あなたとよむ短歌 vol.61 テーマ詠「青春」結果発表 ~短歌を詠みはじめたばかりの人へ~


テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。

(『母の愛、僕のラブ』より)
テーマ詠「青春」結果発表
~短歌を詠みはじめたばかりの人へ~
短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。今回はテーマ詠「青春」の結果発表です。
最近では投稿数が増え、毎月600首近い作品が寄せられているのですが、今回は1120首もの投稿がありました。たくさんの力作をありがとうございました。
「青春」というテーマには、多くの人に思い出や思うところがあるのかもしれません。甘酸っぱさ、刹那的、懐かしさなど、青春という言葉自体にぼんやりとした魅力があるだけに、いかに自分らしく詠めるか難しいテーマともいえそうです。
後半では投稿者の皆さんの質問に回答しています。作品と合わせて、ぜひ最後までお付きあいください。
それでは、最優秀賞の発表です!


机に乗って触れた放課後
短歌に限らず創作作品は、ノンフィクションと銘打っていなければ、本当にあった話かどうかはわかりません。ただ、この竜泉寺さんの一首は、本当にあったのではないかと思わせる手触りがありました。
まず、「あなた」が学校の天井に穴をあけたという状況。壁ならともかく天井です。型から外れたことをやりがちな10代ならでは、という感じがします。
悪ふざけや感情の昂りなど、なにかしら強い衝動があって「あなた」は天井に穴をあけたのでしょう。
この短歌の主体は「あなた」のことを特別に思っているようです。「あなた」の感情の証である天井の穴に触れたいと思い、放課後、誰もいない教室で机に登って穴に触れた。「あなた」の感情に触れたいという一心で奇妙な行動をしています。これもまた、型から外れたことをやりがちな10代ならでは、です。
「あなた」と「穴」の音の重なりも興味深いものです。主体は「あなた」には触れられなくとも、机に登れば「穴」には触れることができます。また、穴をあけるの「あける」は「開ける」「空ける」どちらを選ぶか迷うところです。この一首では「開ける」を選んだことで、どこかにつながるような、未来に続きそうな予感をもたらしています。
続いて、優秀賞2首です。


帰宅部だって炭酸を飲む
清涼飲料のCMでは、制服姿の10代が爽やかな顔で炭酸を飲むシーンがよくありますよね。部活終わりに友人と飲むようなイメージです。
そうはいっても、そんな理想通りの爽やかな青春ができる中高生なんて、どれほどいるでしょうか。もちろんいるでしょうが、そうでない人だって多いものです。帰宅部だって友達がいなくったって、誰にも誘われなくったって、炭酸を飲む。大人のイメージ通りにならないことが青春そのものでもある、ということを思い出させてくる一首です。


どの青色かを尋ねてみたい
青春というテーマから「春」や「青」という言葉を詠んだ作品も多く寄せられました。そのなかでもこの一首は、キーワードをうまく使っているだけでなく、繊細な感情を表現している点が魅力的でした。
「春色」というとピンクや黄色などの暖色を連想する人が多いのではないでしょうか。「青」を思い浮かべる人は少ない気がします。でも「その人」は青だと言い、そのことがこの短歌の主体には印象的だったのでしょう。その人が主体にとって特別になった瞬間かもしれません。
「どの青色かを尋ねてみたい」とは、つまり「尋ねていない」ということです。「どんな青色?」と気軽に聞けるような間柄ではないことがわかります。聞いてみたい、もっと話を聞きたい、という感情があふれでている部分です。