あなたとよむ短歌 vol.55 テーマ詠「アルコール」結果発表 ~感情と連作~(1/3)
テーマ詠で短歌を募集し、歌人・柴田葵さんと一緒に短歌をよむ(詠む・読む)連載。
(『母の愛、僕のラブ』より)
テーマ詠「アルコール」結果発表
~感情と連作~
短歌を読む・詠む連載、「あなたとよむ短歌」。
今回はテーマ詠「アルコール」の結果発表です。
今回のテーマは「酒」ではなく「アルコール」だったことがポイントかもしれません。飲酒に関する作品だけでなく、たとえばアルコール消毒について詠んだ作品も寄せられました。
また「アルコール」は5音なので、57577のリズムに取り入れやすい単語でもあります。「あなたとよむ短歌」はテーマ詠なので、テーマの単語をそのまま詠みこむ必要はありませんが、5音であることを生かした作品も多かったように感じました。
今回は、投稿者の方からよせられた質問もご紹介しています。ぜひ入賞作品とあわせてお読みください。
母も母だと今なら分かる
なんとなくですが、台所で飲んでいるような姿が浮かびました。家事育児には際限がなく、朝起きたところから夜眠るまで続きます。一日の大半が過ぎ、あと一息がんばらないといけない夕暮れの時間帯に、小さなコップに一杯だけ酒を飲む姿は、いわゆる正しい母親像からはずれているかもしれません。けれども、とてもリアルな気がします。
投稿者のレクどんさんから「母が夕暮れ時にいつもお酒を飲む、それも隠れるように、それが嫌いで嫌いで仕方なかった。その当時を思い出し詠みました」というコメントが添えられていました。「母親らしさ」から離れている行動には、子どもが嫌悪感や不安感を抱くこともあるかもしれません。嫌だったなあ、という記憶はそのままでも「今ならわかる」と理解できるようになったこと自体が、親子ともども二度と戻らない時間経過を示しています。
続いて、優秀賞2首です。
毎年綴る文集がある
本当にこのような文集が存在するのどうかはわかりませんが、治療の一環として文章を綴るケースはありそうな気もします。文集というからには、複数の人が参加しているのでしょう。「文集がある」という事実(短歌のなかにおける事実)を述べるにとどまり、その内容や感想などに一切言及しないことで、かえってその真実味と存在感が放たれている一首です。
「毎年綴る文集」という言葉の選び方について考えてみましょう。「文集」を修飾するのだとしたら「毎年綴られる文集」の方が自然です。「毎年綴る文集」とする場合、「誰が」綴るのか主語がない状態になっています。
私は、これは短歌表現としてプラスに働いていると感じました。「アルコール依存治療の病棟で毎年(誰かが)綴る文集がある」のなかの(誰かが)が消えていることで「綴る人=アルコール依存治療を受けている人」に匿名性が生じます。誰でもその可能性がある、私もあなたもその可能性がある、という読み方も可能だと思いました。
そののち話者が落ちた水田
なんといっても「そののち」という言葉選びが面白すぎる一首です。「アルコール2%はジュースだよ」という、おちゃらけた発言のあとに、ナレーターのように淡々と「そののち」と語られるオチ。「話者」「水田」という固めの漢字表現を使っているのも、妙に冷静で笑いを誘います。「そののち話者は水田に落ちた」ではなく「そののち話者が落ちた水田」と、結局は人間ではなく水田を紹介している点も、最初から最後まで面白いですね。水田は心配ですが……。