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第42回「小説でもどうぞ」選外佳作 ラブレターが渡せない ササキカズト

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小説でもどうぞ
第42回結果発表
課 題

手紙

※応募数385編
選外佳作 

ラブレターが渡せない 
ササキカズト

 君のことが好きです。
 四年生のときに同じクラスになってから好きでしたが、五年生でも同じクラスになれて、もっと好きになりました。どれくらい好きかということを、じょうずに言いたいのですが、どういうふうに書いたらいいかわかりません。ぼくがもっと文章がうまければいいのに。

 きのうの夜、この手紙を書いていたら、おそい時間になってしまって寝てしまいました。それで今日の放課後、君に直接ぼくの気持ちを言ったら、君もぼくを好きと言ってくれて、とてもうれしかったです。最高にしあわせな気持ちになりました。でも、どれくらい好きかをうまく言えていないので、なんとかがんばって文章にしてみます。

 きのうもまた、途中まで書いて寝てしまいました。ふつうなら、こういう手紙はちゃんと書き直したほうがいいのだろうけど、何日もかけて君への気持ちを手紙にしようとしたことも、ぼくの気持ちだと思うので、このまま続けたいと思います。そして、いい文章が書けたら、ちゃんとわたします。

 手紙が完成しないまま日曜日になってしまいました。今日は、ぼくのうちに初めて遊びに来てくれたね。いっしょにゲームとかで遊んで、とても楽しかったです。君といっしょにいると本当に楽しいです。どんなに楽しくて、どんなに君が好きかをちゃんと書いて、誕生日とか、大切な日とかに、わたしたいと思います。

 今日、机の引き出しから、ひさしぶりにこの手紙を見つけました。あれから半年もすぎてしまって、ぼくたちはもう六年生です。日記みたいな変な手紙ですが、ぜったいに続きを書いて完成させて、もうすぐ君の誕生日なので、君にわたしたいと思います。

 ぼくは本当にダメな男です。この手紙は君の誕生日に完成せず、わたせませんでした。というか、手紙を書くのを忘れて、また半年すぎてしまいました。引き出しにしまうと忘れてしまうのです。今度こそ完成させて、卒業式の日にわたしたいと思います。中学生になってもよろしくと、あらためてぼくの気持ちを伝えられたらと思っています。それでは、今から書きます。君への気持ち。

 ぜんぜん書けていないまま、もう中二になってしまった。こんな手紙はずかしくて渡せるわけがない。でもなぜかまた続きを書いている。君はテニス部で、僕はバスケ部。部活も勉強も忙しくなって、小学生のときみたいに遊べなくなってしまったけど、たまに家でいっしょにDVD見たりとか、デートをしたりしていると、やっぱり君のことが好きだなあと思う。もう小学生のときみたいに簡単に好きなんて言えなくなったけど、この手紙を読み返すと、純粋に君を好きだった気持ちを思い出す。やっぱりいつか大切な日に、この手紙を渡すというのはありかもしれない。それより今は勉強がんばらなきゃ。がんばって君と同じ高校に行く。それが今の僕の目標だ。

 この手紙を忘れている間に、別々の高校になってしまった。なかなか会えなくなってしまって、僕たち今、付き合ってるって言えるのかな。もっと会いたい。君と同じ大学に行けるように今度こそ勉強を頑張る。そして合格発表の日に、この手紙を完成させて渡そう。

 すっかりこの手紙のことを忘れて、大学四年生になった。今は東京で、君と同じ大学。お互い就職も決まっている。社会人になって、安定した生活が送れるようになったら、結婚したいと思っている。プロポーズのときに、この手紙を完成させて君に渡そう。小学生のときから、ずっとずっと好きだった君へ。

 二十七歳で君と結婚し、今、三十三歳になった。息子が五歳と三歳。本当に幸せだ。どうでもいいけどこの手紙、僕が渡し損ねる歴史をただ記録した内容だ。でも君への気持ちだけは詰まっている気がする。今度の結婚記念日に渡そう。今度こそ渡そう。

 こんな手紙があったなんてすっかり忘れていた。息子らもそれぞれ結婚して孫もでき、仕事も定年をむかえた。それにしてもこの手紙、渡せないにも程がある。特別な日に渡そうとするから、逆に忘れてしまうんだ。明日渡そう、そうしよう。
(以上、引き出しの中の手紙)

「あ、そうだ。また忘れてた」
 ベッドで横になっている私が言うと、見舞いに来ている妻が「何を?」と尋ねた。
「君の名前が書かれた封筒が書斎の引き出しに入っている。受け取って欲しいんだ」
「来週には退院なんだから、帰ったら直接ください。完成したの? あの手紙」
 妻は笑いながら言った。
「あの手紙って……読んだのか?」
「ごめん。実は初めて遊びに行った小学生のとき、読んじゃってる」
「ええ? 小学生のときに?」
「イタズラ心で引き出し開けて。あとは家に遊びに行くたびに。大学時代も、結婚してからもちょいちょい」
 まあ、彼女らしい。私も笑ってしまった。
「あの手紙、完成はしない。君を想う気持ちは、この歳になっても日々大きくなるばかりで、そもそも手紙になんて書けない」
「ありがとう。でも大丈夫。あなたはずっと言葉で伝えてくれたから」
「そうか。文章が苦手で話すほうが得意だから、そもそも手紙なんて必要なかったのか」
「でもやっぱりほしいわ。ラブレターもらったことないもの。あなたからは」
「あなたからは……って!」
「けっこうモテたんですからね、わたし」
 いつもより眩しい妻の笑顔。
「退院したらすぐに渡すよ、笑顔が最高に可愛い君に」
 私は、こういうことがふつうに言える男なのだ。
(了)