第42回「小説でもどうぞ」選外佳作 リゾート 田辺ふみ


第42回結果発表
課 題
手紙
※応募数385編
選外佳作
リゾート 田辺ふみ
リゾート 田辺ふみ
暑い。
眩しい日差しに目を覚ますと、日光が思いっきり当たっている。
「うわっ、日除けの意味ない」
寝過ごしたせいで太陽が動いたようだ。枕元に置いていた
「あああ、
私はハンモックから降りると、うんと伸びをした。
「シエスタって言うんだっけ」
仕事に追われ、残業続きだった頃はスペインの昼食後に午睡を取るという習慣に憧れたものだった。
それが今では毎日、楽しめる。
時間を気にすることもない。デジタルデトックスというやつだ。スマホはいらない。ただ、自然を楽しむ。
「晩ご飯は魚にしようかな」
銛を手に取った。ダイビングでも釣りでもいいから、海に行きたい。そう、海に憧れても、遠い夢だったのが嘘のようだ。ここでは私でも簡単に魚が取れる。
ビーチは歩いてすぐだ。
海の水がきれいで透明度が高い。初めて素潜りで入った時、たくさんの魚に包まれて、自分は歓迎されているんだと嬉しかった。
砂浜につくと、漂流物がまた、増えていた。
意外と変なものがたどり着くので眺めていると面白い。
「ん、何だ?」
何かがキラリと光った。
近づいて見ると、それはウイスキーの空き瓶だった。ラベルは汚れているが、まだ、読める。私も知っている銘柄、シングルモルトの旨いウイスキーだ。
「おいおい、25年ものじゃないか」
12年ものしか、飲んだことがないのに。
蓋を開けると、芳醇な香りがかすかにした。
ごくりと喉が鳴る。飲みたい。長い間、アルコール抜きの健康な生活を送っていたからなあ。
瓶の中に紙が入っているのに気づいた。そろそろと引き出し、広げてみる。メモ帳をちぎったような紙だ。
『SOS!』
大きな文字が目に入った。その下に小さな字が続いている。
『そうなんして島に流れついた。助けてくれ。岡本拓海』
日本語の文字。遭難という漢字は書けなかったらしい。そして、最後にもう一度、大きく『HELP』の文字。
ボトルメールだ。本当に瓶詰の手紙が届くことがあるんだ。
しかも、同じ日本人。何とかして助けたい。
「でもなあ」
デジタルデトックス中の身。通信手段は持っていない。
どうすればいいんだろう。
ウイスキーの香りが残っていたということは古い手紙ではないだろう。今も助けを求めているんだろう。
気持ちを切り替えて楽しめたらいいんだが、誰でも最初は無理だろう。キャンプの経験があれば、助かることも多いのだが。
遭難してまだ発見されていないということはこの海域の近くかもしれない。それなら、少し探しに行ってみようか。
私は舟を置いてある場所に行った。
「ダメか。置きっぱなしにしてたからな」
カヌーの形に仕上げた舟は私の力作だ。近くの島は巡ったことがある。でも、一番、居心地のいいのはこの島だった。それに、遠くまで行くのは不安があったせいで、使うこともなく置きっぱなしにしていた。
白アリのせいだろうか、舟は触ると、ボロリと崩れた。
「作り直すか」
あの時の苦労を思い出すと、ため息が出る。舟ではなく、筏なら、もっと簡単だろうか。いや、筏で別の島を目指すのは危険すぎるだろう。
「まあ、この舟が使えたとしても、この格好じゃ、人と会うわけにはいかないな」
私は自分の体を見た。人に会わないことをいいことに上は裸だ。ストレスのない健康的な生活のせいか、歳はとったが、若々しいと思う。きれいに日焼けして、筋肉のついた体はなかなかのものだと自画自賛する。
でも、下は腰蓑。
これではただの原始人だ。
ヤシとか、植物から布を作るのはハードルが高い。漂着物で使えそうなものというと、ビニールシートぐらいか。
「原始人でいいじゃないか」
すぐに助けたいと思ったが自分の気持ちを大切にしたい。岡本拓海さんに会ってみたい。やはり、十年も一人で暮らしていると寂しくなったのかもしれない。独り言ばかり言っている自覚はある。
「不思議だな。助けを求めているだけなのに」
これは私に出された手紙だと思う。
そうだ。岡本さんの気持ちがわかるのは私だけだろう。
海で遭難した恐怖。島にたどり着いた時の安堵。水や食料を確保できた時の喜び。そして、助けが来ない焦り。
そして、岡本さんはまだ知らないのだろう。その後に来る諦めとこの生活を楽しむゆとりを。リゾートと思えば、これほど素晴らしいところはない。
「慣れるといいところだぞ。もっと、楽しもう」
そう言って、岡本さんの肩を叩いてやりたい。
私は舟を作り直すための材料を探しに森に入っていった。
「そういえば、私が出した手紙は今、どこにあるんだろう」
安いジンの瓶だった。薄い茶色だったから中身に気づかれなかったんだろうか。私が助けを求めた手紙は誰にも読まれることなく、まだ、海を漂っているのかもしれない。
(了)