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ツイートする短歌6:現代歌人インタビュー

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今注目の若手歌人1:鳥居さんインタビュー

昨年刊行された第一歌集『キリンの子』が現在8刷と、歌集では異例の増刷を重ねている。鳥居さんと短歌との出会いは、永遠に信じられるものを求め、図書館で古典の並ぶ棚を眺めていたとき。穂村弘さんや吉川宏志さんの歌に触れ、そこに自分と同じ孤独のにおいを感じ取ったという。
実際に歌を作り始めたのは、鳥居さんがホームレス生活から脱出し、大阪で住む場所を見つけ、落ち着いた時間を過ごせるようになった2012年から。絵を描くのが好きだったため、「花柄の籐籠いっぱい詰められたカラフルな薬飲みほした母」のように、記憶の中の光景を言葉でデッサンする感覚で歌を作り上げていった。
そうやってノートに数百首を書きとめ、自分なりに手直しをしてみるものの、正解かわからない。
他人の意見が聞きたくて「全国短歌大会」に応募、入選を果たす。
「私にとって短歌は、自分を否定しなくて済む居場所なんです。だから、作品を批判されるのが怖かったし、引きこもりだったので、応募するため郵便局に行くにも勇気が必要でした。でも、この受賞をきっかけに、良い歌を作れば何かが変わるかもしれないと感じたんです」
以後、さまざまな媒体で短歌を発表し、昨年は台湾やパリの歌壇とも交流。それと比例するように、扱うテーマは自身の体験に基づく喪失感や痛みから、時代や個人を超えた普遍性を持つ心の動きや、美しい詩的な光景などへと広がっている。
たとえば、「水蛇はショウに倦みつつ美女の手を練習どほり絡め取りたり」の歌は、パリでムーランルージュのショーを見たことで生まれた。蛇は美女と長年ペアを組んでいるので、巻きついて殺す気などさらさらない。面倒がりながら練習通りにやっている情景が美しく、「思わず写真に撮りたくなるような情景を、私は短歌にして残したくなるんです」と目を輝かせる。
専業歌人として快進撃を続ける鳥居さんは、大学やイベントで短歌を教える機会も多い。
「私もそうでしたが、まずは短歌を読むことで、リズムや技法が感覚的にわかってきます。短歌=つまらないと思っているかもしれませんが、しっとりした歌から激しくカッコいい歌、怖い歌、近未来的な歌までいろいろな歌があるので、自分に合うものが必ず見つかります。最初は見よう見まねでいいので、下手でも失敗しても絶望してでも、とにかく文字を書き、文字と向き合ってみてください」

鳥居さんの短歌

目を伏せて空へのキリンの子 月の光はかあさんのいろ
ビニールの透明傘がひとつずつ街にひらいていく無表情
林檎酒(シードル)のさわだつ夜に▶(再生)す、つゆけき蒼の「ILOVEYOU」

 

鳥居
三重県出身。小5で母が自殺、ホームレス生活などを経験。12年全国短歌大会入選、13年掌編小説で路上文学賞受賞、14年中城ふみ子賞候補。ペンネームには姓と名を分けないことで性別・年齢を越えたいという思いがある。形式卒業者の存在を広めようとセーラー服で活動中。
toriitorii.exblog.jp/i2
Twitter:@torii0515

