3日間で書ける!小説講座3:構成・執筆の心構え・推敲


STEP3:構成
基本は時系列。まずはここから
ストーリーを考えたら、今度はそこに山場を作ろう。
山場は主人公の目的が実現するときであり、実現に向けて難渋するときでもある。端的に言うと、謎が明かされたり、主人公がトラブったりして、ハラハラドキドキする場面、あるいは、ハッとする、えっと思う場面のこと。
山場を作ろうとすると、その前後が変わったりする。STEP 2で書いた「発端・反応・結果」をもう一度書き直してみよう。
山場を作るには
秘密
主人公に秘密があり、最後に明かされるように構成するとそこが山場となる。読者は他人の秘密を覗き見たような面白さを覚える。内面の告白だとより効果的。
意外な展開
最後に思わぬ展開をし、「え?」と思わせる。話自体が急転直下する場合と、展開は普通だが作者にミスリードさせられ、結果的に意外に思う場合とがある。
サスペンス
サスペンスは心理的にドキドキすること。「このあと、どうなるのか、このままでは主人公が危ない」という不安定な心理。山場の前にダレ場があると相乗効果に。
書き出しと終わり方の悪例
書き出し
●説明過多:導入部では設定を説明しなければならないが、それに終始しないこと。出来事を起こし、その中で説明する。
●説明不足:導入部で出来事を起こすと、今度は説明が不足する。出来事を書きつつ、話がどこに向かうかも示すこと
終わり方
●話が終わっていない:未解決の問題を残して終わらないこと。これではすっきりしない。すべての問題になんらかの答えを。
●キレが悪い:話は終わっているのに、同じ結論を言い直したり、余計な解釈、解説を足したりしない。ラストは短めに。
慣れてきたら応用編を試そう
下記の構成はストーリーと同じ時系列フォーマット。この基本形は崩さないが、そのうえで少
し凝った構成にしたいなら、倒叙フォーマットとサンドイッチフォーマットがある。
倒叙フォーマットは、山場の一部を前にもってくる構成。動きのあるシーンを前にもってくることで、書き出しでダレるのを防ぐ。
サンドイッチフォーマットは、現在の間に過去の出来事を挟み込んだ形式。現在から始めることで、実話っぽくなるという効果がある
オーソドックスな時系列フォーマット
発端
佐賀島翔は「君そっくりの人を見た。兄弟ではないか」と友達に言われた。そのことを母親に言うと母親は真っ青になり、むきになって否定した。
反応
不審に思った翔は、自分に似た人を見たという町に電車で行ってみた。自分に似た人はいなかったが、近所に「佐賀島」という家を見つける。
山場
その家を訪ねると、自分そっくりの人がどこかに飛び出していった。あとを追う女性と鉢合わせになり、女性は「なぜ翔がここに?」と絶句する。
結果
翔はそれが実母だと知らされるが、あまりのことに混乱し、実母を傷つける。しかし、最後にはやむにやまれぬ事情を理解し、養母のもとに帰る。
冒頭に山場(の一部)をもってきた倒叙フォーマット
山場(一部)
ある家を訪ねると、自分そっくりの人が親とケンカして飛び出してきた。翔がここに来たのは「君そっくりの人を見た」と言われたからだった。
発端反応
ここに来る前、友達の話を母親に言うと母親はむきになって否定した。不審に思った翔はこの町まで電車で来て、「佐賀島」という家を見つける。
山場(残り)
翔は自分そっくりの人を追って出てきた女性と鉢合わせに。女性は「なぜ翔が?」と絶句し、くずおれる。翔はただならぬ予感に脅え、緊張する。
結果
翔はそれが実母だと知らされるが、あまりのことに混乱し、実母を傷つける。しかし、最後にはやむにやまれぬ事情を理解し、養母のもとに帰る。
本編の前後に別次元の話を加えたサンドイッチフォーマット
プロローグ
佐賀島翔は、実母が入院したと養母から聞き、見舞いに行く。生まれてすぐに里子に出された翔は、そのことで実母を傷つけたことを思い出す。
本編
発端⇒反応⇒山場⇒結果
本編(過去)が現在で挟まれている
エピローグ
実母と養母は病院の中庭にいた。二人は姉妹で、翔をめぐって確執もあったが、今はすべて時が解決していた。翔は二人の母のもとに歩いていく。
STEP4:執筆の心構え
文章は粗くても先に進もう
構想していたときは傑作だと思えたのに、書き出した途端、「なんだか面白くない。凡作なんじゃないか。こんなもの書いても意味ないよ。やめれば」。悪魔が耳元でささやく。
こうなったときのために、以下の二つを肝に銘じておこう。
一、「凡作なんじゃないか」は誰でも思う。プロでも思う。ましてアマチュアなら当然と思おう。
二、凡作かどうかは書き上がって初めてわかること。途中では絶対に判断しないこと。
