怪訝そうに)はい……」
○会議室・内
  深刻そうな山室と鈴木。
鈴木「大山食品の木村部長から電話があった。キミが納品した商品見本に欠陥があった。向こうはカンカンだ」
山室「欠陥って!」
鈴木「ほらここだ」
  とスナック菓子の袋を示す。
山室「?」
鈴木「表はハッピイポテトなのに、裏はパッヒイポテトと印刷されてる」
山室「ありゃ」
鈴木「ありゃじゃないぞ、こんな初歩的なミスをしおって!」
山室「どうしましょう?」
鈴木「謝るに決まってるだろう!」
山室「そうですね」
鈴木「すぐに行くぞ!」
  二人、飛び出していく。

柏田道夫『シナリオの書き方』

商品のパッケージに印刷ミスがあり、そのことを上司とともに謝りに行くという内容です。話が平板で、これだと、どうしても退屈さを感じてしまいます。
では、これを映像で見たときにおもしろくなるよう修正してみます。

○営業2課・内
  仕事をしている社員たち。ひどく緊迫した雰囲気。
  山室、汗を拭き拭き戻ってくる。
山室「まいったよ。大山食品さん、急に見積もり出せなんていうからさ」
  鈴木課長、顔を真っ赤にして、
鈴木「ドアホ!」
山室「(硬直して)へっ?」
鈴木「くだらんミスを! 行くぞ!」
山室「……どこへ?」
  社員たち、渋い表情を返すだけ。
鈴木「ボヤボヤするな」
山室「あ、はい」
  と後を追う。
○大山食品・企画部・内
  部長席の前で土下座している鈴木。
  促されて山室も従う。
  木村部長、スナック菓子の袋から ポテトチップスをつまみ、かじりながら無言。
  素知らぬふりを装いながらも、チラチラ見ている社員たち。
鈴木「やりなおしさせてください!」
山室「お、お願いします」
木村「……(バリッとチップを)」
鈴木「損害分はうちで」
山室「うちで……嘘!(鈴木に小声で)いったい何が起きたんですか?」
  木村、チップスの袋を逆さにして、山室の上にクズを散らす。
山室「(ムカッ)」
  空き袋がパラリと落ちてくる。
鈴木「見ろ!」
  袋を表から裏へとひっくり返す。
  表はハッピイポテト、裏はパッヒイポテトと印刷されている。
山室「ありゃ!」

柏田道夫『シナリオの書き方』

 こちらの例文では、過程のプロセスを省略することで、「何かが起こったことはわかるが、何が起こったのかはわからない」というふうにして、次のシーンへと興味をつないでいます。

 

※本記事は「公募ガイド2013年10月号」の記事を再掲載したものです。