今注目の若手歌人2:木下龍也さんインタビュー

虹 土葬された金魚は見ているか地中に埋まるもう半輪を

虹は半円ではなく輪っかなのではないか。土葬された金魚の視点を追加すれば、死によって見えなかった土中の半円が見えてくるのではないか。
「そんな気づきをツイッターでつぶやいてもいいんですけど、短歌にしたほうが1行でパッと目に入るし、伝わりやすい」というのは、ネット系歌人の代表として知られる木下龍也さん。
その発想力や当たり前を裏切っていく言語感覚は、コピーライターを目指していたという出自と無関係ではない。コピーの学校に1年半通ったが、尊敬しているコピーライターの谷山雅計さんから
「コピーより物語が向いているのでは」と言われ、「谷山さんがあえてそう口にしたということは、本当なんだろう」と信じることにしたという。
そんなとき、書店の短歌コーナーで穂村弘さんの『ラインマーカーズ』を手に取った。そこから穂村さんの歌集や評論を読みはじめ、そのうちに「小説と違って五七五七七のルールがあり、終わりが見えている。これならできるかもしれない」と歌を作り始めた。それが2011年のことだ。
すぐに雑誌や新聞などに投稿し始め、コンスタントに採用されるようになっていく。翌年応募した「全国短歌大会」での大賞受賞が、第一歌集『つむじ風、ここにあります』の刊行につながった。
歌歴2年で人気歌人となった木下さんは、「すぐに言葉にしないほうがいい」と教わったコピーの作り方を短歌に応用している。
「面白いと思った状況やフレーズは、スマホにメモしておきます。最近だと、『となりにいるこいつの水がずっとない』というメモが残っています(笑)。それらを地下貯蔵庫にしまい込むように貯めておき、必要に応じて地下に下りていって、歌を作るのに必要な素材を調達する。その場で歌にしても、現実の面白さに言葉が負けてしまう。現実を上まわる付加価値を言葉に与えるには、時間が必要なんです」
結社には属さず、会社員として働きながら、投稿やコンビニのネットプリントを利用した作品発表、短歌朗読イベントなど、短歌外に活動の舞台を求めるのは、
「短歌を知らない人が目にする場で作品を発表し、その面白さを知ってほしいから」だという。
「書店で『今日は小説と歌集、どっちを買おうかな』と選択肢に歌集が入ってくるような状況を作っていきたいですね」

木下龍也さんの短歌

あの虹を無視したら撃てあの虹に立ち止まったら撃つなゴジラを
恋人を鮫に食われた斎藤が破産するまでフカヒレを食う
立てるかい 君が背負っているものを君ごと背負うこともできるよ

 

木下龍也

88年山口県生まれ。12年第41回全国短歌大会大賞受賞。結成当日解散型ユニット「何らかの歌詠みたち」で飯田彩乃、飯田和馬、岡野大嗣とともに短歌朗読イベントを不定期に開催。Twitter:@kino112

角川短歌賞佳作入選:カン・ハンナさん

――短歌を始めたのは?

6年前に日本に来て、3年前に短歌を始めました。

――いきなりできました?

最初はただ単に五七五七七に言葉を当てはめただけのことでしたが、歌集を読み始めて、そこから徐々に学んでいきました。

――短歌はどう作りますか。

机に座って作れないタイプなので、できるだけ歩きます。歩きながらいろいろな思いを単語にして、帰って机に向かいます。

――いきなり五七五七七になる?

ある一つに焦点をあてて、その瞬間だけをまず短くきゅっと凝縮させて、それから伸ばします。

――伸ばす?

10か月ぶりに母の背中を垢すりしたことがあって、前はいつもしてあげていたのに、10か月ぶりでごめんねという気持ちがあったのですが、そのときのことを頭の中で絵に描いて、絵から単語を引き出します。このときは「母」「垢すり」「十か月ぶり」が出てきて、それが「赤い赤い垢すりタオルで母の背の垢を落とすこと十か月ぶり」になりました。

――それも独学で?

「直接的な表現はしない」「絵のような描写をする」などの基本的なルールは『短歌de胸キュン』(Eテレ)で習ったので、それをベースに、あとは自分らしく。

――スランプはなかったですか。

日本人に比べたら言葉を知らないし、表現の豊かさもないので、私にはやれないかもと悩みました。
そのとき、歌人の先生に、小学生でも素晴らしい歌は作れる、自分の言葉で、どうやって描写していくか、どうやって伝えるのかに集中しなさいとアドバイスされて前向きになれました。

――短歌はどんな人に向いていると思いますか。

自分の思いを伝えたい人に向いています。私は日本の素敵なところを詠み、そして日本と韓国の架け橋になりたいと思っています。
それを伝えるには短歌が向いていて、巡り合えて本当に幸運だったと思っています。

角川短歌賞入選作より

一ページ読み終えるのに一時間ルビだらけになる『日韓関係史』
参拝の仕方も知らず日枝神社へ下手な日本語で神様を呼ぶ
夢の中の登場人物全員が日本語になった来日五年目

 

カン・ハンナ

81年生まれ。韓国出身。横浜国立大学大学院博士課程在学中。韓国KBSニュースキャスターを経て、6年前に来日。TOEIC905点。16年角川短歌賞佳作に入選。「NHK 短歌」「短歌de胸キュン」に出演中。

 

※本記事は「公募ガイド2017年5月号」の記事を再掲載したものです。