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3日間で書ける!小説講座4:添削事例

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STEP6:添削

自分のレベル以上の修正はできない

 何度も読み直し、これ以上は無理というところまで完成度を高めたいが、自分のレベル以上の修正はできないもの。
 悪くすると、直さないほうがよかったということになりかねない。
 こういうときは、自分と同等、またはそれ以上のレベルにある人に読んでもらうといい。
 アドバイスを聞くときは、いったんは素直に受け入れるが、自分なりによく吟味してから飲み込むことが肝要だ。

チェックポイント

場面がないと空間がわからない

主人公の目を働かせ、目でとらえたものを書いていくと、紙の上に空間が立ちあがる。場面(空間と時間)が書けているかチェック。

描写がないと実感がわかない

説明だけでは伝わらない箇所は主人公の五感を使って書き、感じがわかるようにする。こうした描写の書き方ができているかチェック。

表現がおかしいと引っかかってしまって読めない

普通の人間の行動として不自然、リアクションがおかしい、セリフのやりとりがちぐはぐ。そういう箇所がないかチェック。

修正の基準となる4R

readability

読みやすさ。「引っかからずに読めるか」「意味はわかるか」「難解ではないか」などがチェックポイント。

reality

本当らしさ。「現実にもありそうと思えるか」「リアルか」「不自然さはないか」などがチェックポイント。

rhetoric

効果的に表現する技術。「ありありと伝わるか」「もっと端的に言えないか」などがチェックポイント。

realism

写実ということ。「情景をしっかりイメージしているか」「絵が浮かぶ表現か」などがチェックポイント。

場面を作るということを意識しよう

小説はどんな書き方をしても自由と言えるが、あえて絶対的に必要なものを挙げるとすれば、場面がある。下手な小説には場面がなく、あらすじを膨らませただけのような平板な筋しかない。
 場面とは時間と空間を表現したもの。出来事が起きた現場にいる主人公が視覚でとらえたものを書くと情景が立ち、主人公が感じた時間を書くと時が過ぎた感覚を伝えることができる。
 この場面をつなげていったものが一つの作品だ。

場面の積み重ねで小説はできている

 小説を書くという作業は、場面を書くことに等しく、いくつもの場面を連ねていったものが一作品ということになる。
 場面の長さは、平均すると原稿用紙5〜10枚ぐらい。
 1行空きの断章があり、間が省略されている場合もあれば、前の場面の終わりで次の場面につながる予告がされている場合もある。
 各場面は別の場面のさまざまな箇所と関連し、絡み合っている。

場面( シーン)とは?

主人公がいる場所、または時間が大きく変わることを場面転換と言い、転換から転換までが同一場面となる。場面は、主人公の目というカメラの切り替えで区切られるカットの集合体。

場面転換の実例

その日の夕食時、父は瓶ビールの栓を開けると、まだ酔ってもいないのに、あゆむ君は新しい学校でうまくいってるかね、と冗談を言う口調で訊いてきた。(中略)それから歩は、父の言う埼玉郊外の家を想像してみた。その二階建ての家には、二階の自室と、芝生の庭があるのかもしれない。
 食事を終えて自室に戻ると、歩は学生鞄から折畳みナイフを取り出し、それを机の抽斗の奥深くしまい込んだ。

(高橋弘希『送り火』)

〔解説〕 歩は両親と一緒に夕食を囲んでいる。そのあと、改行して真っ先に〈食事を終えて自室に戻ると〉という一文を書き、時間の経過と場所の移動を示している。

(前略)丘のようにふくれた腹をさすりながら主将はそう叫んでおり、「うまいうまい」と一馬が残ったカレーを食べている。晴子はおしぼりで手を拭くと、「主将、引退までには食べ切ってくださいよー」と父から受け取っていた千円札四枚を財布から取り出した。
「明日のバスも早いからなー、今日はしっかり寝ろよ! 遅刻すんなよ!」
 食堂の前で主将が大声をあげた。

(朝井リョウ『チア男子!!』)

〔解説〕 柔道部員が巨大カツカレーの大食いに挑戦している。その後、1行空けて食堂の外の場面に移行することで、書かなくていい間のやりとりを省略している。

場面転換のメリットと注意点

メリット

日常の時間は切れ目なく続いている。これを忠実に写すと、撮りっぱなしのビデオを観ているようになる。
場面転換をするとむだな時間が省かれ、話を先に進めることができる。

注意点

場面が変わったということは、場所や時間が大きく変わったということ。
であれば、場面転換後は場所や時間がどう変わったのか、「いつ、どこで」を早めにわかりやすく示そう。

