2019年3月号特集SPECIAL INTERVIEW 令丈ヒロ子さん(児童書作家)
大人が買い与える本から、子どもが自分の意思で買う時代に
1990年代前半まで、子どもはあまり本を買わなかった。子どもが買うのは漫画週刊誌で、児童書は親が買い与えていた。
出版社も、どうせ親が買うのだからと体裁はハードカバーにし、価格も1500円ぐらいとした。そして、「推薦図書になるようなものを書いてください」と作家に要望した。
時代が変わったのは2000年前後。この頃になると価格帯の安い文庫レーベルが誕生する。そこに来て、2001年に文科省が「朝の読書運動」を推進した。子どもたちは好きな本を持ってきて始業前に読むわけだが、自分で選ぶとなれば推薦図書なんて買わない。買うのは面白い本だ。
「子ども騙し」という言葉があるが、子どもは正直。子どもこそ騙せない
令丈ヒロ子さんも、子どもたちに絶大に支持されている児童書作家。人気シリーズ『若おかみは小学生!』は、交通事故で両親を亡くした織子(通称おっこちゃん)が祖母の旅館を継いで若女将修業をするというストーリー。シリーズは累計300万部発行、テレビアニメ化、映画化もされた。
令丈さんは、かつて公募ガイド(2006年12月号)の誌面で、魅力的な児童書についてこう語っている。
「年少読者だからこの程度で喜ぶだろう、というような上から目線、『これを学びなさい』『私が知っている素晴らしいことを教えてあげるわ!』的な空気が漂うと、たとえ本当に素晴らしいことが書いてあっても、読者は読みにくいのではと思います。また、『子どもの感覚は純粋で素晴らしい!』と子どもを持ち上げるような空気も、年少読者は落ち着かないと思います」
子どもの判断基準は「面白いか、面白くないか」しかない。「面白くないけど、有益だから読もう」とか、「〇〇児童文学賞を受賞した本だから読もう」などとは思わない。「子ども騙し」という言葉があるが、子どもこそ騙せないのが児童書の世界だ。
児童書作家は間口が広がっている大人向けの小説を書いている人も注目!
令丈ヒロ子さんは、そんな児童書が“冬”の時代にデビューした。
再び、2006年の誌面から引用(抜粋)しよう。
「私はコメディーが大好きで、『笑い』が大好きでした。担当編集者に、『コメディーというのはあまり書ける人がいないから、この方面で頑張ってみますか』と言ってもらえ、1年に4冊という異例のペースで出版してもらいました。ところが、当時は全部ハードカバーの出版でした。価格の問題、書店の棚のスペースの問題などで全然売れなかったのです。業界内では評価されたのですが、とにかく子どもが買ってくれない」
その後、青い鳥文庫に書き下ろすようになり、その中で『若おかみは小学生!』が大ヒットした。
現在の児童書はどんな状況なのだろうか。令丈ヒロ子さんは、今回の公募ガイドの取材の中でこう語っている。
「今は児童書作家のデビューの間口がとても広くなっています。テーマもLGBTや毒親といったものをストレートに書いても受け入れられる土壌があります。だからこそ、昔の児童書のイメージで児童書らしく書こうとせず、笑わすならギャグ満載にするとか、SFが好きならとことん突き詰めるなど、自分が何を表現したいのか、何が得意なのかがわかる世界を書いてほしいと思います。チャンスは大いにあります」
令丈ヒロ子(児童書作家)
1964年大阪府生まれ。嵯峨美術短期大学卒。講談社児童文学 新人賞に応募した作品でデビュー。2003年に刊行が始まった 『若おかみは小学生!』シリーズは累計 300万部。2018年4月に はテレビ東京でアニメ化、9月には劇場アニメ化。愛媛県に実 在する水族館部を取材し、そこを舞台に描くドキュメント小説 『長浜高校水族館部!』を、2019年3月に発売予定。