まずは完結を目指そう。
書き上げた後でも直せる箇所
描写の量
描写が厚すぎた、この描写だけで3枚も書いている、少し削ろうのように思ったりするが、調整はあとまわしでよい。いずれ推敲で削る。
言い回し
表現や言いまわしが気になり、別の言い方はないかと悩んだりするが、過度には考えすぎないこと。あとで見直したほうが絶対にうまくいく。
説明不足
この場面は「いつ?」を書き忘れている、このセリフは話者が誰かわからないといった説明不足も、あとで書き足せる。致命的でなければOK 。
セリフ
どんなセリフを言わせるか、言わせないか、直接話法か、間接話法かも、あとでいくらでも直せる。これも過度にはこだわらないこと。
完成させるたびに実力が上がる
書き上がったが、「やっぱり凡作だった」と思うこともある。しかし、書き上げた経験は多くの副産物をもたらす。枚数の感覚もわかるし、構成、展開のよしあしも体感できる。何より筆力が上がっているはずだ。
また、「完結できた」という成功体験は自信になり、これを積み重ねていけばどんどん実力がつく。
凡作でも決してむだではない。
要注意!これが挫折のもと
表現にこだわりすぎる
「激怒」と書いたあと、大げさだな、「怒った」でいいか、いや、「眉根を寄せた」がいいかなどと迷ったり。あまりこだわりすぎないこと。
駄作のような気がしてくる
書き慣れないと、「同じ表現が多い」「言いまわしが陳腐」「説明も下手」と思ってしまう。書けばうまくなると思い、次の1行を書こう。
既視感を覚える
この設定、この展開、読んだことある。誰でも多少は思うが、書き上げてみたらそうでもなかったということも。考えすぎないこと。
制作が進まず面倒になる
小説は1文字ずつ書く。読むようには進まない。だから停滞感がある。でも、そこで急ぐと書くのが嫌になる。急ぐぐらいなら休憩しよう。
書くときに考える執筆上の注意
多めに書いておく
推敲で1~3割削ることを前提に、規定枚数より多めに書く。多めに書いておけば、描写の密度が厚い部分もでき、説明不足もなくなる。余分はあとで削る。
作者が楽をしない
物語が佳境に入ると主人公には問題が立ちはだかるが、問題に立ち向かわずに解決を図るとつまらなくなる。作者も楽をせず、物語の問題から逃げないこと。
STEP5:推敲
第1稿は完成度50%。これからが本番
第1稿ができると、「書き上がった。終わった」と思うが、この段階での完成度は50%ぐらいだと自覚しておこう。
まず、ここまで書き上げることを優先し、あとまわしにしてきた部分がある。その精度を高め、表現を磨かないといけない。
また、書き上げてから第三者の目で読むと、さまざまな問題が見えてくる。これらも修正したい。
書き上げてからが本番だと思ったほうが、最後の粘りがでる。
正しい推敲の手順
全体的な問題
まず、全体を見る。言いたかったことが表現できているか、書き出しや結末は長すぎないか、展開は遅く(早く)ないか、山場はあるか、結末に絡まない余分な話はないかなどをチェック。
■ テーマは表現できているか。
■ 話の流れ、バランスはいいか。
■ 削っても話が成り立つ余分はないか。
■ 話が脇道に逸れている箇所はないか。
■ タイトルがネタ割れになっていないか。
■ 書きすぎた説明や描写はないか。
■ 場面に臨場感はあるか。
■ 話の展開はスムーズか。
■ 書き出しは読み手の興味を引くか。
■ 結が長すぎないか。
文章的な問題
次に、文章を見る。段落はうまくつながっているか、文の接続はおかしくないか、描写不足はないか、説明はわかりにくくないか、説明不足はないか、削れる文はないかなどをチェック。
■ いつ、どこでなどに説明不足はないか。
■ 生な感情を直接的に説明していないか。
■ 文と文の接続は自然か。
■ 絵が浮かぶ表現になっているか。
■ 文章のリズムは悪くないか。
■ 段落の長さは適切か。
■ 長すぎる文はないか。
■ よじれ文はないか。
■ 語順は適切か。
■ 係り受け関係は適正か。
用字用語の問題
最後に、用語用字を見る。誤字、誤変換、誤用、テニヲハ、表記の統一、改行1字下げなど書式もチェック。文章として読むと誤りに気づきにくいので、1文字1文字、記号として見ていく。
■ 表記は統一されているか。
■ 誤字、脱字はないか。
■ 誤変換、誤入力はないか。
■ 言葉の誤用はないか。
■ 接続詞は多すぎないか。
■ 読点の打ち方は適切か。
■ 言葉の重複はないか。
■ テニヲハは適正か。
■ 体言止めの乱用はないか。
■ 現在形を使いすぎていないか。
※本記事は「公募ガイド2020年9月号」の記事を再掲載したものです。