添削実例

ドッペルゲンガー
 
 あれは忘れもしない、高校を受験した次の日だった。
 ➊学校に行くと、クラスメートが盛り上がっていた。
「何を騒いでいるんだい」
 声をかけると、クラスメートたちは一瞬で静まった。
❷「昨日、川田高校を受験したんだけど、その帰り、近くの書店でおまえそっくりの人を見たんだ」
❸「昨日、ぼくは戸板高校を受験していたよ。二時ならまだ戸板駅にも着いていないよ」
「だからさ、あれはきっとおまえのドッペルゲンガーだったんじゃないかって話していたんだ」
 ドッペルゲンガー。自分そっくりの分身、生霊。
「他人の空似だろ」
 翔は取り合わなかったが、その日、帰宅後、気になって母親に聞いてみた。実は以前にも、これと同じことを言われたことがあったからだ。
「今日さ、学校の友達に、ぼくとそっくりな子を見たと言われたんだ」
 台所仕事をしている母の手が止まった。いつもなら軽い冗談で返すのに、この日は違った。
❹「そんなことあるわけない」
「どうしたの、急に」
 いったいどうしたんだと思いながら、母親をなだめた。ふだんの母親は決して感情的になったりはしない性格だが、このときは秘密がバレそうになった犯人みたいにうろたえていた。
 何かある。直感的に思い、翔は次の日、川田高校のそばの書店に電車で行ってみた。小一時間ほど立ち読みしたり、あたりをうろうろしたりしてみたが、自分とそっくりの人などいなかった。
 翔は川田駅まで戻ろうとした。そのとき、通りすがりの家から大声が聞こえた。
「なんで黙ってたんだよ。翔って誰だよ。昨日、どこかの中学生に聞かれたよ」
 ❺彼こそが翔の双子の兄、翼だった。翼は走り去り、彼の母親は彼を追う。
「待って、翼」
「翼って誰ですか」
 ➏ぼくは聞いた。
「なんで翔が?」
 女性はくずおれて泣き出した。
 ぼくを知ってる? この人は誰なんだ。
 泣き声が聞こえたのか、家の中から男の人が出てきた。翼という男の父親のようだ。
➐「翔、大きくなったな」
 彼は眉根を寄せ、どこか苦々しい顔を見せた。
 この人もぼくを知っている。いったいなんなんだ。
翔は混乱した。
「君は翼の双子の弟なんだ。わしらは君の実の親だ。母さんは体が弱く、二人は育てられなかったので、君を里子に出したんだ」
「うそだ」
 翔はその場から逃げるように駆けだした。
「実の親が、子どもを捨てるわけない」
 ➑その日、家に戻り、事の顚末を話そうとした。しかし、言えなかった。実の親を許せるようになったのは、それからしばらく経ってからだった。

 

チェックが入った箇所➊

 学校に行くと、クラスメートが盛り上がっていた。

このあとを読むと、クラスメートたちはドッペルゲンガーという超常現象を見てしまったと話していたことがわかります。
となると、「盛り上がる」とはちょっとニュアンスが違うような気がします。

学校に行くと、クラスメートが色めき立っていた。

チェックが入った箇所❷

「昨日、川田高校を受験したんだけど、その帰り、近くの書店でおまえそっくりの人を見たんだ」

 後半、翔の兄の翼が「翔って誰だよ。昨日、どこかの中学生に聞かれたよ」と言っていますので、このことについて前半でも触れておきましょう。

「昨日、川田高校を受験したんだけど、その帰り、近くの書店でおまえそっくりの人を見たんだ」
聞けば、クラスメートたちは彼を取り囲み、「翔、なんでこんなところにいるんだよ」と声をかけたが、彼は「人違いですよ」とそっけなく言って去っていったと言うのだ。

チェックが入った箇所❸

「昨日、ぼくは戸板高校を受験していたよ。二時ならまだ戸板駅にも着いていないよ」

「そっくりの人を見た」とは言っていますが、翔を見たとは言っていません。セリフを変えましょう。
また、「二時ならまだ」と急に時間について言い出すのも変です。

「昨日、川田高校を受験したんだけど、その帰り、近くの書店でおまえを見たんだ」
「はあ?」
翔は何をバカなことをと思った。
「受験のあとって、何時頃だよ」
「二時ぐらいかな」
「ないない」
翔は盛大に手を振った。
「昨日は戸板高校に受験に行っていたんだ。二時ならまだ戸板駅にも着いていないよ」

チェックが入った箇所❹

「そんなことあるわけない」
「どうしたの、急に」

 セリフしかないので、どんな感じで言ったのかわかりにくいです。

「そんなことあるわけない」
それは絶叫に近かった。
「どうしたの、急に。何をむきになっているんだよ」

チェックが入った箇所❺

彼こそが翔の双子の兄、翼だった。翼は走り去り、彼の母親は彼を追う。

 ここは話のアウトラインだけを書いている感じですが、この場にいる翔の目を働かせて描写することで、この場の空間とその中でどう人物が動いたかを示してほしい
です。そのようにして場面を書けば、よりわかりやすくなります。

 玄関から出てきた男を見て、息が止まるかと思った。彼はまさしく自分と生き写し、背格好から髪形まで瓜二つだった。
彼は絶句する翔の横をすり抜け、どこかへ走っていった。そこに家の中から彼の母親らしき女性が出てきて、彼と間違えて翔にすがりついてきた。

チェックが入った箇所➏

ぼくは聞いた。

 そう書いてもいいですが、これは書かなくてもわかりますので、ここでは視覚を使って、相手の表情や変化を書きましょう。そのほうが絵が浮かびます。

女性は「まさか」と言って口に手をやった。その顔がみるみる青ざめた。

チェックが入った箇所➐

「翔、大きくなったな」

男の人(翔の実父)が急に登場して、急に話し始めました。それまで家の中にいて、事情がわかっているのかも不明ですし、少し間が欲しいです。

「話は聞こえた。こんな形で再会することになるとはな」
男性は独り言のように言い、改めて翔を見た。
「翔、大きくなったな」

チェックが入った箇所➑

その日、家に戻り、事の顚末を話そうとした。しかし、言えなかった。実の親を許せるようになったのは、それからしばらく経ってからだった。

言えなかった理由にも触れましょう。

その日、家に戻り、事の顚末を話そうとした。しかし、言えなかった。母さんを母さんでないなどとどうして言えよう。実の親を許せるようになったのは、それからしばらく経ってからだった。

 

※本記事は「公募ガイド2020年9月号」の記事を再掲載したものです。