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どこまでが盗作か8:ボーダーラインは ケース・バイ・ケース(北澤尚登インタビュー)

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表現とアイデアの区別に要注意

――著作権法とはどのような法律で、どのような目的があるのでしょうか。

 著作権法は著作物、すなわち「創作的表現」を保護する法律であり、表現の前段階の「アイデア」や単なる事実は保護されません。アイデアにまで保護(つまり独占)を認めてしまうと、かえって多様な創作の妨げになりかねませんので、創作と利用の調和を図るために、このような法制度になっています。著作権の究極の目的は、文化の発展にあります。

――単に広く権利を認めて保護すればよい、というわけではないのですね。

 著作権を認めるということは、その表現を特定の者に独占させることにつながりますから、他の人々の表現活動が不自由になってしまわないか、という社会的な影響を考慮する必要があります。保護と利用(の円滑化)のバランスを、実質的に判断していくことが望ましいでしょう。

――「表現」と「アイデア」との区別といいますが、標語などの短いフレーズではどうなるのでしょうか。

 たとえば、交通標語の「ママの胸より チャイルドシート」が、
「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」の著作権侵害となるか否いなかが裁判で争われ、判決では創作的表現は共通していない(類似性なし)と判断されたケースがあります。

――微妙ですね。

「チャイルドシートの安全性を、限られた文字数の中でわかりやすく、かつリズムよく伝える」という制約があれば、表現の選択肢がかなり限定されてくることは否めません。この例などは、アイデアと表現が一体化している、つまり
「同じようなアイデアであれば、同じような表現にならざるを得ない」という側面が強いと言えるように思います。このような場合には、類似性(ないし著作権侵害)を広く認めるとアイデアの独占につながる危険もあるため、この判決のような結論になったのではないでしょうか。

著作権侵害の判断のメルクマールは「類似」と「依拠」

――著作権のある作品と類似または同一の作品が、同時期に偶然世に出た場合はどうでしょうか。

 偶然であれば著作権侵害とはなりません。先ほどの標語のケースでは「創作的表現が共通するか否か」、つまり「類似性」の問題としてとらえましたが、著作権侵害が認められるためには、この「類似性」のほかにもう1つ、「依拠性」という要件が充たされる必要があります。「依拠」というのは、既存の著作物に「基づいて」(見たり聴いたりして)別の作品を書いたりすることですが、「類似」していても「依拠」していなければ、著作権侵害にはなりません。

――「偶然」と言って通るかどうか、という問題もありそうです。

 裁判になった場合には、裁判官は現場を見ているわけではないので、「依拠」があったかどうかは、状況証拠を含めて判断するしかない場合も多いでしょう。
 裁判例では、楽曲「記念樹」(服部克久)が「どこまでも行こう」(小林亜星)の著作権侵害となるか否かが争われた事件の控訴審判決で、後者の楽曲が前者の作曲当時において著名な楽曲であったことや、「依拠したと考えるほか合理的な説明ができないほどの……顕著な類似性がある」(つまり、偶然ではあり得ないほど似ている)ことなどを理由として、「依拠」が肯定されています。

二次創作は著作権侵害? しかし、翻案が文化を発展させることも

――誰かが書いた小説を小説にするのも翻案権に抵触しますか。

 同じ形態であっても、元の小説の創作的表現の部分を残しながらアレンジするのは翻案権の侵害になり得ます。

――オマージュやパロディーは著作権法上、問題になるでしょうか。

 創作性のある表現が用いられていない場合は、侵害とはならないでしょう。用いている場合は、著作権法上の「引用」にあたらない限りは適法というのは難しいかもしれませんが、権利者があえて異を唱えないことで事実上許容されている範囲もかなりあるのではないでしょうか。これは「寛容的利用」と呼ばれることもあります。

――二次創作は違法ですか。

 著作権者の許諾を得ずに翻案や改変を行えば、著作権侵害や著作者人格権(同一性保持権)の侵害になります。

――著作権侵害とされた場合、具体的にどうなるのでしょうか。

 民事的には差し止めと損害賠償、それから刑事罰もあり得ます。損害賠償の金額は一概には言えませんが、「権利者が許諾をする場合に請求したであろう金額」が一つの目安にはなります。その金額だけでは「無断で利用して、侵害が発覚したら払えばいい」というモラルハザードを招く危険性もありますから、プラスアルファはあり得ます。

――黙認されている二次創作も多いように思います。

 TPPなどの関係で、著作権の「非親告罪化」が議論されてきましたが、親告罪でなくなるということは、権利者が許容していても第三者からの通報などによって刑事事件化する可能性が生じることを意味します。翻案によって文化が発展するという側面もありますので、一律の非親告罪化は行き過ぎではないかという見解も十分あり得るでしょう。

 

北澤尚登

東京大学法学部、米国デューク大学ロースクール卒。ニューヨーク州弁護士。著作に「デジタル広告クリエイティブの肖像権・著作権 実務必修のチェックポイント」(宣伝会議 2016年8月号)など。

 

著作権とは?

福沢諭吉が「COPY RIGHT」を版権と訳し、その思想を広めた。旧著作権法は明治32年制定、現著作権法は昭和45年施行。
保護対象は創作的表現であり、小説・脚本、音楽、美術、建築、図形、映画、写真、コンピュータープログラムなどがある。「創作的」といっても高度の芸術性が要求され
るわけではなく、幼児の絵なども著作物になり得る。

著作財産権

著作物を利用する権利。財産権の一種で
あり、譲渡することもできる。いわゆるⒸ
表記「Ⓒ+名前+西暦」がなくても、著作
権は発生し得る。

著作者人格権

公表権、氏名表示権、同一性保持権(著作
物の変更、切除、改変などを禁止できる権
利)等がある。著作者人格権は譲渡できず、
著作財産権が譲渡されても著作者人格権
は著作者に残る。

著作権に含まれる各種権利

複製権

著作物を再製する権利。

上演権・演奏権 

公に上演、演奏する権利。

上映権 

公に上映する権利。

公衆送信権 

放送したりネットにあげる権利。

口述権

口頭で公に伝える権利。

展示権

美術、写真を展示する権利。

頒布権 

映画を公衆に譲渡・貸与する権利。

譲渡権 

映画以外の複製物を譲渡によって提供する権利。

貸与権 

映画以外の複製物を貸与によって提供する権利。

翻訳権・翻案権等 

翻訳・編曲・変形・翻案する権利。

二次的著作物の利用権 

二次的著作物を利用する権利。

 

※本記事は「公募ガイド2018年2月号」の記事を再掲載したものです。