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芥川賞受賞者は林芙美子文学賞出身
今週の水曜、1月15日に第172回(2024年下半期)の芥川賞と直木賞が発表になった。
芥川賞は既刊ではなく、雑誌に載った純文学の短編または中編が対象となっている。
掲載された雑誌は「文學界」「新潮」「群像」「文藝」が多く、これらの文芸誌が持つ文学賞、すなわち、文學界新人賞、新潮新人賞、群像新人文学賞、文藝賞の出身者が交代で芥川賞を受賞している様相だ。
ところが、今回の芥川賞の一人、鈴木結生さんの受賞作は朝日新聞出版の「小説トリッパー」に掲載されたもの。「小説トリッパー」は第161回(2019年上半期)芥川賞のときも今村夏子さんの『むらさきのスカートの女』を掲載している。「小説トリッパー」はちょっと気になる存在だ。
鈴木結生さんは林芙美子文学賞で佳作に入選し、その受賞作「人にはどれほどの本がいるか」が小説トリッパー2024年春季号に掲載され、その流れの中で小説トリッパー2024年秋季号に掲載された「ゲーテはすべてを言った」で芥川賞を受賞した。
ちなみに、前回(第171回)の芥川賞を『サンショウウオの四十九日』で受賞した朝比奈秋さんも林芙美子文学賞の出身者。地方文芸がこんなにプロを発掘するのは、以前あった九州さが大衆文学賞以来ではないだろうか。
この九州さが大衆文学賞は2017年をもって終了してしまったが、今年、同賞を復活させたのが、出身者でもある今村翔吾さんだ。
しかも、単に地方文芸ということだけでなく、文学賞を持てない出版社も審査員として参加すれば、最終審査で新人を指名することができるという応募者にも出版社にもウィンウィンな新しい文学賞だ。
将来的に林芙美子文学賞出身者から芥川賞作家が、日本ドラフト文学賞出身者から直木賞作家が同時にでるということがあったら、地方文芸は大いに盛り上がるとともに、今よりもっと見直されるのではないかと思っている。
日本ドラフト文学賞の詳細はこちらをご覧ください。

第172回(2024年下半期)芥川賞・直木賞決定
2025年1月15日に第172回芥川賞の選考委員会が開催され、安堂ホセ「DTOPIA」と鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」が授賞作に決まった。
安堂ホセさんは2022年に文藝賞を受賞してデビューし、受賞作『ジャクソンひとり』が第168回芥川賞候補に。さらに『迷彩色の男』も第170回芥川賞候補となっており、今回の第172回が三度目の正直だった。
鈴木結生さんは、2024年に西南学院大学を卒業。同年、林芙美子文学賞の佳作に入選し、受賞作「人にはどれほどの本がいるか」が2024年小説トリッパー春季号に掲載。さらに2024年小説トリッパー秋季号に掲載された「ゲーテはすべてを言った」で芥川賞を受賞した。
安堂ホセ
1994年生まれ。2022年『ジャクソンひとり』で第59回文藝賞を受賞。
鈴木結生
2001年生まれ。2024年、「人にはどれほどの本がいるか」で第10回林芙美子文学賞佳作を受賞。
一方、同日に別室で行われた第172回直木賞の選考の結果、伊与原新さんの「藍を継ぐ海」が授賞作に決まった。
伊与原新さんはミステリーの作家としてデビューしたが、ミステリー以外のジャンルも手がけ、2024年には『宙わたる教室』がNHKでドラマ化され、人気となっていた。
伊与原新
1972年生まれ。神戸大学理学部卒。東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。博士(理学)。富山大学理学部助教を経て、2010年『お台場アイランドベイビー』で第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞。
「芥川賞・直木賞って何!?」の詳細はこちらをご覧ください。