第二次世界大戦下の"忘れられた少女たち"の真実 小林エリカ『女の子たち風船爆弾をつくる』が毎日出版文化賞を受賞
戦時下の日本で、少女たちが秘密裏に携わっていた兵器製造の実態に光を当てた『女の子たち風船爆弾をつくる』(著:小林エリカ)が、第78回毎日出版文化賞(文学・芸術部門)を受賞した。本作は、宝塚歌劇に憧れ、華やかな夢を抱いていた少女たちが、戦争という時代に翻弄されていく姿を克明に描き出している。
物語は日露戦争30周年の春から始まる。クリスマスを祝い、フリルのワンピースに身を包み、宝塚少女歌劇に胸を躍らせる少女たちの日常が生き生きと描かれる。しかし、その平穏は戦争の足音とともに少しずつ崩れていく。待ち望んでいたオリンピックは中止となり、憧れの制服は国民服へと変わり、夏休みには勤労奉仕が課せられる。
そして物語は、東京宝塚劇場が中外火工品株式会社日比谷第一化工紙工場へと姿を変え、少女たちが「ふ号」兵器(風船爆弾)の製造に従事することとなる衝撃的な展開を迎える。著者は膨大な記録と取材から掬い上げた「彼女たちの声」を丹念に紡ぎ、詩的な筆致で長編小説として結実させた。
小林は受賞に際し、「戦後40年近く『歴史』からなかったことにされていた風船爆弾と、それを作った少女たちの生を決して忘れないために」との思いを語っている。1978年東京都生まれの小林は、『マダム・キュリーと朝食を』『トリニティ、トリニティ、トリニティ』など多数の著作で知られる作家だ。
本書は2023年7月から11月にかけて「文學界」に連載され、2024年5月に単行本として刊行された。戦時下の少女たちの知られざる物語は、現代に生きる私たちに歴史の重みを静かに問いかけている。