NO KOUBO,NO LIFE. 盗め!公募の極意 作家インタビュー編
※本記事は2015年9月号に掲載した記事を再掲載したものです。
『アノニマス・コール』薬丸岳さんに聞く
物語を作る姿勢が甘かったと思い知らされてから取り組んだこと
——小説家になる前にいろんなことにチャレンジされていますね。劇団にいたこともあるとか。
実は若い頃、自分で物語を作って自分で演じることに憧れていました。高校卒業後、東京キッドブラザースというミュージカル劇団を受けて合格し、研究生になりました。でも、演じることが合わないとわかって。半年して辞めましたね。
——その後、シナリオの学校に通われていますね。
体を動かすより、頭の中で物語を考えるほうが資質に合っているのではないかと思ったんです。そこで映画が好きだったこともあり、シナリオの勉強を始めました。でも、独学に限界を感じて、シナリオの学校に1年半くらい通いました。
公募ガイドを見ながら、フジテレビ「ヤングシナリオ大賞」やTBSの「連ドラ・シナリオ大賞」に応募していました。でも、1次か2次を通過するかしないかという状態が20代後半まで続きましたね。
——焦りはなかったのですか。
ドラマのシナリオで結果が出ないので非常に焦りがありました。冷静な判断ができなくなり、なんでもいいから賞が欲しいと、公募ガイドを読みあさって「絵本大賞」とか全然関係ないジャンルに出そうとした、そんな時期もありました。
——マンガ原作にも応募されたそうですね。
その頃、友人からマンガ原作という手もあるんじゃないかとアドバイスを受けたので挑戦してみたんです。集英社の『MANGAオールマン』という雑誌に応募して、初めて佳作をとり、もう一回出したらまた佳作を頂いた。それが1回読み切りのマンガになりました。でも、その雑誌も廃刊になってしまった。その後、『週刊ヤングジャンプ』のマンガ原作大賞に出して佳作を頂いたのですが、話がなかなか進まず連絡もなかった。マンガ原作も厳しいよなと、また行き詰まりを感じました。
——その後、小説家を目指そうと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
非常に悶々とこれからどうしたらいいのだろうと悩みました。その頃、契約社員で仕事をしていたのですが、通勤電車の中で江戸川乱歩賞受賞作の『13階段』という小説を読んで非常に衝撃を受けたんです。アマチュアにこんな作品が書けるなんてすごい!と感動しました。と同時に、自分が十数年目指してきた、物語を創ることへの姿勢が、どうしようもなく甘かったと思い知らされました。
——創作の厳しさをわかったうえで、改めて小説家を目指そうと思われた。
これくらいのものを作れないとプロにはなれないんだなと痛感しました。それまで小説を書いたこともないし、すごく読むほうでもなかったけど、ゼロから勉強し直して、自分がきちんと納得できるレベルの小説を作って乱歩賞に出そうと。それを目標にして、1年8ヵ月かけて『天使のナイフ』を書きあげました。
——ゼロからどうやって小説を書きあげたのですか。
まず小説がどういうものかわからなかったので、今まで読まなかったような作品を含め、できる限りまんべんなく読みました。プロットも10パターン以上作って検討しましたね。また、シナリオでは1時間ドラマで50枚くらいですが、乱歩賞は原稿用紙550枚。その分量を書くという感覚がわからなかったので、東野圭吾さんの本を1冊丸ごと書き写しました。これがけっこう大変でしたね。でも、ゼロから始めて、自分で書くことの大変さがわかりました。
——ほかにはどんなことを?
シナリオはカメラに映らない内面は書けませんが、小説は内面を書かないといけない。その描写の敷居が高かった。まず書くことへのためらいをなくすために1日1枚何か写真を撮って、それを3行でもいいので文章に起こすという練習を毎日やっていました。仕事をしながらなのでかなり大変でしたが、あの頃は『天使のナイフ』を良いものにするために、熱に浮かされたように取り組んでいました。
——1回目の応募で見事大賞をとられましたね。デビュー後の苦労は?
それまでは、デビューすることはなぜこんなにも大変なのだろうと思っていた。
でも実際デビューするとその何十倍も厳しいです。そこは公募ガイドの読者に一番伝えたい。新人賞はアマチュアだけの勝負。だけどプロになると東野圭吾さんや宮部みゆきさんと同じ本棚に並んで戦わなきゃいけない。いろんな先輩や編集者からの刺激を受けながら自分自身を鍛え、変化・成長しないといけないと思います。
——最新作『アノニマス・コール』は今までとかなり違う作風ですね。何か心境に変化が?
今までの僕の作品は、社会問題を扱ったちょっと重いイメージでした。まずは自分が伝えたいことを書いていたんです。
でも、今回は、自分が見たい、読みたい、どエンタメな作品を作りました。アクション映画が大好きなので、仕掛けや見せ場をこれでもかと盛り込んでいます。
20ページ読んだらとまらなくなると思いますので、とにかく楽しんでいただきたい。
——公募ガイドの読者へメッセージをお願いします。
若い頃、自分は天才だと思っていましたが、今思うとよくそんなことが思えたなというくらい才能がなかった(笑)。それでも小説家になれたのは、あきらめなかったことが一番大きい。若くしてデビューできなくても50代、60代でデビューする方もいるので、それまであきらめないでほしい。そのためには挑戦し続けられる生活設計のことも考えたほうがいいですね。少しでも早くデビューしたいでしょうが、一概にそれが良いとも限らない。デビューしたらもう待ったなしで自分の能力をシビアな形で見定められます。
デビューするまでに知識や技術を蓄積し、武器を身につけてください。
薬丸 岳 やくまる・がく
1969年兵庫県生まれ。05年『天使のナイフ』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』が人気を博し、13年『刑事のまなざし』はTBSにてドラマ化。12年フジテレビにて『悪党』、15年WOWOWにて『天使のナイフ』がドラマ化される。その他、『ハードラック』『友罪』『神の子』『誓約』など著書多数。
※本記事は2015年10月号に掲載した記事を再掲載したものです。